漫画のサブスクや無料広告モデルは可能か 業界1位「LINEマンガ」に聞く5年の軌跡と漫画ビジネスの未来(3/3 ページ)
「漫画村問題」で揺れた漫画業界。読者と漫画家に適した漫画のビジネスモデルの在り方とは――漫画アプリ業界1位の「LINEマンガ」に取材しました。
漫画村の影響 「ライトユーザーが流れた」
―― 漫画村の影響は、LINEマンガにもあったのでしょうか。
原田: ある・ない、で言うと、ありましたね。ライトユーザーが多いというのがLINEマンガの特徴で、そんな方々が漫画村に流れたと感じています。何せ電子化されていないはずの人気作品も読める海賊版だったので。
―― 何か数字面で動きはありましたか?
原田: 漫画村が登場した時期から、ユーザー数の成長が鈍化していったんです。もちろん伸びてはいるんですが、この時期にはこれぐらいのユーザー数がいるだろうという予測に届かなくなる、という変化が年明けから顕著になりました。
原田: あとはサイトブロッキングが発表された4月11日に著しくユーザー数が増えたんです。3カ月、半年と一時的にLINEマンガを使っていなかったユーザーが戻ってきたなという感触がありました。ストアでの新刊売上の伸び率も漫画村が話題になってからの半年は、やや鈍くなっていました。けれどもブロッキング発表以降は増えたので、従来の読者が作品をちゃんと購入する形に戻ってきているのかな、と影響を感じています。
課題だらけの「漫画の定額読み放題」
―― 漫画村問題をきっかけにさまざまな漫画ビジネスの在り方が問われていますが、その中の1つに音楽や動画のような「定額●●放題(サブスクリプション)」はできないかという声があがっています。LINEでは「LINE MUSIC」という音楽の定額聴き放題がありますが、LINEマンガではサブスクリプションモデルは検討してはいないんでしょうか。
原田: 結論から言うと、現状投入は検討していないです。漫画でサブスクリプションモデルをやるとなると課題になることがいくつもあるんです。
―― 例えばどのような点が?
原田: 1つは作品を網羅すること、セレクションと作品数の難しさです。音楽のサブスクリプションだとよく聞かれる話なんですけど、せっかくお金を払ってサービスに加入したのに自分の好きなアーティストがいなかったら使わなくなりますよね。最近やっとミスチルが解禁されてとても話題になったように、そういうセレクションの問題は出版でも同じ話になると思っていて、自分が読みたいと思ったときに、加入したサービスにその作品がないのはマイナスだと思います。
あと作品数ですが、少ないとすぐに「読みたい作品がもう無くなった」という状況が出てきてしまうと思うんです。あと作品数ですが、少ないとすぐに「読みたい作品がもう無くなった」という状況が出てきてしまうと思うんです。読もうと思えば、週末に何十冊も読めてしまいますから。
―― 確かに、好きな作品もない、数もないとなると、解約したくなりますね。
原田: そのあたりをクリアしてサブスクリプションをやるには出版社の力が必要不可欠ですが、理解をもらうのはなかなか難しいと思います。例えば新刊を書店で「今日発売中」と宣伝しているところでサブスクリプションでも配信していたら、出版社のこれまでの販売モデルが一気に崩れてしまう。サブスクリプションに切り替えた場合、その書店の売上が落ちた分までも回収できるという見込みを示さなければ、出版社も首を縦に振ってくれないと思います。そのハードルはまだまだすごく高いかと。
―― 先日LINEマンガの方から聞いて興味深かったのが、他コンテンツとの「周回性」の違いです。音楽は一度聞いた曲でも何度も聴き返して楽しめますが、漫画はストーリー性が高いので一度読むとそれほど読み返さない。その分ユーザーを満足させる作品の数が、音楽のサブスクリプションに比べてより多く必要になってくる。そういった意味でも実現は難しいと思いますか?
原田: もちろんそこは大きいと思います。あと音楽との一番の違いって、「ながら」が漫画ではできないんですよね。音楽は仕事中でも移動中でも他のことをしながら楽しめる。読むという行為は、他のことができずそれのみになってしまう。趣味の時間を大きくとられる漫画のサブスクリプションの方が需要が狭まる――という違いも大きいです。
―― 漫画村があれだけ流行ってしまったあとでは、「1つのプラットフォームで大体の人気作品が簡単に読める」という利便性に比べると、各社の漫画アプリを物足りなく感じてしまう消費者も少なくないのではと感じます。漫画村のような出版社やレーベルを横断したラインアップでそのままサブスクリプションをやる、というのは不可能なのでしょうか?
中野: ちなみに、もし漫画村の規模の作品数で、サブスクリプションをやれたらいくらくらい出しますか?
