インタビュー

「漫画は今、本来届くべきところに届いていない」 『AIの遺電子』作者が語る、2018年に漫画を描くということ(1)(1/5 ページ)

違法な海賊版サイトの存在、漫画家と出版社の役割の変化、問題視される労働環境――気になること全部、聞いてきました。

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 元ITニュース記者という異色の経歴を持ち、テクノロジーに突き動かされる人々の感情を丁寧に描いた作品を発表し続けている漫画家・山田胡瓜(やまだきゅうり)さん。

 第21回文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞した『AIの遺電子』(週刊少年チャンピオン)の連載を終え、続編となる『AIの遺電子 RED QUEEN』(別冊少年チャンピオン)を新たにスタートしています。

 シンギュラリティが訪れた後、ヒューマノイドが人間と同じように暮らす世界――遠い未来の物語を紡ぎ出す作家に、現在の漫画違法アップロードサイトに対して思うことや、出版社・編集者と漫画家の役割の変化、激務とされる労働環境の問題など、「2018年の今、漫画を描くということ」について語ってもらいました。(聞き手:杉本吏、高橋史彦)

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「出版社間を横断した公式サービスが必要」

――作家や出版社に無断でネット上に商業作品をアップロードする、いわゆる海賊版サイトが問題視されています。

胡: まず大前提として、ああいうサイトは無いほうが良いに決まっているし、正当化することはまったくできません。一方で、今はあのようなサイトが普通に、つまり正規に存在していても良い時代になっているのに、出版社側はそのことに対するイメージがあまりに乏しいと思います。

――各社、無料の公式アプリやWebサービスを展開してはいますが。

 出版社ごとには始めていますね。でも、1社で閉じているという時点で既にちょっと厳しい。2周か3周くらい遅れている。

 われわれはKindleや(定額制で読み放題の)Kindle Unlimitedを経験してしまっていて、かつ、似たようなサービスが過去にいくつも閉鎖されてきたのを見てきているので、小さな何誌かでサービスをやっても、そのうち終了してしまうんじゃないかという懸念があります。

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 そもそも、同じ出版社の中でも、いろいろなアプリやサービスが乱立している状況ですよね。もちろん複雑な事情があるのも分かるし、ステップというのがあるのも理解できるけれど、遅いから。いまだに「実験として」って……もうUnlimited始まっちゃってますから。

――海賊版サイトが、そのあたりのニーズにうまくハマってしまっているという側面はありますね。

 だから海賊版サイトは当然良くないんですが、そこで読んでいる人たちに対するネガティブキャンペーンというか、「ユーザー叩き」みたいなのは、あまりすべきではないと思っています。

 こういう(公式な権利者側にもっと良いものを用意してほしいという)問題って過去に何度もありましたよね。電子書籍の自炊(※)のときもそうだったし、音楽とか、最近だとチケットの転売問題なんかも。「モラルを考えて!」とか言うけど、そういう人たちのニーズに全然応えてきていない、っていうのがあるわけじゃないですか。

※電子書籍化がされていない書籍などを、個人(や企業の代行サービス)が独自に電子化することについて、法的なリスクを含めた問題が議論された

 海賊版サイトの存在は、そういう中でもっと全社横断的なサービスが必要なんだという、1つのシグナルなんだと思います。

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――どうすれば出版社側は公式の全社横断的なサービスが作れると思いますか?

 出版社に……できるのかな。可能性があるとしたら、出版社連合か、ニコニコか、赤松健さんがやっているマンガ図書館Zか。

「漫画は今、本来届くべき人に届いていない」

――海賊版サイトが、出版社の売り上げを大きく毀損しているという意見については?

 そういう部分はもちろんあると思います。でも、自分自身が学生だった頃を振り返ると、好きな雑誌は買っていたけど、買わなくても立ち読みするとか普通にやっていたわけですよ。あとはブックオフ。ブックオフは相当出会いのポイントになっていて、ちょっとつまみぐいしておもしろかったら買うっていう。

 だから、タダで触れあうっていうのがぼくの入口だったんです。買ってからおもしろさに気付くわけじゃなくて、無料で触れるっていうのが基本だったわけです。今の若い人もその流れで買うんじゃないかなって。

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――海賊版サイトでは一部ではなく全部読めてしまうので、そこから購買に結び付かずに完結してしまうのでは。

 それはやはり問題で、だからそういうサイトが存続してほしいわけではないけれど、「読み手のモラル」に任せて解決するのは無理だと思います。「あったら見ちゃう」っていうのはもう仕方ないわけで。

 アニメの違法アップロードなんかも同じですよね。海外のファンが勝手に字幕を付けてアップロードしちゃうとか、いけないことだけど、そこで新たなファンが作られてるっていうのも事実なんですよね。違法ですが事実なんです。

――作家として、正規な形で作品へのタッチポイントを増やしたいというわけですね。

 漫画は今、本来届くべき人に届いていない、っていう印象をすごく受けているんです。

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 自分も一人の読み手として、「最近おもしろい作品ないなー」とか思ってた時期もあるんですが、当たり前だけど探せばいくらでもあるんですよね。でもそれがなかなか見つからない。探し方が分からない人もいる。

 全社横断的なサービスができれば、他社の作品も含めてもっと精度の高いレコメンドをしてくれるだろうから、届くべき人に届けられるようになる。

 最近(定額制で聴き放題の)Apple Musicをずっと使っているんですが、すごくいいんです。買うか買わないかっていう決断をしなくていいのがとにかく楽で、音楽を聴くこと自体のハードルがすごく下がる。楽になる。

 定額制だと他社サービスへの乗り換えも気軽にできますよね。(買い切り型のような)「今までためてきた資産」っていう考え方が変わるから、さっき話した「サービスの存続性」みたいなことも考えなくてよくなります。

 音楽の場合はレコメンドがはっきりと出会いの1つになっていて、「この曲いいなー」というのが見つかったらそのアーティストを深堀りしていって、結果的に自分の好きなものを見つけられる。漫画もそうなればいいなと思っています。

つづく

ためし読み「AIの遺電子 RED QUEEN」第1話

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