どう生きるべきか 『少女終末旅行』つくみずは問い掛ける(1/2 ページ)
初のオリジナル作品でデビューしたマンガ家・つくみずさん。ディストピアな世界でほのぼのと生きる少女チトとユーリの物語を描いた『少女終末旅行』の魅力に迫る。
ドイツの半装軌車「ケッテンクラート」に乗った二人の少女が、食料を求めて、ただひたすらに多層構造の都市を旅してまわる。辺りには人ひとり見当たらず、人類滅亡の惨劇を引き起こした要因になったであろう戦車などの兵器が散らばっている。
つくみずさんのマンガ『少女終末旅行』は、いわゆるディストピアものに属する作品だ。しかし、作中に終末世界独特の悲壮感は漂っていない。二人の少女チトとユーリは世界に絶望することなく、都市のあちこちを旅し、さまざまな価値観をわたしたちに提示してくれる。
同作は、新潮社のWebコミックサイト「くらげバンチ」で連載中の作品。7月9日には2巻が発売された。2巻発売のタイミングでつくみずさんにお話を伺うことができたので、インタビュー中に描いていただいた直筆のイラストとともにお届けしたい。メールインタビューは一度経験しているものの、実際にインタビューを受けるのは初めてだというつくみずさん。ひとつひとつ言葉を選びながら、作品について語ってくれた。
『少女終末旅行』主な登場キャラクター
マンガを描き始めたのは大学2年生から
―― 2巻の発売おめでとうございます。1巻発売のときと気分的に違いはありますか?
つくみず ありがとうございます。そうですね、1巻は自分の初単行本だったので「作家になったんだ」という気持ちが強かったです。2巻以降も出してもらえることができて、たくさんの方に期待してもらえたんだなってうれしく思います。
―― まずは、つくみずさん自身についてお聞きします。デビュー前は、同人で活動されていたんですよね?
つくみず マンガを描き始めたのは大学2年生のころで、大学の終わりごろに、友人が作ったマンガサークルに誘われました。そこで描いた作品をネットにアップしたところ、新潮社の方が見てくださってデビューしたという流れです。だから同人で長く活動していたわけではないです。二次創作は大学時代にやっていたんですけど、オリジナルは「少女終末旅行」が初です。
―― マンガ家になる方は幼いころから絵が好きだったという人が多いと思いますが、つくみずさんの場合はかなり後になってからだったんですね。
つくみず もともとは小説が好きで、小・中・高では小説をよく読んでいました。高校3年生のころにイラストを描くのが好きになり、ありきたりな萌えイラストみたいなのを描いていて、マンガはその延長として描きはじめました。
―― 小説ではなく、マンガの道に進んだんですね。
つくみず 絵が描きたくなったんですよね。大学では美術の教師を目指して絵の勉強をしていて、何となく絵の仕事をしたいなとは考えていましたけど……。だから、マンガを描いたのは気まぐれなんです。
独創性があって魅力的なものを、建物へのこだわり
―― 「少女終末旅行」についてですが、この作品は、表立って訴えているわけではないですが、強いメッセージ性みたいなものがありますよね。
つくみず そういったメッセージ性みたいなものは、わたしが読んできた小説の中から受け継いだ部分だと思います。
―― 特に誰の作品を?
つくみず 村上春樹と江國香織ですね。作品で言えば、村上春樹は『ノルウェイの森』『ダンス・ダンス・ダンス』、江國香織は『きらきらひかる』が好きで、何回も読み返しています。
―― 「少女終末旅行」は、ディストピアな世界で、チトとユーリという二人の女の子が旅をするストーリーですが、この話の原型はどうやって生まれたのでしょうか。
つくみず マンガを描き始めたときに、弐瓶勉先生の『BLAME!』を読んでいて、その世界が自分にとってすごく魅力的だったんです。世界観は影響を受けています。
―― 作中では、ケッテンクラートや銃器などミリタリー系のアイテムが多数登場しますが、以前から興味があって作品に取り入れたのでしょうか。それとも作品に併せて?
つくみず 当時、自分の中で戦争映画ブームが来てたんです。ケッテンクラートは「プライベート・ライアン」に出てくるのを見て、「これは二人で旅するにはちょうどいいな」と思って取り入れました。
―― 大学時代に構想していたときから、作品の内容はあまり変わってないのでしょうか。
つくみず そうですね。大学時代に描いたものは内容も短くて、連載のお話をもらってから細かい設定を詰めていきました。1巻3話の「風呂」という話が原型です。「少女終末旅行」という作品の魅力が凝縮された話になっています。
―― 気に入っているシーンや話はありますか?
つくみず 2巻で描いた13話「雨音」ですね。いい話を描けるときって最初からオチが自分の中でしっかり決まっているんです。そのオチを目指して、場面がしっかり構成されているネームを描けたときはうれしいですね。
―― 普段ストーリーを考えるときは、ある程度オチを考えてから取り掛かるんですか?
つくみず できるだけ早い段階で、こういう話で、こういうオチで、こういう価値観に対して気付きみたいなものを入れていこう、という感じで描いていきます。描きながらオチが見えるときもあるし、最初から見えているときもあります。
―― ネームを1話描き上げるのにどれくらい時間を掛けますか?
つくみず だいたい10日です。1週間で描き上げる予定で取り組むんですけど、物語の舞台が毎回変わることもあり、最初に場所のスケッチを描いて、その場所とそこに関わるテーマがうまく調和するように話を作っていくので、そこは毎回苦労しています。
―― 作中にはさまざまな廃墟、建物が登場しますが、これはつくみずさんの頭の中にあるものですか? それとも資料などを参考にしていたり?
つくみず このマンガは結構建物がぼんやりとしているというか、割と感覚で描いているんです。できるだけいまの時代にあるものや、他の作品に登場する建物に似せないように心掛けています。
でもやっぱり難しいんですよね。現実のものからサンプリングして組み立てる方がしっかりした絵になるので、いかに発想で形を変えていけるかが今後の課題です。もっと独創性があって魅力的な建物が描けるといいなと思いながら描いています。
―― 迫力のある見開き絵も幾つかありますが、思い入れのある絵はありますか?
つくみず 先ほど話した「雨音」の見開きですとか、これはまだ「くらげバンチ」でしか読めませんけど墓場のシーンとかですね。大学の現代美術の授業で、リチャード・セラという彫刻家の作品について学んだんですけど、彼の作品に黒い板を並べたものがあって、それを思い出しながら描きました。あとは、都市の遠景のシーン。これは20時間ぐらい掛けて描き上げました。
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