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育ての親のおばあちゃんが認知症に 介護者の弱さをさらけ出す漫画『祖母の髪を切った日』が他人事として読めない(1/2 ページ)

心を掴まれるような描写の数々。

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 貧しいながら1人きりで育ててくれたおばあちゃんが、認知症になった――。しかばねさんのエッセイ漫画『祖母の髪を切った日』は、進行していくおばあさんの認知症と、それを認めたくなかったご自身の葛藤を描いた作品。成り立たない会話、まわりからの目、未来への不安やストレスなど、さまざまな角度から介護の在り方を教えてくれます。「ヤングエースUP」(KADOKAWA)で連載中で、5月2日に最新回となる第5話が公開されました。

(C)しかばね/KAODOKAWA

おばあちゃんの不可解な行動が受け入れられない

しかばねさんは全てが終わった今でも、おばあさんのことを想っています

 しかばねさんは、とても貧しい子ども時代を過ごしました。清潔な格好もできず、拾ったジュースの瓶に水を入れてジュース気分を味わい、学校ではみんなに「汚い」と言われる。

みんなに蔑まれながら生きた子ども時代

 家にはおばあさんもいましたが、学校での辛い経験を話すことはなく、努めて明るい子でいました。なぜなら、話したらおばあさんを悲しませてしまうと思っていたから。しかばねさんはそれほどに優しく、またおばあさんが大好きな子でした。

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おばあさんに心配をかけたくなくて、泣きたい気持ちを押し殺していた

 成長するにつれて、しかばねさんは少しずつ変わっていきます。社会に出てからは仕事や飲み会、恋愛、遊びに夢中。家に帰ることは減り、おばあさんのご飯も食べなくなったと言います。そんな中、おばあさんには不審な行動が目立つように。かかってきていない電話を取ったり、洗濯物を侵入者と勘違いしたり、それにしかばねさんが巻き込まれることもしばしば。イラ立つしかばねさんは、ますますおばあさんに冷たく当たるようになっていきました。

おばあさんに異変が起こり始めた

 実はこれらの不審な行動は、認知症の初期症状。しかばねさんもそのことを頭ではわかっていたものの、「おばあさんがおかしくなってしまった」ということを受け入れられず、目を背けていたのです。そして2人の苦しい生活が本当に始まるのは、ここからでした。

いざ身内が認知症になると、まずは認めることにも高いハードルを感じます

誰もが共感できる、人間の普遍的な弱さ

 こういったつらい介護やいじめを題材にした漫画は、どこか「別世界のこと」として読む人も多いと思います。怖いもの見たさに、あるいは自分が恵まれていることを実感するために。それでもこの漫画は、どの人間も普遍的に持っている弱さを容赦無く描き出していて、無意識のうちに「自分ごと」として読んでしまうのです。

 例えば、恋人から結婚の話が出た時のエピソード。日に日におばあさんへの不満を募らせていたしかばねさんは、恋人の家に入りびたり、全く家に帰らなくなっていました。結婚の話をおばあさんへ報告するためしかばねさんは久しぶりに帰宅しますが、そこにはゴミに囲まれて暮らすおばあさんが。驚いたしかばねさんがゴミを捨てようとすると、おばあさんは「何してるんだいっ! この泥棒っ!!」と叫びます。

家が辛ければ、楽で楽しい環境を求めますよね……
しかばねさんは、外の世界で幸せを掴みかけていました

 「うるせえ! 全部ゴミじゃねえかっ!! こんなゴミん中で生活しやがって!! 頭おかしいんじゃねーの!?」とおばあさんに声を荒げるその表情はまるで悪役のようですが、理解できるところがあります。「理想」とも言うべき家の外のキラキラした生活と、家の中の現実。幸せを掴みかけていたしかばねさんにとって、おばあさんが足手まといのように思えてしまったのではないでしょうか。

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怒鳴りながらも内心はパニック

 <「今でも思う 毎日おばあちゃんが作ってくれるご飯を食べて」「昔みたいに食卓を囲んで ちゃんと会話をしていたらおばあちゃんは認知症にならなかったんじゃないかって」>

 しかばねさんは当時のことをこう悔やみますが、正直なところ、同じ状況に置かれれば、誰だってしかばねさんのようになっていたかもしれない。辛い子ども時代を過ごしたしかばねさんが、社会人になってようやく人生の楽しさ、面白さを謳歌できるようになったんです。そこに、なんの罪もありません。

キレイ事は一切ない。どこまでもリアルに描かれた介護現場の葛藤

マニュアルの説明すら、時に当事者を追い詰めてしまう

 作中では、介護マニュアルに書いてある「とにかく怒らない」「しっかり相手の話を聞く」「心を広く持とう」といった言葉たちに、「そんなマニュアル通りにできるわけねぇんだよ!」と苦しむ場面も描かれます。正しい対応を頭では理解していても、おばあさんからは理不尽な言動を投げかけられ、いやでも負の感情が湧き上がってしまう。そして「怒ってしまう自分が悪いのか?」「自分は、心が狭いのか?」と自分が責められているかのように感じ、心が荒んでいく。

 介護の本当の大変さって、こういう所なのかもしれません。人は不当な扱いを受けた時、他人を悪者にして心の整理をつけたくなるものですが、介護ではいかに理不尽な扱いを受けようが誰も悪くないので、「人のせいにする」という対処法が封じられる。それでもまともに意思疎通できているのかさえわからない目の前の相手と、向き合い続けなければならないのです。

 <「おばあちゃんへのストレスと 上手く感情のコントロールができない自分にイラ立ち どうにかなってしまいそうだった」>

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ついついきつく当たっては、自己嫌悪する日々……

 逃げ場はない、自分自身の尊厳を守りたい、でもおばあさんの行動はエスカレートしていく、何をしでかすかわからない……そんなぐちゃぐちゃの思考のせいで、見えなくなってしまっていたんだと思います。本当はおばあさんが大好きで、ここまで育ててくれたことに感謝もしていること。

5話では、2人の関係性に変化が

 実は最新話では、少しだけしかばねさんとおばあさんの関係が良好に向かいます。詳しくは5話を読んでみてほしいのですが、「誰に何を思われても 堂々としていればいい」と思えたことが大きな一歩になりました。これからこの2人に、安らぎは訪れるのでしょうか。

とあるできごとがきっかけで、自分を見つめ直します
このまま快方に向かってほしいですね

 ちなみにこの漫画は、8話で完結予定とのこと。そこで気になってくるのが、「祖母の髪を切った日」というタイトルです。髪を切ったことがしかばねさんにとって印象深いものであったことには間違いありませんが、残り3話の間でどのように描かれるのでしょうか。そのできごとが辛いものではなく、良い思い出であることを願ってやみません。

ひーこ

『祖母の髪を切った日』 第1話

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