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「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい! 2014――を選んでみました虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第11回(4/4 ページ)

虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第11回は今年お気に入りだったマンガベスト10を発表します。1万字以上の渾身のレビュー(長いっ!)です。

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第6位「つらつらわらじ」(オノ・ナツメ)

 それでは、以下第6位から第10位まではダイジェストで。

 講談社「モーニング・ツー」にて2010年から連載開始の第6位、オノ・ナツメ先生「つらつらわらじ」は今年発売の第5巻でついに完結。本作は副題「備前熊田家参勤絵巻」にある通り、江戸参府に出立した岡山藩熊田家藩主・治隆の道中を描いた群像劇。

 数百人を率いる行列の中には、老中・松平定信の質素倹約政策に真っ向から反抗する治隆を監視する幕府密偵・九作が紛れ込んでおり、波乱を含みながらも、一行は江戸を目指します。

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 注目ポイントは道中、治隆が起こす予定外の行動と、その動きに対応する家臣たちの交錯する心理。特に今回初めて道中をともにする第二家老・熊田和泉はまだ若いこともあり、治隆の真意を測りかねないままの出立。しかし道中、治隆と間近で接するなかで、その豪快豪奢なカリスマ性を知り、成長していくのです。

 イタリアの老眼鏡紳士がお好きだというオノ・ナツメ先生の作品は日本的な画風とは少し違う独特の雰囲気が特徴で、デビュー作「LA QUINTA CAMERA―5番目の部屋」(小学館)以降、社主がずっと作者買いで追いかけているマンガ家さんの1人。世間的には累計200万部の大ヒット小説「のぼうの城」(和田竜/小学館)の表紙を描いた人と言った方が分かりやすいかもしれません。

 本作はオノ・ナツメ先生が描き分けるなかの「デフォルメバージョン」での連載ですが、こんなに簡略化した画風なのに、主要な登場人物全員がしっかりとした個性を持って描かれており、もっと言うと、口を真一文字に結んで行列を為している家来数百人までもが単なるコピペにならず、それぞれちゃんと個性的に描き分けられているのだから圧巻としか言いようがありません。

 そしてそんなデフォルメ画風なのに、劇画に勝るとも劣らない藩主・治隆の貫録は、単に目の前にあるあっさりとした線画のさらにその奥底から湧いてくるエネルギーとして、読み手にひしひし伝わってくるのです。社主は男ですが、熊田治隆という人物には惚れました。抱いて!

第7位「なりひらばし電器商店」(岩岡ヒサエ)

 続いて第7位は「イブニング」で連載された岩岡ヒサエ先生の「なりひらばし電器商店」(全2巻/講談社)。

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 ここでちょっと文体を崩しますが、岩岡先生はですね、社主が尊敬どころか崇拝していると言っても過言ではないマンガ家さんでですね、彼女について語りだしたら今ここまで書いてきた文字数と同じでは足りないほど素晴らしい作品をお描きになるんです。本作を含め、現在9作品が単行本化されていますが、そのどれもがほぼ満点。特に「ゆめの底」「土星マンション」「星が原あおまんじゅうの森」の3作は100万点差し上げてもまだまだレベルの大傑作だと思っています。

 また「土星マンション」は平成23年度文化庁メディア芸術祭でマンガ部門大賞を受賞。実はその翌年、本紙「虚構新聞」は同芸術祭のエンターテインメント部門で審査委員会推薦作品として選ばれたのですが、「ひょっとして授賞式に昨年の受賞者として岩岡先生が来るんじゃないか」と、それ目当てで東京まで飛んでいきました。結局お会いすることはできなかったわけなのですが、この時和服姿で懇親会場におられたのが、実はマンガ部門新人賞を受賞された田中相先生で、しかもその後になってから受賞作「千年万年りんごの子」を読んで感銘を受け、「どうしてあの時……!」と血の涙を流すこととなりました。

 話を戻して「なりひらばし」ですが、舞台は今から40年後の東京・なりひらばし。スカイツリーの足元に広がるこの街に住むことになった女子大学生・森初音は、生活費を稼ぐため下宿先の祖母が営む家電リース専門店「なりひらばし電器商店」でアルバイトを始めます。環境意識の高まったこの時代、家電は買うものでなく、リースするものになっているのです。

 先に紹介した「土星マンション」にも共通しますが、「近未来にも残る昔」というのが、本作のテーマの1つ。どれほど科学技術が発展しても、人と人との有機的なつながりは残り、またそのつながりというのは、あくまで情と情となのだ、と。

 40年後の世界なので、超絶進化したホログラムFaceTimeみたいなのはあるけれど、本作においてそれはあくまで小道具でしかなく、先生は生身の、口から出る肉声を通じた交流を描きます。一歩間違えれば下町人情だとかなんだとか、お説教臭さが漂いそうなところを、あくまで自然に、そしてそれを押しつけることなく読者に伝える――。先日クリーンエネルギーと景観の対立をテーマに書いたものの、結果的に「エコロジスト、ソーラーパネルをぶち壊す」という記事出力しかできなかった社主としては、岩岡先生のように柔らかく誰からも愛されるようなものの言い方を学びたい、と、強くそんなふうに思いました。

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 あと、単行本に収録しきれなかったラスト3話は講談社のサイトから無料で読めることになっているのですが、社主個人としては薄い本(普通の意味)になってもいいので、ちゃんと紙媒体で読める第3巻を出してほしいです。普通の意味じゃない方の「薄い本」はノーサンキュー。

