インタビュー

KDPで電子書籍の稲穂は実ったか(1/3 ページ)

AmazonのKindle ダイレクト・パブリッシングが登場したことで、個人出版が改めて注目されている。早くから電子書籍に並々ならぬ関心を寄せ、いち早く著作を販売して話題となった漫画家の鈴木みそさんに話を聞いた。描き下ろしイラストにも注目。

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 2012年秋にいよいよ始まった、日本版KDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)。そこにいち早く著作を自家出版で投入し、話題になっているのが漫画家の鈴木みそさん。Mac系専門誌で連載を持ったりと、デジタル&ガジェットには大きな興味を持ってきたみそさんは、電子書籍市場にも以前から大きな関心を持ってきた。

 しかし、そんなみそさんでも、2011年にWEB『COMICリュウ』(徳間書店)で発表された『僕と日本が震えた日』の中で、電子書籍に対してこんなネタを残している。

『僕と日本が震えた日』第2話より。(C)Miso Suzuki (C)Tokuma Shoten

 「何度目だ、電子書籍元年」とやゆされながら、市場としてなかなか稲穂が実らなかった電子書籍。果たして今回、みそさんの畑に稲穂が実ったのかどうか、KDPを始めるまでの出来事を時系列で追いながら、鈴木みそさん自身に聞いてみた。

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仕事場で「限界集落温泉」のカバーファイルを作業中の鈴木みそさん

限界集落温泉

―― みそさんの最初の自家出版はパブーがスタートになるんですか?

みそ テニスまんがの『エガリテ』ですね。正確には「電書フリマ」(※注1)で対面販売したのが最初になります。うめさんと、『ホタルノヒカリ』のひうらさとるさん、あと打ち切りになった作品がネットで話題になって重版が決まったDIYまんが『ホームセンターてんこ』のとだ勝久さん。4人のコミックを販売したんです。その時110冊くらい売れたんですよね。「電書ってすごい!」って思って。

 「これはいける!」とパブーで1冊400円で販売したんですが、いまだに対面販売の売り上げを超えない。今、90冊くらいかな。今回『限界集落温泉』について書いたブログ記事からリンクして、1冊売れましたが(笑)。

―― 次に公開したのが『放射線の正しい測り方』(※注2)ですね。

みそ そうです。これは無料ということもあって60万回くらい閲覧されました。ダウンロードで3万6000超えかな。エガリテの販売があまり伸びなかったのは、購入手続きが面倒なのもあるのかなと。パブーに公開した当初は、クレジットカード決済とかできなかったんですよ(※注3)。「おさいぽ」のみの決済対応だったんで、その登録までが面倒で。普通の本屋に買いに行くより面倒でした。

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 パブーは違いますけど、ほかにもデータの関係などいろいろあるじゃないですか。「買った」と思っていたら、実はレンタルで、いつの間にか読めなくなっていたとか、バージョンが変わって今のソフトじゃ読めないとか。サイトが消えちゃったなんてこともある。以前、Yahoo!ブックストアで電子コミックを買ったことがあるんですが、しばらくしてその作品の新刊が出たので古いのを読み返そうと思ったら、期限切れでもう自分の本棚にないんですよ。「また買えっていうのか、馬鹿野郎!」って。「レンタルだから安い!」って、別に安くはないですよね。1冊300円くらいするんですから。

―― 確かにそういうトラブルは多いですね。スマホの端末を変えたらリーダーが対応していなくて、買った本が読めないとか。

みそ 一度買ったものは、いつまでも手元に置いておいて、読みたくなったらすぐに読めるようにしておきたいですよね。端末やソフトが変わっても、ディスプレイの解像度が上がっても買い直すことなくそれに対応したものが読めるようにしてほしっていうのが大事だと思うんです。アップグレードに対して多少の手数料は払ってもいいけど、まるごと買い直しというのはあり得ない。

―― リーダー端末ごと消えちゃう電子書店も多いですしね。

みそ 端末もいろいろ出ましたが、やっぱり初期はまだこなれてなかったり、いろいろあるわけですよ。でもだんだん性能が良くなって、画像もきれいになってっていうときに、国内の電子書店だと、その辺りを細かくバージョンアップしてくれるの? とか、データを買い直さずに対応してくれるの? とか、不安が多いんですよね。何より5年後にそのもの自体が「なかったこと」になってるかもしれない。

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―― そこでKindleストアを選択したと。

みそ そうです。Kindleなら、端末は持っていないけどアプリを持っている人も読めるし。iPadやiPad miniで読むとものすごく読みやすい。何より販売場所として“固い”ですよね。数年後になくなるってことはないだろうし、購入決済も今までにAmazonを利用したことがある人なら、すぐにできる。データのアップグレードも対応できますしね。『限界集落温泉』も必要になったらHD版とか作成して、無料でアップデートしますよ。

―― 今までの電子書店に持っていた不満や不安が一気に解消できたわけですね。

みそ あと、先に友人の安田理央がKindleで無料の本を出したんですが、それが1000部ダウンロードされたというのもありましたね。何せ有料とはいえ、こちらは90部ですから(笑)

注1 電書フリマ:2010年7月に開催された、電子書籍オンリーの即売会。「ぷよぷよ」の開発者でもある米光一成さんの発起による「電子書籍部」が主催。
注2 「PostPet」の開発で知られる八谷和彦さん主催による会で説明された、ガイガーカウンターの正しい使い方をコミック化したもの。パブーでの発表後、英訳化されたり、『僕と日本が震えた日』に再収録されたりしている。
注3 パブーは2011年1月からクレジットカード決済に対応済み。
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