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今なお語り継がれるキング・オブ・ヤンデレの貫禄 アニメ「School Days」伝説の“Nice boat.事件”からヤンデレブームを振り返るかーずSPのインターネット回顧録

オーバーフロー代表・メイザーズぬまきち氏にも当時を振り返ってもらいました。

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 皆さん「ヤンデレ」ってご存じですか? ラブコメやギャルゲーなどで、主人公を好きすぎて心を病んでしまう女の子を指します(でもメンヘラとは別物)。

 そんなヤンデレヒロインたちが大活躍した時代がありました。「未来日記」の我妻由乃(マンガ連載開始は2006年)、「ひぐらしのなく頃に」の園崎詩音(「目隠し編」が2004年末)、アニメ版「SHUFFLE!」の芙蓉楓(アニメ第二期が2007年)――。

 偶然か、必然か。同じ時期に、それぞれの伝説を残したヤンデレヒロイン。そしてその中でもキング・オブ・ヤンデレとしてインターネットの歴史に刻まれたのが、「School Days」の桂言葉でした。彼女が起こした旋風とはどんなものだったのか、「School Days」の生みの親、オーバーフロー代表・メイザーズぬまきち氏(@obenkyounuma)へのインタビューも交えつつ、2007年秋「Nice boat.事件」について振り返ります。

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School Days Blu-ray BOX(Amazon.co.jpより)

海外の画像掲示板で生まれた「Nice boat.」

 「School Days」は2005年にオーバーフローから発売された美少女ゲームです。伊藤誠(いとうまこと/男)、桂言葉(かつらことのは/女)、西園寺世界(さいおんじせかい/女)の三角関係を描いた恋愛劇。修羅場シーンが多く、当時から陰惨なバッドエンドが話題となっていました。

 そして、どこまで映像化するのか注目されていたアニメ放映、最終回前の11話。心が壊れて、着信拒否された電話をかけ続ける言葉でしたが、誠とよりを戻し、目の輝きを取り戻します。じゃあ、妊娠して捨てられた世界はどうなる――?

 誰もが1週間やきもきしていた最終回は結局、前日に起こった事件(※)への配慮からか、結局、自粛により放映中止となりました。そして最終回の時間帯に流れたのが、ピアノの旋律が響く、海外の風景を撮影した環境ビデオ。

※編注:京田辺警察官殺害事件。最終回放送前日、16歳の少女が刃物で父親を殺害するという事件があった

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問題のボートは4分37秒から

 ボート登場は4分37秒から。海外の画像掲示板「4chan」で、この船のキャプチャ画像に「Nice boat.」とコメントがつきます。“放送休止に阿鼻叫喚の大騒ぎになっていた日本側と正反対のこのクールすぎる一言が笑いを誘い”(はてなキーワードより)、一気に「Nice boat.」が広まりました。

「Nice boat.」はその後AAにもなりました

時の名言となった「中に誰もいませんよ」

 アニメ「School Days」の最終回は、ゲームとは異なるオリジナルシナリオでした。誠は世界に、包丁でめった刺しにされて死亡。世界は言葉に首をノコギリで斬られて死亡。世界の妊娠を疑う言葉はお腹を切開します。赤ちゃんの有無を確認したせりふ、

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 「中に誰もいませんよ」

――は時の名言になります。誠の生首を抱えた言葉が船出するエンディングは衝撃です。偶然にも「Nice boat.」と船がかかったシャレにもつながり、伝説の事件となりました。

 あの「Nice boat.」事件を、企画・脚本・製作総指揮を務めたメイザーズぬまきち氏は当時どのように見ていたのか。アニメ版の裏話から、ヤンデレヒロインがウケた時流の分析まで、詳しく語っていただきました。

2006年発売の「Summer Days」、2010年発売の「Cross Days」と合わせて「デイズシリーズ」とも呼ばれています

今だから語れる最終回の裏話! メイザーズぬまきち氏インタビュー

――ゲーム版の発売当時、ユーザーからの評判や感想はどうでしたか?

