4人の女郎を描いた物語、『親なるもの 断崖』への思いを語る:漫画家・曽根富美子 インタビュー(2/3 ページ)
連載中も1カ月おきに室蘭へ
―― 『親なるもの 断崖』は、もともとどちらに掲載されていたんですか?
曽根 秋田書店の『月刊ボニータイブ』で連載していました。1988年の2月に始まって、1989年の初夏に終了しました。少女漫画ではいろいろと漫画の内容にも規制があったんですが、女性誌に移ってから「何描いてもいいよ」と言われて描く世界が広がりました。
―― 室蘭を描こうと思ったのは、高校のとき通っていたから?
曽根 そうですね。室蘭は新日鉄で栄えた町で、教育施設や文化施設が集まっていました。わたしの通っていた高校は山の上にあって、毎日室蘭の町を眺めていましたし、遊ぶときもいつも室蘭でしたので、自然と愛着が沸きましたね。
―― 最初から遊郭の話を描くことに決めていた?
曽根 室蘭を舞台にすることは決めていて、連載に向けて郷土資料などを集めていたんですが、なかなかドラマになるようなネタがなくて。そこでふと、自宅の本棚にあった室蘭の記録書が目に入りました。その中に幕西遊郭のことが載っていて引き込まれたんです!
―― 遊郭の話を知って室蘭のイメージが変わったりはしましたか?
曽根 変わりません。かえって地元の歴史に興味を持つようになりました。
取材では、女郎さんと繋がりのあった方にも会えたんですけど、当時の話は女郎さんたちの気持ちを考えるとできないと……。でも、室蘭に帰る度にあいさつに行ったりして交流は続いています。取材を通して室蘭の人たちと繋がりができたのはとても嬉しいことです。
―― 取材や資料集めにはかなり時間が掛かったんじゃないですか。
曽根 連載中も1カ月おきに室蘭に帰って取材していたので、かなり長い時間を費やしました。現地の取材では、予想してなかったような情報が得られたりして収穫が多かったです。
―― 文献を調べるだけでは得られない経験ですね。想像で描いた部分もあるとのことですが、事実とフィクションの割合は?
曽根 史実に関しては実際のものをベースとしています。ただ、キャラクターやセリフは9割方フィクションですね。
―― 新日鉄はお堅いイメージがありますが、よく取材の許可が下りましたね。
曽根 最初お話したときは漫画なんて……という感じであまりよく受け止めていただけなかったんですけど、当時の担当編集者が単行本になる前の刷り出しを送ってくれて、読んでもらったら、「これだけ真面目な内容だったら、どうぞどうぞ」と。
―― それだけこの作品がしっかり作り込まれているということですね。連載当時と、現在で読者の反応の違いはありますか?
曽根 反応はほとんど同じです。連載当時、中学生からかと思われる字で「昔は警察(特別高等警察)が国民をいじめていたのって本当ですか?」というお便りをもらい今でもすごく印象に残っています。
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