コラム

「カタカナは20文字だけ」「没アイテムで宝箱がカラッポに」 ファミコンハードの限界に挑んだ制作者たち(1/3 ページ)

あの手この手で容量を節約。

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 2018年現在、増加の一途をたどるゲームの容量。もはや1本で30GBを超えるようなソフトも当たり前で、例えば昨年発売されたPCゲーム「シャドウ・オブ・ウォー」に至っては、97.7GBもあります。

 これに対して、昔のファミコンソフトの容量は微々たるものでした。全世界で4024万本が売れたという「スーパーマリオブラザーズ」はたった“40KB”。現在の携帯電話で撮影した写真が当然のように数MBあることを考えると、驚きの低容量です。

ファミコンの容量節約伝説
たったの40KBで作られているスーパーマリオブラザーズ。ちなみにこの画像も約40KB

 RPGの「ドラゴンクエスト」ですら、初代の「1」はわずか64KB。「2」が128KB。「3」が256KB、ファミコンでのラスト作であり、5章からなる「4」ですら512KBにすぎなかったのです(※1)。

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(※1…当時からのファンなら「ドラクエ3が2メガ、ドラクエ4が4メガ……」という風に覚えていた方も多いと思いますが、実はこれ、バイトでは無くビットの数字です。ビットはバイトの8分の1なので、バイトに換算すると上記の数値になるわけです)

 いま考えると「絶望的に少ない容量」「貧弱なグラフィックと音の仕様」で、大冒険活劇を描ききった当時のゲームクリエイターたち。彼らは「その手があったか!」という工夫と、徹底した「データカット」で、限られたハード性能の中に厳選した内容を詰め込みました。

 当時の伝説のクリエイターたちが語った“容量節約秘話”を、過去の文献などから見ていきましょう。

ドラクエ1で使ったカタカナは20文字だけ!

 「ドラゴンクエスト1」が登場する前、PCではすでにRPGが楽しまれていたものの、それをファミコンで再現するのは不可能といわれていました。なぜそれを64KBで実現できたのでしょうか。

 まずキャラに横や後ろを向かせると、その分の容量が使われてしまうので、常に前を向いています。そのため「カニ歩き」と揶揄(やゆ)される独特の歩き方になりました。

 さらに使う文字を制限しました。カタカナはたったの「20文字」に抑えたのです。最初に呪文やモンスターへ自由に名前をつけて、使っているカタカナを洗い出し、頻度の高い方から20番目までの文字を選んで、そこに無い文字は別の文字に変更しました。

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ファミコンの容量節約伝説
カタカナの半分以上を奪われてもどうにかする職人・堀井雄二(『おとなのしくみ(4)』/鈴木みそ/エンターブレインより)
ファミコンの容量節約伝説
たったこれだけしか使えなかった(『しんでしまうとは なにごとだ!』/堀井雄二(原著)/スクウェア・エニックス)

 結局、使えたのは「イ・カ・キ・コ・シ・ス・タ・ト・ヘ・ホ・マ・ミ・ム・メ・ラ・リ・ル・レ・ロ・ン」の20文字。これに「゛」(濁点)と「―」(音引き)の組み合わせを入れ、さらにひらがなと似た「ヘ」や「リ」などをひらがなと共通にすることで、さらに文字数の削減を図ったのです。

ドラクエ1の文字「ひらがなの間にスペースを空け、読点は使わない」

 ひらがなが多くなるので、堀井雄二氏は独特の文章ルールと限られた文字数でセリフを紡いでいきました。そう、この逆境を逆手にとって、あの堀井節が生まれていくのです。

 堀井 漢字を使えないので、ひらがなが続くときはスペースを空ける。(中略)ひらがなだけのスペースを多用した文章に、いちいち読点が入ると、とてもうるさいだろうと考え、読点を使わないことにしました。(中略)同様の理由で、セリフの終わりを、【「】(カギカッコ)で閉じないことにしました。

出典:『しんでしまうとは なにごとだ!』(スクウェア・エニックス)


スペースを空けて文章を読みやすくしている(『しんでしまうとは なにごとだ!』/堀井雄二(原著)/スクウェア・エニックス)

ダンジョンの下へ行くごとに、同じ曲のテンポと音程を下げて恐怖感を演出

 さらに音楽家のすぎやまこういち氏は、ダンジョンでは同じ曲でも臨場感を出すため、下の階へ降りるごとに、音程が下がり、テンポもゆっくりにすることで、かえって「洞窟としての恐怖感」を増すことに成功しました。


一曲でさまざまな表情を出す(『ドラゴンクエストへの道』/滝沢ひろゆき・石ノ森章太郎/ガンガンコミックスより)

ドラクエ2は「紙芝居」でシナリオが展開されるはずだった!

 「ドラゴンクエスト2」は「1」と比べ容量が2倍になったものの、いまだ128KB。それでいて、フィールドがグンと広くなり、1人→3人パーティへと進化していて、これまた壮絶な容量節約が徹底されました。

 CGデザイナーの安野隆志氏が証言しています。

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 一番大きかったのは、ストーリーや場所を説明する、一枚絵が全然入らなかったこと。ゲームの取扱い説明書の6ページに、ローレシアの城の中の絵があるでしょう。王様とか王子様とかいるやつ。あれが実は、画面写真なんです。あんな絵が10枚くらい入る予定だったんですけどね。

出典:『ドラゴンクエスト25周年記念冊子・ファミコン神拳奥義大全書』(スクウェア・エニックス)

このような1枚絵が10枚ほど入るはずだった

 もともとは、紙芝居的にシナリオを1枚絵で説明していく形になるはずだったそうです。さらにドラクエ3で初登場した「あぶないみずぎ」も本当は2から採用され、ムーンブルクの王女に着せられたはずでしたが、あえなくカットされてしまいました。

なおMSX版ドラクエ2ではあぶないみずぎのシーンを見ることができる

ドラクエ2に「カラッポ」の宝箱がある理由

 さらに、堀井雄二氏は「耳せん」や「死のオルゴール」などの気になるアイテムがカットされたり、「カラッポの宝箱にはアイテムが入っていた」ことを証言。さらには、「逃げる階段のダンジョン」などの未収録要素も用意されていたといいます。

 メモリの制約から、なくなってしまったアイテムも少なくないのだ。ところどころにカラッポの宝箱があったりするのは、その名残りである。

 想像力豊かなキミはカラッポの宝箱を前に「ここはなにが入っていたんだろう」などあれこれ考えてみるのも楽しいかもしれない。

<『ファミコン通信』1987年8月10日号>


「耳せん」などのアイテムが無くなることが記されている(『ファミコン通信』1987年7月10日号より)

ドラクエ3の超シンプルなオープニングには、アニメシーンがあるはずだった!

 「ドラゴンクエスト3」で、ようやく容量は256KBに。しかし堀井雄二氏の手元には、その倍ほどの量の原稿があり、壮絶なメモリ節約に追われることになったそうです。

 ドラクエ3といえば、無音で真っ黒な、あまりにシンプルなオープニング。しかしそこには、本来アニメーションシーンが入れられるはずだったのです。


ドラクエ3の「幻のオープニング」とは……?
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