「フリー」と名のつくものは、一般的に良いものだとされていることが多いです。しかし実は「ストレスフリー」の場合、本来ストレスがあれば得られるはずのメリットをみすみす逃してしまうリスクがあることも分かっています。
ストレスとイライラのメカニズム
カリフォルニア大学バークレー校のダニエラ・カウファー氏の研究によると、実験の結果、適度なストレスは記憶力の向上に役立つことが分かっています。
ストレスを感じると「コルチコステロン」というホルモンが分泌されます。このホルモンにはカルシウムの吸収を抑制する作用があるとされてきました。カルシウムは脳内の情報伝達にとって非常に重要な成分です。つまりストレスを感じると、コルチコステロンが分泌され、それによってカルシウムがうまく吸収されなくなり、結果脳内のコミュニケーションがおかしくなってイライラする、というわけです。
しかしカウファー氏らの研究により、このコルチコステロンは同時に「FGF2」と呼ばれる化学物質の分泌を促すことが分かりました。このFDF2は脳の神経細胞の増殖をサポートします。結果記憶力がよくなるというメカニズムです。
ストレスの「良し悪し」を見極めよう
ここで難しいのは「適度なストレス」とは何か、という問題です。先ほどの実験においてマウスに与えられたのは、たった数時間ケージに閉じ込めただけの、短期的なストレスでした。またカウファー氏は「ストレスが私たちにとって何かしらの良い影響をもたらすことは確かだが、そのストレスがどれくらいの強さで、どれくらいの期間で、どのように感じるものなのかは分からない」とも言います。
これについては産業技術総合研究所の二木鋭雄氏が、「良いストレスと悪いストレス」という文章の中で、同じストレスでも人それぞれで受け止め方は違い、さらには同一人物でも状況によって感じ方は変わるのだと書いています。
ただし、「悪いストレス」が存在するということ自体は間違いがないと言えそうです。というのも、日本生活習慣病予防協会によれば、ストレスは肥満や糖尿病、高血圧に脂質異常症、うつ病などのリスクを伴うとされています。過度なストレスは、やっぱり体に悪いのです。
ストレスは確かに心身ともに私たちにダメージを与えます。しかし、だからと言ってやみくもに「ストレスフリーが一番!」と考えてしまうと、それによって得られる脳の活性化を邪魔することにもなりえます。今感じているストレスが自分にとって良いものか、悪いものか――自分の中でそれを常に問い続け、見極めるスキルがこれからは必要とされてくるのかもしれません。
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