イラスト無断転載、まとめサイトに30万円の賠償命じる判決 「VIPPER速報」「ガールズVIPまとめ」など訴えた注目裁判が決着
裁判を起こすにあたってどこがポイントだったのかなど、ナカシマ723さんに詳細を聞きました。
漫画家、イラストレーターの“ナカシマ723”(@nakashima723)さんが、「VIPPER速報」など複数のまとめサイトを無断転載で訴えていた件で、このうちの1つ「ガールズVIPまとめ」との裁判が決着し、判例がWebで公開されました。東京地方裁判所は最終的に、サイトを運営するスタークラウン(沖縄県那覇市)に対し、損害賠償金などを含む約30万円の支払いを命じています。
ナカシマさんによると、既に振込は確認しており、回収も完了しているとのこと。あらためて、詳しい訴訟の経緯などについて聞きました。
掲載料は「1年につき3万円×枚数分」
問題になっていたのは、ナカシマさんが2014年にツイートした「どの壁ドンがお好き?」などイラスト3点の無断転載。これらのイラストは当時多くのサイトに転載されましたが、ナカシマさんは掲載を許諾していなかったとして、サイト運営者に対し使用料を請求。中には即座に支払いに応じたサイトもありましたが、「ガールズVIPまとめ」をはじめ、応じなかった4サイトに対しては個別に裁判を起こしていました。
公開されている判決文によると、東京地裁はナカシマさんの過去の実績などを踏まえ、イラスト1枚あたりの使用料を1年につき3万円と算出。イラスト3点×3年間の掲載を認め、「ガールズVIPまとめ」に対し27万円の支払いを命じました(その他、訴訟費用や遅延損害金などを含めると、実際の支払い額は約36万円)。
ちなみに、「ガールズVIPまとめ」側は裁判の中で「作者がTwitterで無断転載を許諾する発言をしていた(※1)」「当時は十分な経験がなく画像自体を掲載してしまったが、埋め込み利用はTwitter規約で認められている(※2)」「記事により得た利益は2500円程度だった」などと反論していましたが、裁判所側はこれらの主張について、いずれも「採用することができない」として却下しています。
※1:ナカシマさんが過去、Twitterで「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが」とツイートしていたことを根拠に挙げていたが、実際のツイート全文は「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが、この方針で無断転載イヤ派の方の画像も転載してるBOTとかを放置してると、海賊にエサを与えてることになってしまうんですよねえ。イヤな渡世です。」という内容で、むしろ無断転載への反対を表明するものだった
※2:ツイートの「埋め込み」利用はTwitter規約で認められているが、「ガールズVIPまとめ」をはじめ、今回訴訟に至ったサイトはいずれも、ツイート埋め込みを使わず自サイトにイラストをそのまま貼り付けて掲載していた
無断転載14サイトのうち13サイトとは既に決着
ナカシマさんが最初にサイト側に連絡を取ったのは2017年6月上旬。この時点で14のサイトに連絡し、うち6サイトはすぐに請求に応じたため、これを元手に残り8サイトへの対応を弁護士に依頼したといいます。その後は各サイトの運営元に対し内容証明を送付し、さらに4件と示談が成立。それでも反応がなかった「VIPPER速報」「ガールズVIPまとめ」「腹痛い速報まとねた」「ニュースちゃんねる」の4サイトに対しては裁判で争う形となりました。
「ガールズVIPまとめ」の場合、内容証明を送ったのが2017年8月10日で、その後8月30日になっても反応がなく、ここから裁判手続きに移行。裁判は比較的スムーズに進み、4回の弁論を経て2018年6月7日に決着。6月12日には振り込みを確認したそうです。
残りの3サイトについては、まず「VIPPER速報」(運営会社:デザート)は被告欠席によりナカシマさんの請求が全面的に認められ、強制執行(差し押さえ)を行う形で既に全額を回収済み。「腹痛い速報まとねた」(個人運営/現在はサイト閉鎖)も一審で勝訴判決を得たのち、二審で和解しており、「ガールズVIPまとめ」とほぼ同程度の解決金を受け取ることになっていると言います。「ニュースちゃんねる」(個人運営)のみまだ係争中ですが、こちらは9月に判決が言い渡される予定とのこと。
