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「なんで私がメンタルの世話をしないといけないの」 不倫×SFマンガ『あげくの果てのカノン』作者と担当編集の奇妙な関係(1/3 ページ)

完結記念インタビューの最終回。2人の関係を赤裸々に語ってもらいました。

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 不倫×SFというぶっ飛びすぎる切り口で話題のマンガ『あげくの果てのカノン』(米代恭)。最終巻発売を記念して、ねとらぼでは、米代さんと担当編集の金城さんへのインタビューを実施しました。

 最終回となる今回は、米代さんの恋愛観や人間観にフォーカス。しかし、いつのまにか「あのシーンは、金城さんのことを考えて描きました」という発言が飛び出して……!? 息もつかせぬ展開の漫画の出張掲載もあわせてお楽しみください。

あげくの果てのカノン

恋愛本をたくさん読んだけど……

――『あげくの果てのカノン』連載初期は、恋愛や不倫、結婚の本もよく読んだと伺いました。連載を終えてみて、恋愛や結婚についての見方は変わりましたか?

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米代: うーん。結婚は、いまだによくわからないですね。恋愛については、1巻を描いていたころに比べたらわかった気もするけれど……本を読んだ結果ではないですね。たくさん読んでいるうちに「別に参考にはならないな」ということがわかりました(笑)

――なるほど。

米代: 初めは、好き合いはじめた人間がどう近づいていくかという、恋愛初期のふるまいの描き方がわからなくて、文献に頼っていたんです。でも、描いていくうちに「恋愛においては、こういうことが起きる」というパターンがあるわけではなくて、「こういう人間とこういう人間がいたら、その二人はこうコミュニケーションをとる」という個別の話なんだよなと気付きました。恋愛という「概念」についていじるんじゃなくて、かのんと境という二者の関係性を掘り下げていくことが、自然と恋愛を描くことになるんだと、途中で実感できたんですね。

――以前インタビューしたときは、片思い系女子やアイドルオタク女子からの感想が届くとお話されていましたが、巻を追ってから印象に残っているものはありますか?

米代: 話が進むごとに、恋愛以外の観点で共感してくれる人が増えていきましたね。毎回、帯にもさまざまな方がコメントを寄せてくださったのですが、それも面白くて。4巻の帯では、尾崎世界観さんが「自分が別の何かになったかのような感覚を抱くことがあるけれど、本当は相手が自分を見る目が変わってるんじゃないか」という話を書いてくださいました。

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4巻の帯

尾崎世界観さん

ツアー中、ライブでステージにあがって大勢の観客を目の当たりにすると、自分が別の何かになったかのような不思議な感覚になる。帰ってホテルで1人寂しく弁当を食っている自分が本当の自分なのに、さっきまでの自分は誰だ。でも、結局は自分が変わったんじゃなくて、自分以外の周りの目が変わったんじゃないか。相手の中に居る自分の存在が変わったんじゃなくて、自分はずっと自分なんじゃないか。きっとそうだ。ずっと感じていた疑問を晴らしてくれたこの作品に感謝と嫉妬と敬意を。

――あー、まさに4巻で境が直面する状況ですよね。

米代: 5巻では、菅田将暉さんがコメントを寄せてくれました。やはり、自分と境さんを重ねて描いてくれて。

5巻の帯

菅田将暉さん

今世の中は、白いものと黒いものを分別することにハマってるみたいで、僕はずっと違和感がありました。「好きだからと言って何しても良いわけじゃねんだよ」と言う境先輩の心の声と純真な好意から盗聴するかのんの生き方は、どうしようもなくグレーで。でもどうしようもなく人間で。そしてそこには必ず生きてる世界があって。その日々ものすごい速さで変わっていく世界次第で二人は正義にも悪にもなって。そんな気持ちと善悪のグレーゾーンが心地よく、なんだか僕はホッとしています。みんなこの漫画を読んでもっとめちゃくちゃな世の中になったら最高なんだけどなぁ。とか思っちゃいました。

――あ、圧巻……。いろいろな人間を演じ、いろいろな人間に愛されてきた菅田さんが言うと、説得力が半端ない。愛とか恋とかを越えた、倫理観をゆさぶられる話ですもんね。

米代: 「善悪のグレーゾーン」という言葉で評していただけたのが本当にうれしかったですね。かのんのことは、「普通はしない」とか「常識的にやらない」というしがらみを全てとっぱらっていく。それがかのんの「主人公感」なんだとは思っていました。

金城: 「かのんは主人公だから、米代さんのできないことをやるんだよ」と、私からも言いましたね。

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米代さんができないことをやるかのん

担当編集・金城さんとの関係は?

――かのんが境先輩を一心に見つめる姿を描く「カノン」ですが、話が進むにつれて、周囲の友人との関係描写の比重も重くなっていきました。

米代: 欲望をつきつめた代償をきちんと描かないと、というのもあったのですが、自分自身が友情を長続きさせられないタイプなので、その思い出の影響もありますね……。

――高校時代からの友人であるマリちゃんとの関係が、かのんの言動をきっかけにどんどん変わっていくようすが、読んでいて本当につらかったです。

マリちゃんとの関係

米代: あれを描いていたときはちょうど、金城さんとの関係に悩んでいた時期でした。

――えっ、二人の間に一体何が……?