メイザーズぬまきち氏(以下、ぬまきち):アニメーションを用いたゲームということで期待感は高かったと思います。発売後はゲーム誌のみならず、東スポ様にも取り上げられたので、内容面での評価が広く認知されていたように思います(笑)。

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──世界と言葉、どちらが人気ありますか?

ぬまきち:(ユーザーから)お声がけをいただく限りでは同じくらいの比率に感じますが、グッズを両方出すと圧倒的に言葉寄りになるので、言葉の方が人気があるのかなと感じています。今も言葉のグッズは新規描き下ろしを含めて毎年たくさん出ていますので、この記事を見て「懐かしいな!」と思ったら、お買いあげいただけるとうれしいです。

──アニメのラストはオリジナルでした。こちらは誰の発案だったのでしょうか?

ぬまきち:企画時点でテレビアニメ版のプロデューサーが、アニメオリジナルのバッドエンドにすることを決めていました。

──地上波で最終話が放映されなかった時の率直なお気持ちをうかがえればと存じます。

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ぬまきち:放送各局にも納品済みで放送OKをいただいていたので、大変残念に思いました。何とか世に送り出したいと思い、秋葉原UDXにある劇場(UDX THEATER)を借り切って上映しました。

当時の様子を伝えるアキバBlogの記事「『School Days』最終話試写会 誠が刺されるシーンでは拍手も」(※リンク先18歳以上対象)

──私も参加しました。上映後は周囲も無言の方が多くて、最終回をかみしめていたような記憶があります。

ぬまきち:無言の方もいらっしゃいましたが、出口でごあいさつさせていただいたかぎりでは、笑顔で出ていかれる方が多かったです。無理しても上映して良かったと感じました。「こんなに残酷な内容では、殺人事件による自粛がなくても放送できなかったのでは」と、シニカルに笑って盛り上がっていたように思います。

──「どちらにしろこれはテレビでは無理でしょ!」ってみんな言ってました(笑)。

ぬまきち:ただ同じ週に、事件と同じ凶器で人を殺すアニメがあって、そちらは放送されていたので、“美少女ゲーム原作”という社会的立場の弱さを実感しました。それでも、その年の幹事会社の決算報告に「プリキュア」と並んで売れたアニメとして「School Days」が掲載されました。ヒットしたことで製作委員会に受けたご恩をいくばくかでもお返しできたとすれば、幸いだと思います。そうしたヒットも、最後まで視聴してくださった皆さんの支えがあってのことなので、当時盛り上がってくれた視聴者の方々には、感謝の念でいっぱいです。

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──「School Days」と同時期に「未来日記」「ひぐらしのなく頃に」アニメ版「SHUFFLE!」など、ヤンデレ属性が流行しました。当時のブームをどう思われていますか?

ぬまきち:アニメ版「SHUFFLE!」の脚本を書かれている方々の中には、「School Days」を作る前に脚本をお願いしていた方もいらっしゃいました。どこか通じ合うものがあったのかもしれません。「未来日記」と「ひぐらしのなく頃に」は、いずれも情念の方向性が恋愛よりも家庭不和や自我寄りなので、ヤンデレといっても違う向きだと思います。ですがいずれも大好きで、あの頃、私も夢中になっていました。そういうものに盛り上がる空気感のようなものがあったと思います。

ヤンデレの愛にうそ偽りはない。それがイイ

 インタビューの最後にあったように、桂言葉と並んで、我妻由乃、園崎詩音、芙蓉楓(アニメ版)もヤンデレとして有名になっています。私もライターとして参加した『ヤンデレ大全』では、この4人をヤンデレ四天王と命名していました。

ヤンデレ大全(INFOREST MOOK Animeted Angels MANIA)

 もちろん過去にはスティーブン・キングの『ミザリー』、『ジョジョの奇妙な冒険』の山岸由花子など、ヤンデレはたくさんいます。ですが同時期に、萌え文化から伝説級のヤンデレヒロインが次々に登場したという現象はユニークです。