裁判を振り返ると「運がよかった」
今回の請求金額は、ナカシマさんがプロの漫画家・イラストレーターとして活動実績があることも踏まえて算出されているため、必ずしも全ての無断転載に対しこの判例が当てはまるわけではありません。しかし、まとめサイトの無断転載に対し正面からアクションを起こし、請求が認められたという点では大きな判例であるとも言えます。
ナカシマさんに、あらためて今回の裁判について振り返ってもらいました。
―― 判決について納得していますか。
ナカシマ:額はよいのですが、私以外で無断利用されているクリエイターの方のことまで考えると、名目に「正規の交渉をせず、無断利用したことに対するペナルティ」を乗せられたら良かったとは思います。ただ法的な筋論としてそれが可能なのかは分かりません。
―― ネットでは以前から、費用や手間などの問題から「無断転載に対し、個人で訴訟を起こすのは割に合わない」といった声がありました。
ナカシマ:私はほとんどの裁判期日に出席しておらず、出たのも今回のような報告に備えての興味本位で、ほとんど弁護士の先生にお任せでしたので、それほどの負担はありませんでした。
ですが、相手が提示してきた和解条件にどう対応するか、といった最低限の判断はする必要がありますし、何より弁護士の方への着手金は元手として必要なので、皆が皆できる/やるべき、といったことでもないと思います。うまく条件がハマった人は、ヒマならやってみると得するかも? 話のネタになるかも? という感じです。
―― 費用面ではいかがでしたか。
ナカシマ:実際にかかったのは、弁護士に依頼した際の着手金が32万4000円、あとは内容証明の送付や裁判用の印紙代などの実費(合計数万円)がかかったくらいです。弁護士報酬も含めると、「ガールズVIPまとめ」に対する案件のみであれば赤字なのですが、今回は8件の案件全てを1回の着手金で処理していただけたため、合算すれば大幅な黒字になっています。
また着手後、一般的にはサイト運営者を特定するための開示請求裁判などでさらに30万円超かかるのですが(まとめサイトの多くは運営元を開示していないため)、今回は依頼した先生がWeb関係の案件に詳しい方だったため、少し特殊な手段を使い、わずかな実費だけで8件全ての運営者を特定できたのも幸運でした。具体的にはお伝えできませんが、もちろん合法な手段です。
―― 同じように無断転載に苦しんでいる、他の漫画家やイラストレーターに伝えたいことはありますか。
ナカシマ:このケースだけで見れば、金額的には黒字なので「どんどんやればいいじゃん」という感じに見えるかもしれませんが、私の場合、以下のような点で運がよかったと思います。
- 私がアクションを起こした時点ではまとめブログ側の認識が甘く、無防備だったこと
- 原稿料をもらえるイラスト仕事をしていたこと
- Webで年次更新契約の仕事もしていたこと
- ほとんど同様の体裁で、カラーイラスト3枚について14件の無断利用があり、弁護士の方にそれを一括で請けていただけたこと
中でも、最後の「一度の依頼で処理する損害額が大きい」という条件は重要で、ここをクリアできるケースはあまり多くないはずです。無断利用されたのが1種類のモノクロイラスト1枚、1件だけだったら、やはり訴訟に持ち込むのは無理だったと思います。
―― 確かに今回のケースでも、1件だけであれば赤字でした。
ナカシマ:なので、今後またこういう無断利用案件が出てきても、第三者の方としては「こんなん訴えてやればいいじゃん」ではなく、「まあ訴訟するとなれば大変だよね~」という理解で見てもらえればと思っています。
ナカシマさんによれば、今回の裁判で回収した賠償金は、ナカシマさんがWebで連載中の漫画「勇者のクズ」の制作費にあてられているとのこと。同作は、“ロケット商会”さんがカクヨムに掲載していた同名Web小説を漫画化したもので、現在第3話まで公開されています。
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