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鳥嶋和彦、田尻智、シブサワ・コウ―― とんでもないインタビューを量産し続けるサイト「電ファミニコゲーマー」とは何者なのか(3/6 ページ)

電ファミニコゲーマー編集長であり、インタビュー連載「ゲームの企画書」を手がけるリインフォース・平信一さんにお話を聞きました。

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TAITAI&稲葉ほたての名コンビ

―― ほとんどの場合、2人以上を対象にインタビューされていますが、お一人の時よりも幅広い話が聞けている印象がありますね。

平:
 インタビューっていかに本心を語ってもらうかなので、例えば田尻さんも僕が1人で行って本心をさらけ出して語ってくれるかというとそれは無理でしょう。だから企画段階でやることは「本心を話せる組み合わせ」や「テーマ」を設定することなんですね。(サポート役の)稲葉ほたてさんとは濃くやりとりしていて、最初の企画の切り口は相当こだわってますね。

―― 稲葉さんも同席されてるのでお聞きしますが、現場ではお二人の役割分担などはあったりするんでしょうか?

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稲葉:
 基本的には、平さんがゲームについてメインで質問していく感じです。

 僕はもともとカルチャー批評周りの仕事もしていた人間なので、個別のジャンル史を超えたサブカルチャーの大きな流れは意識してますね。平さんを手伝い始めてすぐに、漫画やアニメの方面で発見されてきた大枠のロジックが、ゲームにも当てはまるかを考えている人があまりいないことに気づいて、それを踏まえれば今までにない話を引き出せるだろうと思いました。例えば「桃鉄(桃太郎電鉄)」なんか、週刊少年ジャンプや西武グループみたいな、戦後サブカルチャー史の文脈の交差点みたいなゲームなのに、そういう視点の記事が見つからなくて。そもそも、さくまあきらさんが関わってるのに、ほとんど師匠の小池一夫さんの話とか聞いてないじゃないですか。

―― さくまさんに話を聞けるのに、劇画村塾までさかのぼらないのはもったいないですよね。

稲葉:
 僕としては衝撃だったんですよ、「なんで聞いてないの?」と。ジャンプに関わって小池一夫に師事した人がゲームを作ってるなら、当然影響があるはずなのに。だから平さんに、ぜひ取材ではそこを聞きましょうと。

平:
 他のジャンルだったら作家の生い立ちから始まる逸話はいくらでも転がってるのに、ことゲームに関するとあんまりないねって。それをちゃんと聞かなきゃいけないですね、という話はしてたかな。そこもメディアの役割であるはずなのに、今のゲームメディアはやれていない。

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―― ゲーム自体についての話は、既に聞かれてることが多いですよね。

平:
 「ゲームの企画書」に関しては、ゲームの細かい話に振りすぎないように気を付けているんです。稲葉さんはゲーム専門ではないので、漫画や映画とか他の文化の話から切り込んでくる。そうすることでゲームのすごさが逆に浮かび上がる感じかな。このUIがどうとか、ゲームの外の人たちからはよく分からない話なので。そこを分からせるためのフックとして他の文化を絡めるのは、既存のゲーム媒体ではやれてないことの1つかなと。

稲葉:
 平さんも僕も、常に「日本ならではのゲーム文化というものをしっかり考えたい」というのが裏テーマとしてはありますよね。

平:
 いま、それがやれる最善のタイミングなんですよ。もともと4Gamerでやりたいと思っていたことで、巡り合わせとしか言いようがないですね。

過去語りだけに終始させない

稲葉:
 ただ、平さんは「クリエイターを応援したい」という思いが強いように見えます。

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平:
 それはあります。僕らがお会いしたスタークリエイターって、話を聞くとめちゃくちゃ面白いし、ゲームの黎明期に、ゲームという面白いものを発見して、信念を持ってゲームという形にして広げていった、そのスゴさは本物なわけですよ。僕は、この人たちが本当にすごいんだってことを伝えたいんです。

―― 過去のエピソードを並べるのではなく、常にクリエイターたちの発想のすごさを引き出そうとされてますよね。

平:
  一連の取材で気を付けていることの1つは「過去語りだけに終始させない」ということです。彼らの話は、現代でも通じる普遍的な話として僕らは受け止めるべきだし、その知見や洞察は、人工知能やVRをはじめ、コンピューターと人間の関わり方に変革が求められる今こそ必要なものなんじゃないか、という思いすらあります。

稲葉:
 それこそ「桃鉄」のさくまさんの作り方は、マスを意識した企画を立てる人には必ず現代でも役立つし、中村さんの「不思議のダンジョン」の話はWebプラットフォームのUI/UX設計のヒントになるかもしれない。Webのメディアの周辺でITやサブカルチャーを取材してきた人間として、そういう現代性を持った話題は必ずピックアップするようにしています。

 そもそも黎明期のゲームはパソコン文化から始まっているので、彼らの歴史は現代につながる日本のIT業界前史でもあると思うんです。彼らの話を丹念に拾い上げていくと、ゲーム業界もネット業界も飲み込んだ、これまでにない日本のIT史が描けるんじゃないかな、と最近は勝手に思っています(笑)。

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―― 「ゲームの企画書」は昔話というより、今現在の話なんですね。

稲葉:
 黎明期のクリエイターの人たちの、コンピュータと人間の関わりについての洞察の深さは本当に衝撃的で。特にコンピュータと人間の関わり方を一個一個考えていたのに驚くんです。

 例えば、中村さんが「ニコニコ自作ゲームフェス」で審査したRPGツクール作品を会議室で後日もう一度プレイしてくれたことがあったのですが、扉に入るシーンで、接触した“瞬間”に中に入ったのを見て「だめだめ」って言って。そして、「キャラがオブジェクトに重なってから画面遷移しないと、人は『入った』気持ちになれないよ」と言うんです。

 その後も、本当に操作しては10秒おきに「こういう場合は、こうするといい」と次々に指摘してきて、そのどれもが本当に深いレベルで考えぬかれた言葉なんです。そのとき、「ドラクエ」などのゲームは、中村さんたちのこれほど丁寧で細やかな配慮の集積でできていたのか、と感動したんです。僕にとってはですが、彼らの辿り着いていた洞察の深さというのは、最近のIT業界の「デザイン思考」みたいな話を聞かされるよりずっと刺激的だし、未来に繋がっている話に思えるんです。

平:
 ゲームの発展に、そういう集積は絶対必要だよね。アカデミックな取り組みもいいんですが、日本のクリエイターたちの洞察は資料として残ってないし、何らかの形で残していったほうがいいだろうなと思ってます。

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―― 本人たちがすごすぎて、当人たちは資料にするまでもなく当たり前だと思ってるんでしょうね。

平:
 岩田(聡)さんも、宮本(茂)さんのすごさは自覚的にアウトプットされないから、アウトプットさせるべきだと言っていた記憶があります。かつてのスタークリエイターたちは、それに劣らないすごさを皆さん持っていて、それが集積したのが「日本のゲームの良さ」であると。そうした知識を、ゲームを作る下地として残して行きたいなと。

―― 岩田さんご自身がクリエイターで、現場のクリエイターから「面白さの秘密」を引き出した「社長が訊く」のような試みがもっと必要ですよね。

平:
 あれはむしろ、メディアがやれない切り口ですね。あの企画はメディアのある種の敗北だったのかなと、あれを見たときに悔しかったんですよ。

社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』」(任天堂公式サイト内「社長が訊く」より)

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