インタビュー

Aileはなぜプレイ動画に「激怒」したのか? 「徹底交戦」ににじむゲームメーカーの怒り(2/3 ページ)

自社タイトルのプレイ動画が「ニコニコ動画」にアップロードされていたとして、プレイ動画への「徹底交戦」を表明していた、Aile(エール)代表・みやび氏。果たしてプレイ動画は「悪」なのか? 渦中のみやび氏に直接お話をうかがった。

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違法動画を投稿していいのは、逮捕される覚悟がある人だけ

―― 具体的にはどういう「対応」を考えているんですか?

みやび氏 ええと、そのあたりは相手に情報を与えてしまうことになるので、今は詳しくは言えないです。

―― やはりまずは刑事事件という形になるんでしょうか。

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みやび氏 そうですね。ただこれも問題があって、そもそもニワンゴ側は、動画のデータと、投稿者のアカウント名などの情報は持っていても、投稿者自身の住所や個人名が特定できるような情報は持っていないんです。

―― メールアドレスさえあれば登録できてしまいますからね。

みやび氏 そうなると、もう刑事事件にするしかないんですよ。相手の名前と住所がはっきりしていないと、民事訴訟は起こせないんです。ニワンゴ側がアップロードする人間の個人情報を持っていて、本人と連絡できる手段をちゃんと用意してくれていれば……。

―― 民事訴訟や、和解という手もあったと。

みやび氏 そう。仮に和解したいと僕が考えても、現状ではアップロードした本人にメールを送ることさえできない。今のニコニコ動画のシステムでは、どうしても警察を通すしかないんです。

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―― もしも刑事事件となった場合、どれくらいの刑罰になるんでしょうか。

みやび氏 そこに関してはいろいろな解釈があると思いますが、僕が専門家や弁護士にお話をうかがった限りでは、懲役5年から10年、もしくは500万円から1000万円の罰金。もちろん、あくまでこれは投稿者にとって「最悪」の場合です。

―― これは刑事訴訟の部分だけですよね。これで著作権侵害ということになれば、さらに民事で訴訟という可能性も?

みやび氏 当然、両方でやるしかないでしょうね。

―― 民事で訴えたとして、例えば賠償額はどれくらいを想定していますか?

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みやび氏 すみません、これも詳しくは言えないです。ただ単純に被害額を計算するならば、と言う仮定の話になりますが、今回はソフトが税込み9240円で、再生回数が約1万3000回ですから、ソフトの希望小売価格×動画の再生回数=約1億2000万円というのがひとつの基準にはなるかも知れません。もちろん、動画は冒頭の10分強だけですし、これがそのまま認められるわけではないでしょう。

前例を作りたかった

―― 現状、メーカーがここまで踏み込んだ対応をとれない理由のひとつに、単純に対応の手間とコストがかかる、というのがあると思うんですが、そのあたりはどうですか?

みやび氏 あとはもう専門家たる弁護士まかせですよ。必要な時にはもちろん法廷に出向いたりしますが、やり取りするのは全部弁護士で、僕は見ているだけという形になると思いますね。

―― じゃあ、手間としてはそれほどでもないと。

みやび氏 幸い、今は比較的時間もありますから。

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―― 弁護士費用などのコストについては?

みやび氏 コストについては、赤字でもいいと思っています。損害賠償金を取れるか取れないかについても最初から気にしてない。あくまで「違法アップロードをしたら、こういうことになる危険性があるんだよ」という事を投稿者に伝えたかった。「違法動画を投稿していいのは、逮捕される覚悟がある人だけだ」と。

―― 前例を作りたかった?

みやび氏 そうです。今回アップロードした人に対しても、やっぱり憎いという感情はゼロではありません。こっちは粗食で日々を過ごし、汗水垂らして開発室に毎日寝泊まりしてキツい目にあって、ようやく創り上げたゲームですからね。開発費だって、何百万とかじゃない。何千万ってレベルですよ。これがコンシューマーゲームだったら億単位になる。でも憎しみで訴えてしまうと、それはまた意味合いが違ってきてしまうので。

ユーザーの反発は「覚悟の上」だった

―― ご自分でプレイ動画を見たりはしますか。

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みやび氏 うーん、まず見ないですねえ。そもそもニコニコ動画自体、僕は肯定的ではありませんね。特に違法動画がこれだけ蔓延していると眉をひそめるばかりです。

―― プレイ動画全体についてはどう思いますか? もちろん「黙認」の上に成り立っている、きわめて危ういムーブメントというのは大前提で、それでも「ゲームを楽しむスタイル」のひとつとして、無視できない規模にはなってきていると思うのですが。

みやび氏 うーん、ちょっと答えにくい質問ですね。正直、答えていいかも分からない。

―― あくまで1メーカー、1個人の意見としてで構いません。

みやび氏 やってもいいけどちゃんと許可はとるべきだろうと。許可が得られたならやっていいし、ダメだったら諦めなさいとしか、僕には言えないです。例えば生配信でなければ、事前に作ったものをメーカーに見せるくらいはできますよね。プレイ動画の生配信についてはもう、現状ではノーとしか言えない。許可の出しようがないです。

―― 著作権がある以上、メーカー側の許諾は得るべきでしょうね。ただメーカーが動画をチェックするのって、2つの意味で難しいと思うんです。1つは手間とコストの問題です。

みやび氏 よほどの大手でないかぎりは難しいでしょうね。

―― もう1つは、ひとつでも「公認」してしまうと、「じゃあこれはいいのか、あそこのメーカーは認めてるのにこっちはダメなのか」とキリがなくなってしまう。結局、「黙認」が一番安定してしまっている。

みやび氏 逆に押さえつけても、今度は風評被害や不買運動といったアンチ活動が怖い。ずいぶん昔ですが、あるゲームメーカーが同人サークルに対して警告メールを送ったことがあったんです。それがきっかけで一時期、大手から中堅、新規の同人サークルがみんな別メーカーの作品ジャンルに移ってしまったことがあります。

―― そういう可能性を承知していながら、「削除申請」で済ませなかったのは?

みやび氏 それはもう、覚悟の上ですよ。削除申請も出したのですが対応が遅くて、結局は投稿者削除となりました。他にも「炎上マーケティングじゃないのか」とか言われて、初めて「炎上マーケティング」って言葉があるのを知りました(笑)。過去に営業・広報という仕事に携わっていましたが、その見地から言っても、そのようなマーケティングはリスクが大きすぎです。それを1つの手法とするならば、ある意味「生きるか死ぬかの瀬戸際」でもない限り出来ませんね。

―― まとめブログなどに書かれていましたね。

みやび氏 ただ、やるなら今しかなかった。ゲームも発売されて、デビュー作としては結果も上々、次の作品リリースまでの時間もあるというタイミングでしたから。

―― ああ、確かに。

みやび氏 許諾の話に戻しますが、リソースを割けないという点で言えば、業界団体などで共通のガイドラインを作るという手はあると思います。ただそれにしても、今の状況が何年か後も続いているという確証はないわけですから、簡単ではないですよね。作れたとしても、随時見直しをはかっていかないとならない。

―― なるほど。

みやび氏 あと、ひとくちに団体といってもいろいろありますし、やるなら足並みを揃えて行動しないと意味がない。

―― CESAにしても、すべてのメーカーが加入しているわけではないですしね。

みやび氏 そうなると結局、メーカーが個別に対応していくしかないと思います。今回私は強行手段に出ますけれど、それが業界全体の意志であるとか、そういうつもりはまったくありません。

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