インタビュー

錯覚を起こす人間の脳は「バカじゃない」 “意地悪な立体”を作り続ける錯視研究者・杉原教授が語る「目に見える物の不確かさ」(2/4 ページ)

「ロボットの目」から始まった、「人間の目」の不思議。

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「面白いけれど、何の役に立つ?」

――では不可能立体、人間の脳にとって意地悪な立体を、杉原先生はどのように作っているのでしょうか?

 僕の「絵から立体を認識する」という手法の基本にあるのは、「絵が1つ与えられたら、その絵と同じように見える元の立体は何か」というのを方程式を立てて解くということなんですね。

 先ほども言いましたが、絵には奥行きがないから、方程式は解があるとすれば無限個あります。その無限個の解の中には、人間が見て素直に思い浮かべるものもあれば、それ以外のものもある。そういうものを取りだしてきて実際に作ると、不可能に思える動きが錯覚で作れる、というわけです。

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――完全に数学的な作り方をされているのですね。先生には『スウガクって、なんの役に立ちますか?』という著書もありますが、同じように「錯視の研究って面白いけど何の役に立つの?」と聞かれたときにはどう答えられていますか?

 まず、錯視というのは実際とは目の前が違うように見えてしまうことですから、事故などの原因になるんですね。だからない方がいい。錯視の仕組みを調べた上で、錯視ができるだけ起こらないように生活環境を整えれば、安全につながる。

 生活の中でも錯覚、錯視というのはけっこう起こるんですよ。例えば車を運転しているときに、「自分が走っている道が上りか、下りか」を逆に感じるということはけっこうあります。本当は上りなのに下りに見えてしまうと、アクセルを踏むタイミングが遅れますから、スピードが落ちますよね。それが原因で自然渋滞が発生することも分かっています。

 ゴールデンウィークのような混んでいるときに高速道路で起こる自然渋滞は、いつも同じ場所で起こるんですよ。錯覚の仕組みが分かれば、そういう道路環境をどんな風に整備すれば錯覚が減らせるかというのも分かるはずで、渋滞緩和につながります。

――なるほど。ちなみにその、上りと下りを勘違いしてしまうというのは、どういう状況で起こり得るのですか?

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 まず1つは、周りに水平方向を知る手掛かりがないということですね。水面とか、都会だと大きなビルの窓の並びなどは、水平方向を知る手掛かりになります。一方、トンネルの中や森の中では、水平方向を知る手掛かりがない場合があります。

 そしてもう1つは、「ゆるい上り坂の向こうに急な上り坂」とか、その逆でもいいんですけれど、要は同じ上りだけど傾斜の違うものが2種類つながっていると、脳は「両方とも上り」だとは思いにくいらしくて、一方を明らかな上り、他方は逆に下りだろう、と思ってしまうようです。

――いわゆる“渋滞の名所”などは、そういう条件を満たしている場合が多いということですね。

 はい。錯覚というのは、単なる勘違いではなくて、どうしようもなく起こってしまう、脳が持っている基本的な性質ですから、理性で回避できないんですよ。そうすると、ここは渋滞がよく起こるから、といって文字で看板を出して、「上り坂注意」とか「減速注意」とか書いても効果は薄い。

 ドライバーにその意味が届くまでに時間がかかってしまって、それ以前に傾斜が逆向きに感じられるという部分に足が反応してしまう。だから、感覚に訴える、うまい環境整備をしないことには役に立たない。

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――そういえば、道路に模様をつけてスピードを落とさせるとか、そういう工夫をしている場所もありますよね。

 ありますね。でも、スピードを落とさせるあれは、個人的には危険だと思っています。

――えっ、そうなのですか?

 基本は「なるべく錯覚が起こらない」、真実が伝わるような環境作りをすべきなんですけれど、道路のマーキングはその反対で、ドライバーをだますほうなんですよ。

――あっ……!

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 安い予算で交通安全がはかれると言って導入されることもあるんですけれど、1回目は効果があるかもしれないけれど、一度慣れてしまえば効果は落ちます。例えば道路に突起を描いて、それが絵だったと知ったあとで、本当の突起の前に来たときに「あれはきっと絵だろう」と思って突っ込んでしまったら危ないですよね。ですから、「だまして安全」は確保できないでしょうと、僕は思っています。

脳は「○○と××」が大好き

――他にも、人間の脳がだまされやすい形や状況というのはありますか?

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