「次世代スマートウォッチ」をにらむカシオの過去と未来
現在、時計メーカーらしいウェアラブルデバイスを開発しているというカシオ計算機。同社が手がけるのは、どうやら新しいスマートウォッチのようです。樫尾俊雄発明記念館で開催される「時の記念日」特別展示の説明会で、スマートウォッチへの考え方が示されました。
カシオ計算機といえば、「他社にない、独自の価値を持った製品」を市場に提供してきた企業です。社名にもなっている計算機だけでなく、電子辞書や電子楽器、時計、デジタルカメラ、業務用機器、そしてかつての携帯電話など、さまざまな分野で、文字通り“ユニーク”な製品を開発してきました。
かつては多機能な腕時計を開発
そんなカシオが、時の記念日である6月10日から7月24日まで、同社の創業者で、元会長の樫尾俊雄氏が残した発明品を展示する「樫尾俊雄発明記念館」において、歴代の多機能時計の特別展示を行います。
展示に先駆けて報道関係者向けに開催された説明会では、カシオがこれまで手がけてきた、いろいろな技術と腕時計を融合した製品が披露されました。それらの製品には、スケジュール、アドレス帳、辞書、カメラ、オーディオプレーヤー、GPS、歩数計、脈拍数計測、ゲーム、PC連係といった、現在のスマートウォッチが搭載する機能が先駆けて搭載されていたのが目を引きます。
一方で、カシオ計算機は2004年に大きな方針転換を行いました。G-SHOCKのヒットを契機として、約30年間続けてきた多機能デジタル路線から、高機能アナログ路線に腕時計事業のかじを切ったのです。今では同社も高機能アナログ時計メーカーの一角を占め、最近では「スマートフォンで機能を高めたアナログ腕時計」という、興味深いアプローチの「EDIFICE EQB-500」や「EDIFICE EQB-510」などをリリースし、存在感を放っています。
言ってみれば、これまで培った技術やノウハウをベースに、スイスの老舗時計メーカーとも、振興のIT企業とも違う、独自のアプローチでスマートな腕時計を生み出しているのが、今のカシオなのです。
カシオが考えるスマートウォッチとは
そんな中、先日開催された社長交代会見では、会長に就任予定の樫尾和雄氏が「時計メーカーらしいリスト端末を開発している。2016年1月のCESで発表する」と発言し注目を集めました。「リスト端末」が具体的にどのようなものなのか、その場では示されませんでしたが、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスと考えるのが自然でしょう。
カシオが考えるスマートウォッチとはどんなものなのでしょうか。
カシオ計算機 取締役 専務執行役員 時計事業部長の増田裕一氏は、「スマートウォッチには、大きく3つの形がある」と言います。
その3つの形とは以下のようなものです。
- スマートフォンと常時連係して周辺機器のように使うもの
- 活動量計のような、単体でデータを取得して、スマートフォンやPCにデータを送るようなもの
- 時計の機能を高めるのにスマートフォンを使うもの
「Apple Watch」は1のアプローチ。そして現在のカシオは、EDIFICEのような製品で3のアプローチを採っています。カシオは腕時計としての使い勝手を基本としている点が、Apple WatchやAndroid Wearとは違うところです。
「デジタルだけでは難しいものを中身に持って、アナログとしての表現に変えていく。デジタルとアナログをつなげることで、スイスブランドとの違いも作れたし、クオーツができなかったこともできてきた。この流れはしっかり今後もやっていく」(増田氏)
ちなみに老舗時計メーカーは2のアプローチを採るところが増えている印象です。
昨今、IoTやウェアラブルデバイスの市場が有望視される中、そうした分野への投資が活発になり、電子部品や半導体が急速に進化して、誰でも部品を集めるだけでスマートウォッチが作れるようになってきたと増田氏は指摘します。ただ、「広く世の中に普及するためには、まだ何か生活に密着した、本当に必要なキーフィーチャーが出てこないと難しい」(増田氏)とも。だからカシオは、他社とは違う製品を作っていくといいます。
次世代スマートウォッチは新規事業として取り組み
では、カシオが現在開発中とされるスマートウォッチは、現在のアプローチの延長線上にあるものなのか、というと、どうやらそうでもないようです。
2016年1月に発表予定のスマートウォッチは、カシオ社内では新規事業として取り組んでおり、時計事業部とは別の部隊が開発に携わっているとのこと。
「新しいスマートウォッチは、(アナログではなく)デジタルからのアプローチになるので、時計の常識が邪魔をすることがあると思う。だから、完全に別のプロジェクトとして動いている」(増田氏)
そのため、「あまりコメントはできない」とのことでしたが、「カシオがこれまで蓄積してきたデジタルの知識や、時計メーカーとして、どんなことがお客様に支持されるのかといったノウハウは持っている。スマートウォッチは、何が価値として認められるかまだ分からない、そんな手探りの中での開発になるが、今までの経験をうまく生かしながら作っていきたい」と話していました。
今回、開発中のスマートウォッチについてのヒントはほとんどありませんでしたが、その考え方は分かってきました。間違いなく言えるのは、EDIFICEのような時計を「主」、スマートフォンを「従」とするタイプとはまた違うものになりそうだということ。そして、他社が出している製品と似たようなものにはならないであろうということ。
果たしてカシオが見つめる次世代のスマートウォッチはどんな形で登場するのでしょうか。
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