連載13年「解体屋ゲン」原作者に聞く、衝撃的な「女児向けアーケードゲーム回」 その誕生秘話
なぜ「今」を描き続けるのか、原作者・星野茂樹さんにお話を聞きました。
芳文社「週刊漫画TIMES」で13年にわたって連載されている漫画「解体屋ゲン」(作画:石井さだよし 原作:星野茂樹)。その中でも屈指の“衝撃エピソード”として話題になった第655話「秘密の花園」が、石井さんの公式サイトで無料公開されています。
なぜいま無料公開に至ったのか、なぜリアルタイムな話題を作中に取り入れるのかなど、原作者の星野さんに聞きました。
漫画「解体屋ゲン」の主人公は「五友爆破株式会社」社長・朝倉巌。自らも現場で働き「ゲンさん」の愛称で親しまれる彼は、かつては世界的な爆破解体技師として知られたプロ中のプロ。一緒に働く時田英夫(ヒデ)や、近藤敏行(トシ)といった仲間たちと、各地の解体現場やさまざまな難題・事件に日々ぶつかっていきます。
今回の無料公開のきっかけは、星野さんがTwitterで女児向けアイドルゲーム「アイカツ!」が新シリーズへの移行のため旧筐体の稼働停止を始めたことを知ったからだそうで、星野さんから石井さんと編集部に掛け合って公開を決めたそう。
第655話では架空の女児向けゲーム「ワクワークガールズ」(通称「ワクガ」)が登場し、トシとヒデがこっそりプレイしゲームにハマります。大人の男性が女児向けゲームに熱中することが社会現象ともなっている昨今、現実にも同じような人たちは存在しますね。ネットの言い方を当てはめれば「ワクガおじさん」でしょうか。
2人ともキラシールでデコった「専用バインダー」持参するハマりぶり。女児向けゲームを遊んでいることをからかわれますが、トシは「そこまで言うならまずお前がやってみろ!」と切り返し、ゲンさんもよく分からないままワクガをプレイすることに。
作中の「ワクワークガールズ」では、ゲームを成功させてアイテムを集め、プレイヤーの女の子をランクアップさせていきます。建設機械を扱うところが斬新ですが、現実の女児向けゲーム「アイカツ!」「プリパラ」などを思い起こさせるシステムです。こうした現実の話題を取り入れることについて星野さんは、「流行を追うのが目的ではなく、その時代の空気を切り取れたら、後で読んでも古臭くならないし当時を思い出して共感してもらえる」と、漫画に時代を描き残すことの意義を語ります。
ゲームの序盤は持ち前の作業経験でなんなくこなしていくゲンさんですが、途中でランマー(地面を固める機械)に石を挟んでしまいゲームオーバーに。トシからも大笑いされ怒りかけるゲンさんでしたが、ゲームオーバー時のキャラクターのせりふと表情にハートを射抜かれてしまいます。
その後、ゲンさんもワクガにどっぷりとハマってしまうのですが、ここから先は実際に公式サイトでご覧いただきたいです。女児向けゲームだけならずアーケードゲームファンならば誰もが経験しうる問題、そして、1つのゲームを愛した人の熱い姿が描かれています。
これまでも「解体屋ゲン」はニコニコ動画やUstream、TwitterにFacebook、インディーゲームや擬人化萌えアニメといった数々の題材を取り入れてきました。もちろんそれだけでなく、現実に起こっている建築業の抱える問題や労働者たちの置かれた現状など、さまざまな「今」を漫画の中に切り取っています。
しかし、一方で「解体屋ゲン」はこれまで単行本や電子書籍などがほとんど販売されず、一度雑誌を逃すと過去の回を読むことは困難という状況に置かれていました。今回の無料公開も、過去回をもう一度読んでもらうための取り組みの1つといえます。
長きに渡って不遇の境遇にあった「解体屋ゲン」でしたが、昨年スマートフォン用アプリ「漫王」で、過去回を期間限定で無料公開することが実現。現在も第2期として101話~200話が無料公開されています。
星野さんはこれまでの状況について「ガラケーコミック、電子書籍、スマホアプリ、と周囲の状況がどんどん変わってゆく中で『解体屋ゲン』はそれに乗り遅れていました」とし、スマホ配信の実現を通じて「何かアクションを起こさなければ、なるものもならない」と感じたそうです。
また、星野さんは第655話の公開に「物語の強度が強ければ1話だけの公開でも読者に届く」という思いも込めたそう。「本当にいいと信じるものを描き続ければ、時代を越えて読んでもらえる」という原作執筆への思いを明かし、「今回の公開を通じてそれがちょっと確信に変わりました」と手応えを感じているようです。
「解体屋ゲン」は、現在も過去回を公開する新しい道を各方面で模索中だそう。最後に星野さんは「読者の人がもっと読みたいと言ってくれるのが、作者にとっては一番ありがたいです。皆さん、応援よろしくお願いします!」とメッセージを送ってくれました。
関連記事
伝説の漫画「MMR マガジンミステリー調査班」はこうして作られていた タナカ・イケダ・トマル隊員が語る「MMR」制作の裏側(前編)
最新刊「新生MMR 迫りくる人類滅亡3大危機(トリプルクライシス)!!」発売を記念して、当時のMMR隊員たちに連載開始時から最新刊発売までの裏側を語ってもらいました。「“読者のニーズが”とか言ってるヤツを見ると、ムカッと腹立つんですよ」 20周年を迎えた「コミックビーム」が目指すもの
11月12日で晴れて20周年を迎えた「月刊コミックビーム」。これを記念して、同誌・奥村勝彦編集総長にインタビューを行いました。漫画「フェイスブックポリス」が話題のかっぴーさんにインタビュー 「SNSで自分を良く見せたい=ダサ可愛い」
フェイスブックで可愛い子と絡みたがるのも、自分が美人に写っている写真をアップしたがるのも、インテリな話題に言及しちゃうのも、オシャレな料理写真を載せるのも、みんなみんなダサくて可愛い!!!ゲイアートの巨匠は“一般誌”で何を伝えるか
『さぶ』『Badi』といったゲイの専門誌での連載や、海外ではゲイアートの個展を開くなどしてその名を知られる田亀源五郎さん。5月25日に第1巻が発売された『弟の夫』の魅力を中心に田亀さんに迫る。須田剛一×コミックビーム 異端と異端のコラボが産んだ「暗闇ダンス」は“狂人の作ったテーマパーク”
「暗闇ダンス」第1巻発売を記念して、原作者・須田剛一さんと、コミックビーム・奥村勝彦“編集総長”にお話を聞きました。“野球版テニプリ”と話題の漫画「デッド・オア・ストライク」 作者の西森生さんに突撃インタビューしてみた
野球漫画ではなく、バトル漫画です。連載を取り消された漫画家の復活劇――『あいこのまーちゃん』が書店に並ぶ日
「不健全図書」に該当する可能性を指摘され、連載中止となった漫画『あいこのまーちゃん』。同作の単行本化に向け、クラウドファンディングやニコニコ生放送、273時間の作画配信などさまざまなことにチャレンジしてきた漫画家・やまもとありさ先生とは一体どういう人物なのか。ロングインタビューでやまもと先生に迫った。「戦争をしている国の子どもにも届けてほしい」 ちばてつやが「風のように」に込めた日本人らしさ
インタビュアーはアニメ「風のように」のプロデューサーを務めるエクラアニマルの豊永ひとみ。フランスのコミック史上最高のスタートを切った「ワンパンマン」、何が鍵だったのか
ジュンク堂パリ支店長や版元となっているクロカワの担当編集に聞いてみました。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.