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漫画のサブスクや無料広告モデルは可能か 業界1位「LINEマンガ」に聞く5年の軌跡と漫画ビジネスの未来(2/3 ページ)

「漫画村問題」で揺れた漫画業界。読者と漫画家に適した漫画のビジネスモデルの在り方とは――漫画アプリ業界1位の「LINEマンガ」に取材しました。

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紙にはできない柔軟な作品プロモーション 「LINEコミックス」の戦略

―― 2015年10月に自社レーベル「LINEコミックス」を創刊。オリジナル作品も連載していくわけですが、もともと予定はあったんでしょうか。

原田: 出版社の作品を扱う電子書店のままでは他サービスでも購入できるわけで、LINEマンガを使う理由としてはまだ弱い。そうしてユーザーが離れていくことに危機感があり、やはりLINEマンガでしか読めない自前のオリジナル作品を配信しなければ生き残れないという考えがありました。やるならばしっかり漫画編集の経験者をとった上でやらねばならないと、覚悟して始めましたね。

「LINEコミックス」作品

―― 編集長の中野さんは、スクウェア・エニックスで15年ほど漫画編集をして、『ビッグガンガン』『ヤングガンガン』では編集長も務めていたと聞きました。どのような経緯で漫画アプリに移ってきたのでしょうか。

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中野: 10年ほど前から紙の漫画雑誌に停滞感を感じていたんです。毎年何かしらの作品がアニメ化などメディアミックスされるんですが、作品の人気は伸びても雑誌には読者がつかない。付録を付けるとかいろいろしても手応えがない。「雑誌を出す=読者に読んでもらえる」だったのが、今は単行本を作るために締切を設定する「作品を供給するためだけの場」みたいになっている。編集側がそういう意識を持ってしまう閉塞感がありました。

LINEマンガ編集部編集長・中野崇さん

―― 漫画アプリといった電子畑はどんな風に見えていました?

中野: ユーザー数は何十万、何百万……かつての週刊誌レベルで読まれているので、やはり紙雑誌にとって代わるメディアなんだなと感じていました。そこで3年ほど前、LINEマンガでオリジナル作品を始めると聞いたときすごく脅威になるなと思って、どんな形でやるのか当時のLINEマンガ編集部に話を聞きに行ったんです。そうした縁や、僕と一緒に働いたことがある者がLINEマンガ編集部に入った経緯もあって、僕も移ることにしました。

―― オリジナル作品数は今どれくらいなのでしょう。

中野: だいたいこの2年間で10本、20本と増やしていって、連載が終わった作品もありますが、現在毎週・隔週で連載しているのは約25作品ほどです。オリジナル作品の総読者数は2018年4月で630万人を突破しました。

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―― 出版社の人気作品がいくつも無料連載されているプラットフォームでいきなりオリジナル作品を連載し始めるわけですが、読者はすぐ定着しましたか?

中野: まだ分析の余地はあるんですが面白いところで、出版社の雑誌で連載されている作品と同じくらい、「え、そんなに読んでもらえるの?」と驚くほど読んでもらえる作品もあります。やっぱり読者は純粋に新しい作品を読みたい欲求があったんだなと思いました。

―― プラットフォームにおいて読者も出版社かかわらず作品を横並びで評価してくれているんですね。紙の雑誌と比べ、作品に読者を増やすことに関しては何か手応えは感じていますか?

中野: やりやすいですね。紙は雑誌ごとにターゲットを決めて、そこにあわせて作品も選定しなければなりませんでした。一方LINEマンガでは作品ごとにターゲットを決められます。さまざまなユーザーがいるプラットフォームなので、読者層やジャンルに縛られることなく、面白さ重視で作品を投入できるのはすごくやりがいを感じます。

 あと我々はプロモーションも作品ごとに特化して考えています。社内にいるマーケティング戦略チームやPR担当と一緒に作品単位でどういうプロモーションを仕掛けていくか。そこは既存の出版社にはない、アプリ事業者ならではの戦略が組める利点だと思っています。

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―― 記憶に残っている、作品ごとのプロモーションはありますか?

