4人の女郎を描いた物語、『親なるもの 断崖』への思いを語る:漫画家・曽根富美子 インタビュー(3/3 ページ)
最後まで自分の人生を戦い抜くこと
―― 作品を描いていて、つらかったシーンなどはありますか?
曽根 いろいろありますね。もちろん女性が遊郭で体を売るというのもそうですし、「赤狩り」によって拷問を受けたりするのもですね。
それから、女郎たちが抱いていた「故郷に帰りたい」という望郷の念。かなわない夢を持ちながら生き続けるのはものすごくつらいことじゃないですか。それが希望になる時期もあるかもしれませんが、体がぼろぼろになると諦めが出て死んじゃう人もいっぱいいたんだろうなって。
室蘭にイタンキ浜という海水浴場があるんですが、戦時中に強制労働者として連行された人たちの骨が埋められたとされる場所で……。ここの砂浜の砂は変わった形をしていて、踏むとキュッキュって音が鳴るいわゆる鳴砂ですが、それが犠牲者の人たちの泣き声だって亡き人たちを悼む逸話にもなっています。
―― 発展の裏に本当に多くの陰があるんですね。当時の人から見た遊郭はどういった感じだったんでしょうね。作中には、一般の女性と女郎たちが一緒の銭湯を利用するシーンも描かれていました。
曽根 これは想像でしかないんですけど、やっぱり同情する人が多かったんじゃないかと思います。
―― 主役の4人は、それぞれ違った人生が描かれています。彼女たちはその境遇において笑顔を見せることもありました。曽根さんが「幸せ」だったと思うキャラをあえて選ぶとすれば誰になりますか。
曽根 客観的に見ると不幸な部分が多いと思いますが、その人にとって何が幸せか……、人生の目的ってあるじゃないですか。だから、自分の願いすべてかなわなかったとしても、最後まで自分の人生を諦めずに戦い抜いた人が幸せだと思うんです。そういう意味では、一番不幸だったのは松恵でしょうし、武子と梅は全然別の世界ですけど、自分の希望を諦めなかったという点では、よくぞここまで頑張ったなって。
―― 戦争という大きな枠で見ると、遊郭の女将や番頭、さらには女郎を買う労働者たちもある意味では被害者のように思います。
曽根 漫画にも描きましたけど、全員が被害者=全員が加害者だと思うんです。大正のころから赤狩りが本格化し始めて、多くの人が軍国寄りの考え方になっていく中で、反対派だった人たちも戦争に賛成せざるを得なくなった。過去の話って、あれはいけなかったんだという風に描けますけど、現代に置き換えてみるとどこがいけないとか描くことが難しいじゃないですか。当時の人もこれと同じで、何が正しいのか悪いのか判断が簡単につかなかったと思うんです。
―― この作品には、愛、金、戦争などさまざまなキーワードがあると思いますが、特に死生観は意識して描かれている印象を持ちました。
曽根 その場その場でキャラになりきって、次はどういう台詞が出るだろうかと心の中でシミュレーションをするので、意識して描いたというわけではないです。ただ、自分の考えや経験を反映している部分はあります。
―― まんが王国で電子版が配信され、それが話題となって新装版の発売が決定しました。珍しいケースだと思います。
曽根 戸惑う気持ちの方が大きいです。正直、まだ実感が沸かないでいますが、じわじわと嬉しさがこみ上げてきている状態です
―― どういったデザインになるのか、楽しみにしています。次回作の予定はありますか?
曽根 子どもの命や人権をテーマにした作品になる予定です。子どもの虐待防止ネットワークあいち(CAPNA)というところに会員として所属しているのですが、そこの関係の人が出した本を読んで感動したこともあって、取材をさせてもらう予定でいます。
―― 最後に、読者の人たちにコメントをお願いします。
曽根 この度は、たくさんの人に読んでいただき本当にありがとうございます。感謝の言葉しかありません。4人の少女を時を超えて甦らせてくださり、本当にありがとうございます!!
関連記事
- 昭和の闇、遊郭に売られた少女たちの壮絶な人生を描いた『親なるもの 断崖』が話題に
作者は、『モーニング』で『レジより愛をこめて〜レジノ星子(スタコ)〜』を連載していた曽根富美子さん。 - 人生を味わう極上の一杯『ラーメン食いてぇ!』の林明輝に聞く
講談社のWebコミックサイト「モアイ」に掲載されるや、またたく間に話題となったマンガ『ラーメン食いてぇ!』。ラーメンマンガとひとくくりにできない同作の魅力をお届けする。 - ゲイアートの巨匠は“一般誌”で何を伝えるか
『さぶ』『Badi』といったゲイの専門誌での連載や、海外ではゲイアートの個展を開くなどしてその名を知られる田亀源五郎さん。5月25日に第1巻が発売された『弟の夫』の魅力を中心に田亀さんに迫る。 - 連載を取り消された漫画家の復活劇――『あいこのまーちゃん』が書店に並ぶ日
「不健全図書」に該当する可能性を指摘され、連載中止となった漫画『あいこのまーちゃん』。同作の単行本化に向け、クラウドファンディングやニコニコ生放送、273時間の作画配信などさまざまなことにチャレンジしてきた漫画家・やまもとありさ先生とは一体どういう人物なのか。ロングインタビューでやまもと先生に迫った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
“月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
-
“プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
-
100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
-
「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
-
鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
-
「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
-
日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」