第8位「千歳ヲチコチ」(D・キッサン)

 それでは8位。D・キッサン先生の平安マンガ「千歳ヲチコチ」(1巻~4巻、以下続刊/一迅社)。現在はWebサイト「ゼロサムオンライン」にて連載中です。

 平安朝を舞台にしたコメディである本作は、天然気味の姫君・チコと、そのチコが書いた文を偶然受け取った貴公子・亨が戯れに女性を装い返歌したことがきっかけで、お互い顔を見たことがないまま、思いをはせる……という少女マンガっぽい体で、実際は時代考証無茶苦茶のやりたい放題な平安コメディ。

 今年8月に発売された最新4巻に至っては、ほとんど上記のような恋愛エピソードはなく、メインは忙しい大みそかを前に拉致された典侍(ないしのすけ)と、拉致の犯人で彼女にゆがんだ想いを寄せる遠江守嫡男・公行の対決。無事公行の屋敷から脱出を果たした典侍が語ったコメントがこの4巻の内容全てを物語っています。

 「若くてドMでヤンデレなマザコンイケメン陰陽師に拉致られてプレイを強要させられていたんだが」

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 職業柄、コメディやギャグマンガを読んでも、自分が笑うより先に「この笑いはこのパターンだな……」という分析癖がついてしまい、もはや素直に笑うことのできない人間と化してしまった社主ですが、この4巻に関してはそんな分析なんかどうでもよくなるくらいストーリー展開に爆笑。ごちそうさまでした!

第9位「のぼさんとカノジョ?」(モリコロス)

 第9位はモリコロス先生の「のぼさんとカノジョ?」(1~2巻、以下続刊)。「コミックゼノン」にて連載中です。

 仏教系大学2年生、性格は少し天然ボケの入った草食系「のぼさん」こと野保康久は、現在下宿するアパートで女の子と同棲中。とても同棲などしているようには見えない彼が今一緒に住んでいるのは、実は姿の見えない幽霊女子、「カノジョ」なのです。

 カノジョにできるのは、ホワイトボードとマジックで筆談すること、また物をつかむこともできるので、料理や風邪の看護なんかもしてくれます。そういう意味では本物の「彼女」と呼んでいいかもしれません。

 また、ホワイトボードに書き込むかわいい字体と言葉遣い、そして女の子にありがちなちょっと怒りっぽいところ(物を投げる様子は、普通の人にはポルターガイスト現象にしか見えない)など、カノジョは作中一度もその姿を見せていないにもかかわらず、その空間にはまるでかわいい女の子が現に存在しているようにしか見えないのです。

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 こんな読書体験は、今まで読んできたどのマンガにもなかったもので、最初に読んだときは、「あれ、カノジョの姿を見たことないのに、何でこの子をかわいいと思ったのだろう」と、一瞬訳が分からなくなりました。

 「こんなにかわいい字や絵を描いて、気遣いもできる人が美少女でないはずがないという思い込みがなせるものなのか、それとも何か別の理由があるのだろうか……」。その後の第2巻を読んでも、この不思議体験の理由が分からず、果てには「そもそもかわいいって何だっけ」と、自分の中の価値観がどうにかおかしくなってしまいそうになりました。

 「姿は見えないはずなのに、カノジョがかわいく思えて仕方ない」という普通のマンガでは味わうことのできないユニークなアイデアは高く評価すべき点で、そういう意味では今回紹介した10作品の中では最も「このマンガ~」的な1冊です。

第10位「椿荘101号室」(ウラモトユウコ)

 さて、いよいよ最後となりました。ここまで付いてきてくださりありがとうございます。第10位は新人・ウラモトユウコ先生の「椿荘101号室」(1巻、以下続刊/マッグガーデン)。「WebコミックEDEN」で連載中です。

 永久就職するつもりで同棲していた彼氏の「別れてくれ」&土下座から始まる本作は、家も仕事もお金もなくなった主人公・春子が昭和風情のボロアパート「椿荘」に引っ越すところから始まります。アパート内で食事を売っている磯谷さんなど、個性的というか奇妙というか、そんな住人に囲まれながら、春子は人生の再スタートに取り掛かります。

 表紙を見て分かるように、きっちりしっかり描きこむタイプの「トトコ!」とは対照的に、流れるような軽いタッチが特徴。しばしば「イラストレーターの描くマンガはつまらない」と言われますが、ウラモトユウコ先生の親しみやすい画風は、いかにもマンガ然としてよいですね。「のぼさん」のモリコロス先生同様、今後の活躍が期待できそうです。


 年末特集企画「虚構新聞社主が選ぶ『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい! 2014」はいかがだったでしょうか。もちろんマンガの趣味は人それぞれではありますが、今回取り上げた10作品は、いずれも本連載「ウソだと思って読んでみろ!」のタイトルにふさわしいものであると自負しています。

 来週はちょうど年末年始。これを機会にどれか1作品でもいいので手に取っていただければ、今回3日間徹夜して書いたこの疲れも吹き飛びそうです。

 今年1年、本連載をご覧いただき大変ありがとうございました。もしこの連載が生き残っているならば、来年、あらためてこの場にてお目にかかりたく存じます。

 それでは良いお年を。

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