遠藤雅伸に聞く:ゲームデザイナーとなるには、ゲームの面白さを知るには、どんな本を読めばいいのか?(2/5 ページ)
ゲームデザイナー&研究者・遠藤雅伸インタビュー。
遠藤雅伸のゲーム講義・ゲームプレイ
―― 次に先生ご自身のゲームデザイン論についてお伺いします。ご著書「遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継」(以下『ゲームデザイン講義』)の末尾に「何らかの形で、この本もアップデートすることを約束して、最後の結びとしたい」とありました(同書363ページ)。どのような形でおやりになる予定ですか。
遠藤 もうあの本(2012年初版)の内容は古いので、大学の授業は全部アップデートしています。ただし今はアップデートの内容を書く余裕がない。
あの本は宮城大学において行った授業を、社内セミナーの形でやったものをビデオに収録しておき、そこから起こしました(「まえがき」『ゲームデザイン講義』pp.iii-iv.)。
今のゲームデザインの授業は演習とレクチャーの2つありますが、宮城大学ではレクチャー含めて網羅的に行いました。でもバージョンアップするなら以前の内容にはならない。
ゲームの作り方がどう変化しているのか、最新研究を踏まえながらゲームデザイン単体について書くべきであって、具体的にはいま東京工科大学で博士課程におりますので、そこで博士論文を出した後にテキスト化できればいいと考えています。
―― 「ゲームデザイン講義」ではデザインのメカニカルな部分、例えばゲーム機のボタンに関する考察にも紙面が割かれていました。しかしアップデート版を書く際にはゲームデザインに絞っておやりになるということでしょうか? また「ゲームデザイン講義」の現行版ではロジェ・カイヨワ(フランスの思想家)が多く引用されていましたが、それ以外に文中で明示がなかった参考文献があればご紹介お願いします。
遠藤 アップデート版の構想ですが、読者にはまずゲームの歴史をゲーム制作時の共通認識として取得してほしい、そのくらいの盛り込みは考えています。
例えば風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の改正はムチャムチャ大変な影響でして、それだけで1コマ分の授業ができるほど重要です。風営法がなければゲームセンターはもうちょっと生き延びられたのではないでしょうか。
また現行版の執筆において参考にしたのは以下の通りです。研究者でいえば主にトレイシー・フラートン(現・南カリフォルニア大学准教授、代表作に『中ヒットに導くゲームデザイン』)辺りですね。
- ケイティ・サレン&エリック・ジマーマン「ルールズ・オブ・プレイ」
- アーネスト・アダムス「ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザイン」
- 小山友介「日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで」
中でもうちの学生も一番喜んでいるのが、小山先生の「日本デジタルゲーム産業史」です。おかげで、以前はゲーム史を扱うのに予稿をまとめるなど苦労したのが、だいぶん楽になりました。もっとも私自身、3年前までそんなこと何も考えていなかった。
―― その3年前というのはゲームクリエイター・飯野賢治氏の逝去(2013年)ということでしょうか? またそのころ「グランディア」シリーズの宮路武氏も逝去(2011年)されていますが、そのようなゲーム関係者の訃報に触れる機会が多くなったのでは……?
遠藤 そうです。飯野氏が亡くなったとき「俺も死ぬな」と思いました。もうそろそろ死ぬときのことを考えないといけない。そう思ったときに息子から「それならお父さんは転職したら?」と薦められて東京工芸大学にやってきた次第です(2014年着任)。
訃報に触れることは多いですね。うちの「株式会社ゲームスタジオ」(遠藤氏が2017年現在相談役を務める)のプロデューサー宮田大輔も心不全で亡くなりました。このままですと自分もピンピンコロリとなりそうですが、いつでも大丈夫なようにしておきます(笑)。
―― ところで大学といえば、今お伺いしている遠藤先生の研究室には、随分書籍が積んでありますけれど、これは研究や教育に使うため、という理解でよろしいですか?