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米代: 作品作りについては何時間でも話し合う仲なのですが、金城さんは自分のプライベートの話はしてくれないんですよ。それなのに、あるとき周囲から私の知らない金城さんの恋愛エピソードを聞くことがあって……。「え、なんで言ってくれないの」「私だけが知らなかったの!?」と異様にショックを受けてしまったんです。

――な、なるほどですね。

米代: 「私の恋愛経験が少ないから、同じ目線で恋バナできないと思って、言ってくれなかったのかな?」「一緒に恋愛漫画描いてるのにひどい」とか、ものすごくひねくれた方向に考えてしまって……。だから、4巻のかのんとマリちゃんのくだりは、完全に金城さんのことを思い浮かべながら描いたんですよ。

――これはもはや愛の告白なのでは。金城さんは、あえて米代さんに話してなかったんですか?

金城: いや、恋バナする理由が特になかったので……

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米代: あまり自分の話をしない人なのは、わかってるんですよ。私が金城さんになんでも話しちゃうのは、私の自他境界がふにゃふにゃしているだけなので(笑)、それを金城さん側にも求めるというのは、良くないのもわかっています。でもそのときは、なんか疑心暗鬼になっちゃったんですよね。

――金城さんは該当回のネームを読んで、どう思ったんですか?

金城: 覚えてないな。米代さんが落ちこんだ時期と、ネームを出したタイミングに、時差があったんじゃない?

米代: そんなことないですよ。しかも私、「今回の話は金城さんと私のことです」って言いましたもん。そうしたら、金城さん、「うれしい」って返事したんですよ。

金城さんと私のこと

「なんで私が米代さんのメンタルの世話をしないといけないの」

――ほかに、二人の関係に危機が訪れたことはありますか?

米代: 原稿を本当に落としそうになったときは怒られましたね。電話口で、「なんで私が米代さんのメンタルの世話をしないといけないの」とまで言われたこともある……。

――編集者さんって、作家さんのメンタルの健康管理も、ある程度行っている印象があるのですが。

金城: もちろん基本的には気遣っているのですが、そのときは米代さんのメンタルがいつも以上に深いところに行ってしまって、どうにもならなくなってたんですよ。そうなると、厳しく言わざるを得ない。でも私、怒ってガチャ切りすることはないよね? さすがに「大丈夫だと思うからやろうよ」まで言って、お互い納得してから通話を終えているはず……。

米代: ガチャ切りはないですね。なぜならば、金城さんは相手の心をがっちりとつかまえてからでないと電話を終わらせないから。

――想像ができておもしろい(笑)。

米代: あとは、連載執筆に読み切りやカラーイラストの依頼がかさなって、異常に仕事が入っているときも揉めましたね。たぶん月100ページとか描かないといけなかったんですけど。当然、連載の原稿もいつもの締切にはどうしても間に合わなくて、私は校了ギリギリのスケジュールで出しても許してもらえるだろうと思っていたのですが、金城さんに「まだできてないです」と言ったら、めちゃくちゃ怒られて。「どの依頼も金城さん経由で来たんだから、連載原稿が間に合わないのもわかるのでは!?」とびっくりしました。

モーニング・ツーに掲載された読み切り「月と太陽の17歳」

――それは、金城さんが米代さんの能力を信頼していた?

金城: いや、連載がメインの仕事なんだから、それを優先してスケジュールを組んでくれると思っていただけ……。

米代: 振り返るとその通りで、私も早めに「仕事多いので連載の通常締切には間に合わないです。大丈夫ですか?」とか相談しておけばよかったんですよね。私が良くなかったと思い、そのときは私から謝りました。ちなみに金城さんは、こちらが素直に「ごめんなさい」と言うとすぐ許してくれるのですが、「でも金城さんも悪くないですか?」と返すと、ものすごい長文LINEで反論を送ってきます

自己否定の強さが、粘り強さを生む

――漫画家と担当編集のあまりにもリアルな関係性が見えてきて、一部の人間にはものすごく響くだろう内容が聞けました(笑)。時々衝突もありながらも、5巻分を一緒に走り抜けたわけじゃないですか? お互いの良いところはどこでしょう。

米代: 怒られた話ばっかりしてしまいましたが、金城さんはすごくやさしいと思います。私が深いところまで落ち込んでも見捨てないでくれるし、お芝居や映画にもいろいろ誘ってくれるし。

金城: もともとお芝居好きで知り合ったので、本当にいろいろなものを一緒に観に行くよね。「シベリア少女鉄道」とか「マームとジプシー」とか。観終わったあとに感想を言い合ってるときも、すごく波長があいます。

米代: 別々に観たときでも、あとで感想を言い合いますもんね。お互いの「つまらなかった」「面白かった」がずれることはまずない。金城さんは忙しいんですけど、コンテンツの摂取に割く時間をおしまないので、引き出しも多いんです。そこも安心感がありますね。

――金城さんから見て、米代さんの良いところはどこですか?

金城: 米代さんも、すごくやさしいですよ。私が忙しくてピリピリしてるときでも理解してくれますし。あと、コンペの推薦文でも書きましたけど、勉強熱心で粘り強い

米代: 基本的に自己を否定するマインドが強いので、他人に否定されても傷つかないんですよね。「そうだよねー」と受け入れちゃう。「あなたのほうが悪くない?」と思ったときでも全部の観点から検証しちゃうから「まあ私も悪かったかな」という結論に至るんですよね。

――時々の喧嘩もふくめて、非常に良い関係を築いているお二人だなと思いました。今は新連載の準備もしているんですよね?

米代: はい。今回も「カノン」以上に設定を盛り盛りにした案を考えている結果、なかなか形にならず、すでに10稿まできています。まだ具体的な告知ができなくて申し訳ないのですが、頑張ってますので、気長にお待ちいただければ。

――お二人の関係の行く末とあわせて楽しみにしています。ありがとうございました!

(終わり)

出張掲載:『あげくの果てのカノン』第15話

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