なぜ新潟や石川が「人口日本一」だったのか? 都道府県の人口推移から見る、日本近代化の歴史(2/4 ページ)
地方が今よりずっと元気だった時代は19世紀にありました。
経済が花開いていた日本海側
19世紀までは経済の中心は第一次産業であったため、作物の王様である「米」を育てるのに適した環境であった日本海側が賑わいました。
加えて、明治の途中で陸路が発達するまで、運送の主役は長らく「海運」でした。その中でも代表的な「北前船」という運送手段が活躍したのも日本海側です。
実は黒潮の流れに逆らって走る太平洋側のルートは当時の船では航海が大変でした。それに対して日本海側の西廻り航路のほうがカンタンかつ安く運べたので、海運の主要ルートだったのです。
日本海側のスーパースター都市「金沢」
当時日本海最大の都市にして、一目置かれていたのが金沢でした。
元金沢大学教授、現在は同志社大学特別客員教授の佐々木雅幸氏によると、幕藩体制では農業生産力の大きさによって石高(こくだか)が決まっていたため、金沢は徳川家の城下町や京都を除くと、日本最大の城下町だったそうです。
2018年4月23日12時39分 追記:佐々木雅幸氏の肩書を現在のものに修正しました。
市レベルでも東京・大阪・京都・名古屋に次ぐ全国第5位の大都市であり、文化の中心地としての貫禄を認められ、日本海側として初めて第九師団が置かれて軍都としての地位も確立していました。また、第四高等学校が全国5つの高校の1つとして設立され、学問的にも先進都市として君臨するなど、まさに日本屈指の一大シティでした。
工業化に立ち遅れ、東京・大阪に人が大流出!
なぜその後、金沢をはじめとした日本海側は、太平洋側に比べて後れを取ってしまったのでしょうか?
その大きな一因は都市圏への大流出でした。コメの一大単作地帯で、太平洋ベルト地帯の工業化についていけなかった北陸は、近代化の進んだ太平洋側にどんどん人口を取られていきました。
農家の次三男らが東京・大阪などの大都市へ流出し、工場労働者のほか、都市化にともなって増える小商人・職人・店員らになったのです。
彼らは、持ち前の粘り強さで、豆腐屋・魚河岸などの朝早くから泥臭く働く業種を得意としていました。特に風呂屋は彼らによって支えられており、東京・大阪の銭湯の初代経営者は、石川・富山・新潟の3県の出身者が約8割を占めるほどでした。
東京・大阪の風呂屋には、今も彼らがはじめた風呂屋が数多く残っています。
さらに「北前船」も鉄道や汽船、通信技術の進歩により、より早く大量の荷物や情報が全国各地に送られるようになったため不要になり、衰退していきました。日本海側は、人もいなくなり、産業も伸びず、長い低迷期に突入していくのです。
ものすごい勢いで北海道に移住!
北陸地域の人口が増えなかったワケのもう1つが、北海道への移民の多さでした。1897年には新潟・富山・石川・福井から約3万人が渡道し、全国からの移住者の半分近くに。さらに1882年から1935年までの間には、その4県から21万5958戸もの戸数が北海道へ移っています。
また北海道への移民は、汗かき型の仕事につくことが多かった東京・大阪組とは打って変わって、札幌の老舗・今井百貨店を開いた今井藤七など、大きな商業での成功を収めた者も多かったといいます。
国際日本文化研究センター教授・井上章一氏の説では、「秋田美人」や「新潟美人」は、経済で取り残された地としての町おこしキャンペーンとして喧伝されたものとしています。
石川が分離して、新潟が返り咲き!(1882~83年)
話は「歴代人口1位の県」に戻ります。1881年、越前が若狭と共に福井県として分県したことで、1882年の統計で石川県は5位まで順位を落とします。そこに返り咲いたのが、新潟県(158万1168人)でした。
さらに、そこへ一気に2位にランクインしたのが大阪府(157万2033人)です。
堺県と一緒になった大阪がトップ(1884~86年)
この大阪府の大きなジャンプアップは、実は合併前の1881年の大阪府(58万6729人)より、現在の奈良県の区域も含まれておりずっと大きい堺県(99万7292人)が合わさったことで可能になりました。そして1884年に大阪府が163万2800人で人口1位となり、その座を”ほぼ4年間”(※)守り通します。
※:ちなみに1886年1月1日までは、1月1日付けで集計がされていたのですが、同年12月31日から、末日付けで人口集計がされるようになります。そのため、1886年だけ、1月1日付けと12月31日付けの集計が共存します。ちょっとまどろっこしいですが、お付き合いください。
全てが東京有利に……明治維新の大ピンチから息を吹き返した大阪
江戸時代に商業として大発展を見せた大阪でしたが、明治のはじめは大ピンチに陥っていました。
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