遠藤 そうですね。でも本を読んでいる時間ないので、この辺の本を読む時間すらもったいない。
―― アナログゲームも研究のためにプレイされるのでしょうか。どんなゲームをプレイされますか?
遠藤 比較的評価の高かったゲームは一通り研究のためプレイしています。ここでいう「評価」とはドイツ年間ゲーム大賞で決勝に残ったりするものですが、決勝に残る以前で「これはよさそうだ」という対象も網羅しています。なおプレイは学生にお願いしています。
学生がプレイできる状態をつくってから「新作ゲーム来たからよろしく」と声掛けすると、彼らが「これは教材として使える、使えない」と報告してくれる。それを踏まえて使っています。
―― すると学生から上がったプレイレポートを見て、教材として使う使わないと決める?
遠藤 そうです。ただ基本的にアナログゲームは嫌いです。
―― 遠藤先生はアナログゲームがお嫌いなんですか!?
遠藤 アナログゲームは広げて用意する手間が掛かる上、説明書を読んで内容を理解する、そのハードルの高さもへきえきします。時間が長いゲームはとにかくダメでして、遠藤の研究室で購入するゲームは「プレイ時間60分まで」と制限を設けています。
たまにプレイ時間の長いのも買いますが、それは意図があってのこと。学生がプレイの上で「これはこういうコンポーネントで教材として使える、使えない」と評価する、そのためにあるゲームです。
この研究室には学生が遊ばなきゃいけないものを置いてあり、弊校の厚木キャンパスにも教材用のゲームが大量に確保されています。
―― 最近のアナログゲームは登場のスパンが短くなってきているようですが、先生の研究室でゲームを備蓄するのはそれと関係しているのでしょうか。
遠藤 アナログゲームは一度出たら二度作られないことが多い。新しくバージョンアップされたコンテンツがないから、古いのをそのまま使うという場合もあります。厚木にはその種のゲームを置きっぱなしです。
―― すると遠藤先生はアナログゲームを昔からプレイしている……?
遠藤 プレイは昔からしています。今でも「遊びましょう」といわれて断らないアナログゲームは以下の通り。
スプレンダーは勝ち筋がまだよく分からないのが面白い。それからアブルクセンを分析したときにディスカッションしたのですが、自分の手筋を組み立てるのと相手のそれを妨害する、その両方の要素が含まれているのが面白いという話になりました。この面白さを突き詰めたとき「麻雀」に通じるものがある。
一応申し上げますと、プロ雀士の方々とも打ちますが、賭け麻雀は好きではありません。そもそも「麻雀」は賭けに適したゲームではありません。ベット額が決まっていないですから。むしろ競技麻雀の方が好きなのはそういう理由からです。
とはいえ以上のようにアブルクセンのおかげで麻雀は知っておかないといけないゲームだと分かりましたから、うちの研究室では必ずプレイするようセットを置いてあります。
ただしプレイ時は競技麻雀に近い特別ルールを採用しています。一万点持ちの一万点返し、連荘なし。プレイ時間も一定に近く、箱テンでプレイ終了。振り込んだらそれで終わりで次やろう、という感じになっています。
―― プレイ時間を短くされることを強く意識されておいでのようですが?
遠藤 もちろん。プレイ時間が短くないとリプレイのモチベーションが失われてしまう。半チャン一回やっている途中で抜けてしまったプレイヤーが次に参加しないで「もうやめよう」と言い出す状況はよくあるじゃないですか。そうならないようプレイを速く進めます。
―― 「ゲームデザイン講義」ではゲーム「ディプロマシー」にも言及されていますが、あれは逆に長時間を要するゲームですね。遠藤先生もプレイされているのでしょうか?
遠藤 ディプロマシーはなかなか面白いゲームだと思っています。60分では終わらないけれどあれは特別。教材に使うのではなく、学生が合宿してプレイしています。そうしたこともあり、遠藤の研究室はゲーム研究において日本でも最適の環境ではないかと自負しております。
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