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「愚直」な取り組みが生んだ、セイコーが世界に誇るプロダクト「グランドセイコー」(3/3 ページ)

「愚直」という言葉がよい意味で使われることはあまりありません。しかし、「グランドセイコー」は「愚直」に取り組んだからこそなし得た、そんなプロダクトでした。

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でも、デジタルのほうが売れているのでは?

―― 個人的には、「グランドセイコー」のような製品はいつまでも残っていてほしいと思います。でも、やっぱり、世の中、デジタル時計のほうが売れているのではないでしょうか。ちょっと意地の悪い質問になりますが、「グランドセイコー」は売れていますか?

土屋氏 確かにリーマンショック以降、一時的に売上げが落ちましたが、2010年度以降は年々売り上げを更新していて、2011年度は過去最高の売上げを記録しました。2012年度もすでに2011年度の売り上げを更新しています。我々としても上向きの予想はしていましたが、その予想以上の売上げ実績でお客様に大変感謝しています。どうやら「良いものを長く使いたい」というお客様が増えているようなのです。

 そういう意識を持たれる方が増えているせいか、結納返しや大切な方への贈り物として「グランドセイコー」を選んでいただくといったケースもあります。また、以前は「いつかはグランドセイコー」と「将来の夢の時計」というイメージを持たれているお客様が多かったのですが、最近では若い世代のお客様でも、購入対象として見ていただく機会も増えています。やはり、「よいものを長く使いたい」という考え方をされるお客様が、確実に増えているのだと思います。

―― 安物買いの銭失いという言葉がありますし、自分も安物を買ってすぐ壊れて困ったという経験があります。身に着けていて気持ちのよい、高性能で丈夫な製品があるのなら、それを長く使いたいと思う気持ちは理解できます。最後に、「グランドセイコー」のおすすめ機種を教えていただけないでしょうか。

土屋氏 「グランドセイコー」はすべて自信を持って送り出していますが、その中からあえて選ぶとするとフラグシップモデルの「SBGA011」と、高い耐磁性能を持つ新モデル「SBGR079」になります。SBGA011はスプリングドライブのモデルで、SBGR079は機械式のモデルです。

 特に高い耐磁性能を持つモデルの「SBGR079」は、磁気製品に囲まれた現代の生活における実用性を追求したモデルです。昔は今ほど電子機器が普及していませんでしたので、磁気というものをさほど気にしないで済みました。

 しかし、現在ではスマートフォンのスピーカーに強力な磁石が使われていたりと、磁力の高いものの近くに腕時計が置かれるシーンも増えています。そこで、一般的な耐磁性能というと4800A/m(アンペアメーター)ぐらいのものが多いのですが、「SBGR079」には、8万A/m(アンペアメーター)という耐磁性能を持たせています。これもすべて「できるだけ多くの人に正確な時計を届ける」という方針に沿って、どんなときでも「正確な時計」を開発したということです。

 「グランドセイコー」をご愛用いただいているお客様は、目が肥えておられ、確固たるご自身の価値観をお持ちの方が多いという印象があります。それだけに、他の製品では許されるようなことでも、「これはグランドセイコーでしょ?」と非常に厳しい目で指摘いただくということがあります。

 そのため、日々、プレッシャーを感じずにはおれませんが、同時にやりがいも感じています。これからも、お客様の期待に応えられるよう、挑戦すべきところは挑戦しつつ、「できるだけ多くの人に正確な時計を届ける」という基本方針はブレずに貫いていきます。

画像 「グランドセイコー SBGA011」。ムーブメント、スプリングドライブ。ケース材質、ブライトチタン。精度、平均月差±15秒(日差±1秒相当)。価格57万7500円

画像 「グランドセイコー SBGR079」。ムーブメント、メカニカル 自動巻(手巻付き)。ケース材質、ステンレス。強化耐磁モデル。精度、平均日差+5秒から−3秒。52万5000円

画像 「グランドセイコー」を紹介する映像では、手作業による組み立て風景から、機械式モデルが秒を刻む様子までを確認できる。「グランドセイコー」の機械式時計は、1秒を8分割から10分割して運針しているため、1秒ごとに運針するクオーツ式時計よりも、なめらかな針の動きが確認できる

「正確な時計」のため新たな取り組み

 「グランドセイコー」ではありませんが、ソーラーGPS腕時計の新生「アストロン」にGPSを搭載したのも、やはり「正確な時計」を実現するためです。

―― 腕時計にGPSというと、自分の現在位置が表示されるのかなと思いますが、そのためのGPSではないということですか?

土屋氏 そうです。緯度、経度の表示機能はありません。現在、より正確な時計として、時刻の標準電波を受信し、正確な時刻に修正する電波時計が普及しています。しかしこの電波時計は、電波が受信できる地域でしか、その機能を果たせません。それは世界規模で見れば、ごく限られた一部の場所でしかないのです。

 また普通、時計を海外旅行に持って行くと、その土地に合わせて時刻を調整しなければなりません。しかし、時差というものは国や地域によって独自に決められており、すべての地域に対応するのは難しいことなのです。

 でも、それではいつでもどこでも「正確な時計」という観点からどうなのだろうと……。そこで、腕時計が自分で場所を調べてその場所に合わせた正確な時刻に調整する。そのためのGPSなのです。

 口で説明すると簡単ですが、開発は困難なものでした。ほかのGPS搭載機器を考えてみてください。ほぼすべてが充電式、あるいは大容量のバッテリーを搭載していると思います。GPSモジュールというのは電力を消費するのです。世界初のクオーツ腕時計開発の際もそうでしたが、大容量バッテリーを組み込むスペースのない腕時計の開発は、消費電力との闘いといえます。

 セイコーは懐中時計が主流だった時代に腕時計を、手巻きが主流の時代に自動巻きを、機械式腕時計の時代にクオーツ式腕時計を、アナログの時代にデジタルを、そして今回、電波時計の先をゆくソーラーGPS時計をと、時代を先取りした製品を生み出してきました。

 今回のソーラーGPS腕時計も、クォーツ腕時計と同じく、これからの腕時計のデファクトスタンダードに導きたいと思っています。その意味を込め、初のクォーツ腕時計「アストロン」と同じ名前を冠したのです。

画像 ソーラーGPS腕時計「セイコー アストロン」。GPSで得た位置情報をもとに地球全体を約100万個に分割したブロックの中から、該当するタイムゾーンの現在時刻を自動表示する

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