 では、ヤンデレの何が良いんでしょうか。『ヤンデレ大全』や、私が責任編集として参加している『現代視覚文化研究 2』でもヤンデレのコラムを書いてもらった、みやも(@miyamo_7)さんのヤンデレ論を簡単にまとめます。

現代文化視覚研究2

 まず「残酷なものや恐怖を、安全な位置から眺めていたい」という人間の薄暗い欲求。ジェットコースターやホラー映画のような、安全が保証された恐怖や苦痛を体験する楽しみ。そして自分よりも不幸な人間を眺めて「あれよりは私はマシだ」と再確認するという汚れた感情。フィクション作品やエンタメで、否定しきれない負の感情を解消するのは正しいことだと思います。

 「School Days」は、ひどいヤツがひどい殺され方をして、胸がスカッとする快感もあります。「School Days」のめった刺し、「誠ざまあw」って、みんな思いましたよね? 埋め尽くされた当時のニコニコ動画の弾幕がそれを証明しています。

 また、ヤンデレの子は「私と相手が結ばれればそれでいい」という世界の狭さがあります。私たちオタクはコミュニケーションが得意でなく、一般人と会話するのがすごく苦手です(違う人はゴメン)。だから「かわいい萌えヒロインと俺だけ」を考えればいいというのは心地よい。「新世紀エヴァンゲリオン」以降に流行った「セカイ系」も、同じ性質を抱えています。

 ですが、私がヤンデレを好きな一番の理由は違います。ヤンデレは、絶対に裏切らない純粋な愛情を感じられるのがすばらしい。世の中、他人の気持ちなんてしょせん分かりません。相手の言葉も、うそか本当か100%信用できませんし(←人間不信)。

 それでも信じられるのが、ヤンデレの愛。「心を病むほど相手が好きならば、さすがにそれはうそではないだろう」と。桂言葉の愛は、重たいし凶行沙汰になりました。でも、誠の頭を抱えて船に流されている、あの瞬間の幸せそうな横顔。言葉視点で物語を追えば、徹底した純愛ストーリーですよ。滅びながら愛を貫くのは、純文学っぽくもあります。その美しさに強烈にひかれるんです。

ヤンデレ復権の兆し!? 『恋愛暴君』『ハッピーシュガーライフ』に注目

 ヤンデレブームはひとまず落ち着きます。理由はおそらく、強すぎる個性だから。例えばギャルゲーの中に1人だけヤンデレがいると仮定します。ヤンデレだけが目立って作品のカラーが引っ張られて、ゲーム全体のイメージが染められてしまいます。私はこれを「どんな料理も、カレーを混ぜたらカレーになってしまう」理論と呼んでいます。ヤンデレは、スパイスとして使うには強すぎます。

 しかし昨今、怖かわいいヤンデレの女の子たちが続出しています。2012年マンガ連載開始、現在アニメも放映中の『恋愛暴君』から、メインヒロインの緋山茜(ひやま あかね)。主人公・藍野青司(あいの せいじ)と両思いの末、恋人同士となりました。ところが青司のラッキースケベ体質が許せず、青司に近づく女には容赦がありません。結果、グルカナイフを振り回すことに。

「恋愛暴君(1)」(メテオCOMICS)

 もう1つ、2015年に連載を開始した『ハッピーシュガーライフ』。松坂さとうは、身元不明の幼女・神戸しおにぞっこん。2人の生活を守るために、さとうは邪魔する相手を頭脳と行動で解決していきます。ためらいなく急所を狙ったり、わなで相手をハメて追い込むなど、心のリミッターが振り切れているのが魅力。愛情を向ける相手がロリで百合というのも絵になります。

「ハッピーシュガーライフ」(ガンガンコミックスJOKER)

 魅力的なヤンデレヒロインが再び脚光が浴びつつある2017年。また「Nice boat.」のような騒乱で、あのお祭り騒ぎを楽しみたい。なんて思うのは不謹慎ですかね。

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