講談社、『美しい顔』騒動について時系列で経緯を説明 掲載前に編集部と北条氏双方で問題を認識できず
講談社の主張に対し、新潮社もコメントを発表しています。
5月7日発売の講談社『群像』6月号に掲載された『美しい顔』(北条裕子氏著)が、新潮社の石井光太氏著『遺体 震災、津波の果てに』をはじめとする主な参考文献を掲載していなかった問題で、講談社がこれまでの経緯を時系列で発表しました。
『美しい顔』は第61回群像新人文学賞の当選作で、第159回芥川龍之介賞の候補作。東日本大震災の被災地で被災した女子高生の視点で描いた短編作品。その中の一部表現にルポルタージュ作品の『遺体 震災、津波の果てに』との類似点があることが、5月10日講談社の調査により判明。5月14日に石井氏へ謝罪した上で、類似箇所の修正について石井氏および新潮社と協議を開始したことが説明されています。協議は現在も継続中。
同発表によると、北条氏が『遺体 震災、津波の果てに』をはじめとする主な参考文献を講談社の編集部員に掲示したのは4月20日で、『群像』6月号の発売前でした。これについて同社は、この時点での北条氏にとって「参考文献」の認識が十分ではなかったこと、また初となる自作の掲載・発表である北条氏に対する編集部の確認不足があったことを認めています。
そして、4月12日の初面会以前から北条氏が妊娠中で4月末の出産予定日を控えていることがわかっており、4月20日時点で文献の詳細や表現について整理する時間が必要だと認識しながらも、出産を目前に控えた同氏に対して「校了までに詳細をつめてゆくことは困難だと判断し、そのまま適切な対応ができずに23日の校了を迎えてしまいました」と事の経緯を説明しています。
その後については、新曜社の金菱清氏著『3.11 慟哭の記録 71人が体感した大津波・原発・巨大地震』について、北条氏が示唆を受けていたことを編集部で認識していながらも連絡が遅れていたとして、6月25日に新曜社から指摘される形となってから直ちに謝罪。こちらも現在協議中であることを説明しました。
一方、新潮社も『美しい顔』に関する経緯の説明および、7月3日に講談社が発表した内容に対するコメントを公式サイトで発表(関連記事)。講談社と5月29日以降進められた協議により問題は徐々に解決に向かい、その結果『遺体 震災、津波の果てに』に関する問題は、今後の『美しい顔』単行本化の際に特に類似した箇所の修正と、「石井氏を信じて取材に応じてくださった被災者の方々への対応」という2点となり、「版元間 かみ合わぬ議論」「新潮社は反発」といった一部報道のような状況ではなかったという認識を示しています。
しかし、講談社が7月3日に発表したリリースは、新潮社が報道各社に向けたコメント内の「単に参考文献として記載して解決する問題ではない」との見解について、「小説という表現形態そのものを否定する」と新潮社に怒りの矛先を向けた内容で、非常に困惑したと同社。北条氏と作品に対して「インターネット上で誹謗、中傷が激しさを増しているとすれば、弊社もそうした状況を良しとするつもりなど決してありませんし、同情申し上げるしかありません」としつつ、こうした状況のそもそもの原因は「参考文献を掲載せず、類似箇所を生じさせた講談社側にあるのではないでしょうか」と主張し、講談社に「冷静な対応を望みます」と述べています。
ちなみに、ノンフィクション作品がさまざまな創作物の参考となることについて新潮社は、「ある意味光栄なことではあります」と述べる一方で、参考文献として掲載するとしても「それを参考にした結果の表現は、元のノンフィクション作品に類似した類のものではなく、それぞれの作家の独自の表現でなされるのがあるべき姿ではないでしょうか」と疑問を呈しています。
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