4人の女郎を描いた物語、『親なるもの 断崖』への思いを語る:漫画家・曽根富美子 インタビュー(3/3 ページ)
最初の単行本化から約24年。「まんが王国」のプロモーションによりネットを中心に話題となった『親なるもの 断崖』の誕生から次回作の構想まで、作者の曽根富美子さんに聞いた。
最後まで自分の人生を戦い抜くこと
―― 作品を描いていて、つらかったシーンなどはありますか?
曽根 いろいろありますね。もちろん女性が遊郭で体を売るというのもそうですし、「赤狩り」によって拷問を受けたりするのもですね。
それから、女郎たちが抱いていた「故郷に帰りたい」という望郷の念。かなわない夢を持ちながら生き続けるのはものすごくつらいことじゃないですか。それが希望になる時期もあるかもしれませんが、体がぼろぼろになると諦めが出て死んじゃう人もいっぱいいたんだろうなって。
室蘭にイタンキ浜という海水浴場があるんですが、戦時中に強制労働者として連行された人たちの骨が埋められたとされる場所で……。ここの砂浜の砂は変わった形をしていて、踏むとキュッキュって音が鳴るいわゆる鳴砂ですが、それが犠牲者の人たちの泣き声だって亡き人たちを悼む逸話にもなっています。
―― 発展の裏に本当に多くの陰があるんですね。当時の人から見た遊郭はどういった感じだったんでしょうね。作中には、一般の女性と女郎たちが一緒の銭湯を利用するシーンも描かれていました。
曽根 これは想像でしかないんですけど、やっぱり同情する人が多かったんじゃないかと思います。
―― 主役の4人は、それぞれ違った人生が描かれています。彼女たちはその境遇において笑顔を見せることもありました。曽根さんが「幸せ」だったと思うキャラをあえて選ぶとすれば誰になりますか。
曽根 客観的に見ると不幸な部分が多いと思いますが、その人にとって何が幸せか……、人生の目的ってあるじゃないですか。だから、自分の願いすべてかなわなかったとしても、最後まで自分の人生を諦めずに戦い抜いた人が幸せだと思うんです。そういう意味では、一番不幸だったのは松恵でしょうし、武子と梅は全然別の世界ですけど、自分の希望を諦めなかったという点では、よくぞここまで頑張ったなって。
―― 戦争という大きな枠で見ると、遊郭の女将や番頭、さらには女郎を買う労働者たちもある意味では被害者のように思います。
曽根 漫画にも描きましたけど、全員が被害者=全員が加害者だと思うんです。大正のころから赤狩りが本格化し始めて、多くの人が軍国寄りの考え方になっていく中で、反対派だった人たちも戦争に賛成せざるを得なくなった。過去の話って、あれはいけなかったんだという風に描けますけど、現代に置き換えてみるとどこがいけないとか描くことが難しいじゃないですか。当時の人もこれと同じで、何が正しいのか悪いのか判断が簡単につかなかったと思うんです。
―― この作品には、愛、金、戦争などさまざまなキーワードがあると思いますが、特に死生観は意識して描かれている印象を持ちました。
曽根 その場その場でキャラになりきって、次はどういう台詞が出るだろうかと心の中でシミュレーションをするので、意識して描いたというわけではないです。ただ、自分の考えや経験を反映している部分はあります。
―― まんが王国で電子版が配信され、それが話題となって新装版の発売が決定しました。珍しいケースだと思います。
曽根 戸惑う気持ちの方が大きいです。正直、まだ実感が沸かないでいますが、じわじわと嬉しさがこみ上げてきている状態です
―― どういったデザインになるのか、楽しみにしています。次回作の予定はありますか?
曽根 子どもの命や人権をテーマにした作品になる予定です。子どもの虐待防止ネットワークあいち(CAPNA)というところに会員として所属しているのですが、そこの関係の人が出した本を読んで感動したこともあって、取材をさせてもらう予定でいます。
―― 最後に、読者の人たちにコメントをお願いします。
曽根 この度は、たくさんの人に読んでいただき本当にありがとうございます。感謝の言葉しかありません。4人の少女を時を超えて甦らせてくださり、本当にありがとうございます!!
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