ニュース

「ひねくれた子だった」――浦沢直樹が語る幼少時代、「MONSTER」「20世紀少年」制作秘話Japan Expoでフランス人熱狂(2/2 ページ)

「Japan Expo 2012」でマンガ家・浦沢直樹氏が講演。ライブアートにHemenwayとのセッションライブなどファンサービスもたっぷりで会場はスタンディングオベーションに包まれた。

advertisement
前のページへ |       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

浦沢作品のアニメ化が難しい理由

 アニメーションプロデューサーの丸山正雄氏(72)とともに行われた別の講演では、浦沢氏がアニメとの関わりについて語った。浦沢氏が初めて丸山氏の名前を認識したのは小学生の時に見た「あしたのジョー」。小学生ですでにスタッフの名前を意識してアニメを見ていたというから驚きだ。

 2人が初めて一緒に仕事をしたのは「YAWARA!」のアニメ化の時だ。「アニメのプロフェッショナルと一緒にモノをつくれるのは光栄なこと」と、浦沢氏はアニメ制作には積極的に関わっているそうだ。その後も丸山氏は「MASTERキートン」や「MONSTER」といった浦沢氏の作品を手掛けている。


浦沢氏と丸山氏。仕事仲間というよりは年齢の離れた友だちのよう

 一方、丸山氏は浦沢作品の映像化の難しさを語った。「浦沢氏の作品は途中までを描いたり、カットしたりできないため、現在日本で主流の1シーズン12話または24話の構成ではアニメ化は非常に難しい」というのが理由。「MONSTER」が全74話で一年半かけて制作・放送されたことは「奇跡的だ」と話す。

advertisement

 丸山氏は現在「PLUTO」のアニメ化を目指しているそうで、「私に仕事が出来るうち……2~3年以内には実現したい」との弁に浦沢氏からは「いやいや、あと20年は頑張ってくださいよ」と丸山氏へのエール(?)が飛び出した。

「すごい作品になる」予感があった「20世紀少年」

 フランス人司会者との対談形式で行われた講演では、フランスでも人気のある「MONSTER」と「20世紀少年」の制作秘話を明かした。

 「MONSTER」の着想は、アメリカンドラマの「逃亡者」から得た。「逃亡者」は妻殺しの濡れ衣を着せられた医者である主人公が警察から“逃亡”しながら真犯人を追うというストーリー。浦沢氏はこの作品に感動し、「逃亡の物語」の構想を始める。しかし、この物語に合う職業というのが医者しかなく、それでは「逃亡者」と同じになってしまうため一旦は創作を諦めた。そんな折に思い出したのは「フランケンシュタイン」。科学者が自ら作り出してしまった「怪物」によって周囲のものが殺され、科学者はその怪物を追うというストーリーは「MONSTER」と重なる部分が多くある。

 このようにして誕生した浦沢直樹の「MONSTER」は、舞台となったドイツや東欧のミステリアスかつロマンチックな雰囲気とあいまってフランスでも多くの人気を獲得。フランスでも大人向けマンガが受け入れられることを証明した作品の1つとなった。

 次に「20世紀少年」について話が及ぶと会場の熱気は最高潮に。「『20世紀少年』の構想は、浴槽につかっているときにひらめいた」という日本人らしいエピソードにはフランス人もウケていたようだ。

advertisement

 しかし、その時点では主人公たちは何と戦っていたのか、浦沢氏本人にもまだ分からなかったのだという。「20世紀少年」でプロットを共同制作した長崎尚志氏に浦沢氏がアドバイスを仰ぐと、「それは新興宗教だ」との答えが。この返答には浦沢氏も思わずうなってしまったとか。そこからディスカッションを重ね「20世紀少年」のストーリーの大枠は完成。二人には連載開始前より「これはすごい作品になる」との予感があったそうだ。


公演中には浦沢氏が“本人”であることを証明するためにイラストを書いた。天馬、MONSTER

天馬、MONSTER

ケンジ、20世紀少年

講演の最後に行われたライブアート。描いてほしいキャラクターのリクエストを聞くと会場からはケンジコールが!

 最後に浦沢氏より、「物語の完結があやふやなのは、読者も一緒に考えてほしいから。マンガはいい読者がいて初めて成立するものです。みなさんのような読者に出会えて幸せです」との言葉があり、会場はスタンディングオベーションに包まれた。

 すべての講演を終えた最終日には、同じくJapan Expoのゲストとして招かれているロックバンド・Hemenwayとのセッションライブが行われ、「20世紀少年」と馴染みの深い楽曲などが演奏された。


Hemenwayとのセッション

 3年前にフランス漫画の巨匠・メビウスことジャン・ジロー氏(今年3月逝去、享年73歳)が来日した際に、浦沢氏は一緒に大きなキャンパスに並んでデッサンをするライブ・アートを行っている。メビウス氏について浦沢氏は、「彼は、手塚治虫と並んでもっとも影響を受けたマンガ家のひとりだ」と語り、「いつかメビウス氏に追いつきたいという思いでマンガを描いている」という言葉で講演を締めくくった。

 メビウスは、浦沢直樹や大友克洋ら多くの日本人マンガ家に多大な影響を及ぼした。毎年1500タイトルの日本マンガが出版されるフランス。次はフランス人が浦沢直樹など日本人マンガ家から影響を受け、新たな才能が生まれるかもしれない。今後の世界のマンガ界から目が離せない。

advertisement

著者紹介

坂井拓也 SAKAI Takuya

大学院にて、日本とフランスのマンガ文化の研究を行う傍ら、フランスにおける日本のポップカルチャーについてなどの記事を執筆している。Twitterは@ahYouthfuldays、ブログはJapan.fr

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.