「牡蠣を買う」が復興支援に プリプリの牡蠣を売るサイト「後藤家の食卓」(2/2 ページ)
復興支援と聞くと、大がかりな取り組みをイメージしてしまうかもしれないが、気軽にできる復興支援もある。サイトで牡蠣を注文するだけで、石巻の人々を支援できるECサイトがあった。
口コミが広がって……
後藤家の食卓に登場する後藤さんは、近藤さんの友人だ。大震災直後、後藤さんと連絡が取れなくなり、消息を知ったのは数日後のことだった。近藤さんは、78年生まれの友人らと結成しているグループ「78会」のメンバーでトラック2台を出して石巻へ支援に向かった。支援は継続的に行わなくては意味がないと、何度も現地へ足を運んだ。
だが進展はなく、時間だけが経過していく。11月になっても「仕事の目処が全然立たない」と後藤さんは話していた。処理場が再開されるといううわさがあり、あらかじめ準備はしていたものの、一向に出荷できる見込みはなかった。それでも何かできないかと、昨年6月に沈めた牡蠣を上げてみることにした。
通常、4月に沈めた稚貝は1年半後の10月に出荷する。これを「2年物」と言う。昨年は震災の影響で、やむを得ず6月に稚貝を沈めた。11月に上げてみたところ、わずか半年で2年物と同じくらいのサイズになっていた。試しに食べてみたところ、味も変わらず美味しかったので、出荷を検討することに。
漁協や保健所などに聞いてみたところ「加熱用殻付き牡蠣ならOK」と許可が出た。放射能の影響がないことも分かった。宮城県が昨年11月に公表した、金華山以南の牡蠣の検査で、放射性物質(ヨウ素、セシウム)は非検出となっていた。殻付き牡蠣は運送コストがかかることや、スーパーなどでむき身牡蠣が求められていることから、あまり流通業者が扱わない商品だ。しかし、売らないと始まらない。
まず78会コアメンバーのおよそ10人が、自分たちで食べてみることに。そしてメンバーが家族や社員、友達に直接説明して買ってもらっているうちに、2カ月間でクチコミも広がり月1000個以上を売り上げた。「実際にふっくらして、濃厚な味もウケが良く、石巻牡蠣を食べるだけで復興支援になるということで、クチコミ効果が促進されたようだ」と近藤さん。次第に発注への対応が追いつかなくなり、今年3月にオープンしたECサイトが後藤家の食卓だ。
石巻牡蠣をブランド化していきたい
近藤さんは「石巻牡蠣をブランド化したい」と話す。「宮城県産牡蠣」ではなく「石巻牡蠣」というブランド名で有名にしていきたい、と。震災で石巻の名が知られるようになった。それをきっかけに石巻の牡蠣もさらに認知されてほしい。「牡蠣漁師たちが再起動できる、1つのきっかけになれば良い」と語る。
サイトでは「復興支援を出しすぎないようにした。来年もその先も継続していくサイトにしたいから」と近藤さん。牡蠣作りに携わる人物を登場させ、直接の言葉で伝えるよう意識した。デザインはライフスタイル誌「Pen」を意識し、レシピや写真を多く載せたり、震災に関するページは前面には出さず階層の深いところへ置いたりなど、コンテンツの見せ方も工夫したそう。
世間では「復興だ復興だ」と盛り上がっていても、実際に処理場は稼働せず、仕事もない状態で何も進まない。当事者にとっては変化を感じられず、鬱っぽい気持ちになるという。“復興鬱”というらしい。「友達もそんな状態になっていたので、力になりたかった。上手く売ることで、再生の手伝いができると良い。徐々に日常を取り戻しつつあるから、少しでもその役に立てていたら嬉しい」(近藤さん)
目標は5月までに3万個売上げ
3月には石巻牡蠣をアピールするイベント「産地直送! どっさり牡蠣パーティー from 石巻」を都内で開催した。牡蠣は「海のミルク」と呼ばれるほど栄養価が高い。特に石巻の牡蠣は脂肪が少なく、鉄分が他産地に比べて何倍も高くヘルシー。シンプルに調理し、ふっくらとした味わいを楽しむのがオススメなのだとか。
記者も会に参加したが、ぷるるんとした触感、クリーミーで濃厚な味が絶妙だった。近藤さんは「5月までに『後藤家の食卓』で牡蠣を3万個以上売りたい」と目標を語った。パーティー用だと100個単位で、多いときは1度に500個ほど売れることもあるそう。
サイト立ち上げに携わった人は、近藤さんが集めた。食分野に強い人や、社会問題に強い関心がある人に相談してチームを作った。彼らには牡蠣で報酬が支払われたという裏話も。牡蠣を700個くらいもらった人もいたそうだ。牡蠣好きにはたまらない報酬だろう。牡蠣は1個150円からで、20個から注文できる。家で牡蠣パーティーを楽しみながらでも、協力できる復興支援がある。
追記:初掲載時、牡蠣の販売目標を「5月までに1500個」としていましたが正しくは「3000個」でした。お詫びして訂正いたします。
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