中野: オリジナルの『嘘にも恋がいる』(河井あぽろ)は5巻で完結したのですが、完結と同時に記念キャンペーンを打ち出したら電子ストアの数字がすごく動いて、紙も重版がかかったりと相乗効果が生まれたんです。紙媒体だとよっぽどのヒット作でない限り完結キャンペーンなんてできないんですけど、そういう仕掛けが打ちやすい柔軟性が電子にはありますよね。終わった後でも作家さんに還元できますし、次回作を執筆していただく要因にもつながっています。

―― 売り方の企画が打ちやすい。

中野: 電子の場合ですと1巻無料はそうめずらしくないので、2巻以降半額とか、ある程度巻数を積んだ後で3巻まで無料にするとか。他にも作品に合わせてキャンペーンを仕掛ける電子ストアを選択したりと、さまざまな戦略を考えています。それがうまくいくと本当に電子は売れるなって実感していますね。

―― しかし作品単位でプロモーションを考えるって、めちゃくちゃ忙しそうですよね。

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中野: そうですね(苦笑)。電子施策の担当者とリアル書店の営業者が、編集者と連携してプロモーション方法を考えています。

―― 最近は漫画も「編集者の顔が見える」ことが大事と言われていますが、ますますその手腕が問われそうです。

中野: そうですね、作品作りだけじゃなくてプロモーションをいかに考えるのかというのが今や編集者にとっても必要な要素でもあるので。とにかく今はやれることを実践し成功事例を増やしている段階です。漫画市場の多様化が進む中でどういう作品を仕込んで、どうプロモーションをしていくかは本当に難しいことですが、LINEマンガ編集部はチャレンジしやすい環境にあると思います。

広告収入が原稿料を上回ることも 漫画家への還元システム

―― 中野さんは紙の漫画雑誌出身ですが、LINEマンガでオリジナルの新作を無料で連載していくことに抵抗はありました?

中野: もちろん最初は抵抗はありましたよ(笑)。紙の単行本の収益がある分、プロモーションとして割り切るしかないと捉えていましたが、今となってはたくさんの読者に読んでもらうためには切り離せないものだと思っています。無料から電子はもちろん、紙の単行本を買ってもらうための収益システムを構築するために業界全体が試行錯誤している段階です。

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―― 作家さんには原稿料もお支払いしているのでしょうか。

中野: 弊社の規定で、新人なのか過去に連載経験はあるかなどを考慮してページ単価を決め、連載の原稿料をお支払いしています。そして既存の出版社と同じよう紙と電子のコミックスの売上、話売りなどの電子の課金が作家の収益となります。

 さらにLINEマンガでは2017年10月からLINEの運用型広告配信プラットフォーム「LINE Ad Platform」を導入し、作品内での広告表示を始めたんです。広告表示をOKしていただいた作品にはその広告収入の分配金をお支払いしていまして、読者数に比例するのですが、作家さんによってはガラッと収入が変わった人もいます。ある程度の規模での重版分の印税が入ってくるイメージでしょうか。LINEマンガが抱えるユーザー規模だから成し得る収益還元システムだと思います。

―― LINEマンガにおける収益はストア販売と広告収入のハイブリッドですよね。比率でいえばどれほどなんでしょう。

原田: これまでずっと販売を手掛けてきたので、もちろん広告収入よりも販売の方が多いです。

―― 広告を入れたことでユーザー数が減ることはあったのでしょうか。

原田: 特に影響はなかったですね。広告はまず、作品を提供している出版社に掲載してもいいのか許可をもらうのですが、その上で作品のどこに入れるかというと最後のページに1枚のみなんです。読み始めにいきなり表示されるとか、10ページごとに出てくるとか、テカテカ点滅するとか、ユーザーが読む際に邪魔にならないよう最低限配慮しながらやっています。あとは同じ作品でも男性が見るときと女性が見るときとでは違う広告が表示されるなど、ユーザーごとに情報を見てマッチングした広告が出るようになっていますね。

―― 軌道に乗っているということは、今後広告を増やしていくことはありそうですか?

原田: 今のところは検討していません。作品のコメント欄などを見ていると、広告が気になるというユーザーの声が全くないわけではないからです。我々としては最低限、読み終わりで一番気にならないところに1枚差し込む程度で留めて続けていきたいですね。

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