―― 3月に始まった、講談社の6誌が読み放題できる「コミックDAYS」が月額720円でしたよね。そこがどれほど成功するかで基準は決まるとは思うんですけど……。音楽や動画のサブスクリプションでよくある月額1000円程度なら、自分は軽く出します。
原田: 「コミックDAYS」が1誌15作品読めると思うと、だいたい90作品くらいで700円ほどで読めるわけじゃないですか。漫画村の規模で言うと、何十万タイトル。これを月額1000円でやろうとすると、回していけませんよね(苦笑)。月額1万円でも足りるのかという話だと思うんですよ、本当にあの規模感で考えると。
―― 1日で3冊読むなんて余裕なので……しかも休日だったら10冊以上いけますね。それをコミック1冊500円と考えると……。
原田: 最低でも月額4万5000万円以上。それを1000円にするというのは多分回らないと思うんですよね。
―― 音楽や動画のサブスクリプションと同様に考えるのはなかなか簡単ではないですね。LINEマンガで無料連載の出版社作品数を徐々に増やしてこれたように、サブスクリプションも小さな成功例から積み上げていくのは難しいでしょうか。
原田: 現在サブスクリプションをやっているサービスはありますし、「Kindle Unlimited」のときもそうでしたが、作品の配信許可を出してくれる出版社ももちろんいることにはいるんです。そういう出版社と一緒に始めていく分には問題ないのではないのでしょうか。
ただ全ての出版社さんに理解してもらう、サービス開始と同時に全作品ある、みたいな形は先ほど申し上げた観点から、すぐには厳しいと思います。ちょっとずつ広げていくしかないのではないでしょうか。
完全無料の広告モデルは可能か 理想形は
―― 漫画村が問題視されたとき、完全無料の広告モデルで同じような正規版を作れないか、という意見がありました。それについては現場の視点からどう思いますか?
中野: いきなり最初から完全無料の広告モデルを始めても、うまくいくとは考えづらいです。LINEマンガがそこを目指すのなら現状よりもさらなるユーザー数を抱えないと実現できないですし、ユーザーにストレスを感じさせない広告表示の仕方や数などさまざまな問題もあります。LINEマンガでも、現在導入している広告表示については慎重に検討しながら実施しています。
原田: けっこうな母数を抱えているメディアでなければ広告モデルをやったとしても漫画家にペイできないと思うので、私も一から「全て無料の漫画サービス」をスタートするのは難しいかなと思います。
中野: あと漫画って1つのコレクターアイテムだと考えているので、「漫画が全て無料で読める」モデルもまた違うのかなと。作品価値や漫画文化の促進も考えなければならないと思っています。愛する作品にお金を惜しまないようなユーザーもいますし。どれだけ漫画を好きか、どんな読み方が肌に合うか、読者の漫画の楽しみ方が多様化するなかでさまざまな選択肢を設けることが大事だと思います。
―― これからの漫画の売り方のモデルとして、一番の理想はありますか?
中野: 理想と言ってしまうと、読者に単行本ベースで購入してもらえるのが理想なんですけど(笑)。本当に今は市場自体が多様化していて、作品ごとに売るための戦略を考える必要があります。例えば電子で売れているものは紙の単行本で出さなくても良いというフェーズが来るでしょうし、電子コミックスも分冊して細かく販売するとか……売り方を作品ごとに、電子と紙を切り分けて考えていくことがさらに加速すると思います。これからの課題というか、LINEマンガから漫画を体験できる新しいモデルケースを発信できるようになるのが目指すところですね。
―― 漫画全作品に通用する理想のモデルというよりも、作品ごとのモデルを逐一考えていくということですね。
原田: 最近は大手出版社も含め、巻単位で売るだけでなくコミックスを分冊して1つ100円前後で売る「マイクロコンテンツ」と呼ばれたやり方を実践しているところもあります。一方で巻売も分冊売りもどちらも出す出版社も出てきている。ユーザーさんの購入の選択肢を増やす手法が本当に広まっている感触がありますね。
6月の大型リニューアル 23時間ごとに次話が無料で読める新たな「無料連載」
―― 6月に大型リニューアルを実施しました。これまでの「無料連載」は無料で読める話の更新ペースが週に1回だったのに対し、新たな「無料連載」では23時間ごとに次の話を読めます。導入した一番の狙いはどこにあるのでしょう
原田: これまでの「無料連載」は話が進んでくると無料で読めない“歯抜け”がどうしても発生してしまっていたんです。例えば最新話が10話の場合、最初の1〜3話と、最新3話分(8〜10話)は無料で公開しているのですが、その間にある4〜7話は無料公開が終わっていて、課金をしなくては読めない。データをみる限り、ユーザーにとってはやはり課金のハードルが高い方もまだいるようで、途中の数話が無料で読めないとわかるとそこで止まってしまう、という状況が発生していることがわかったんです。
それを埋めるにはどうしたらいいかと考えて、各ユーザーにそれぞれが第1話を読み始めたタイミングで、その時間から23時間待てば次の話が無料で読める仕組みにすれば、歯抜けに困らずひとりひとりが自分のペースで連載を追いかけられる、ということで導入しました。
―― まさにタッチポイントを創出するためのモデルなんですね。
原田: あとはLINEマンガに毎日来てほしい。うちとしては無料連載やキャンペーンなど毎日新しい施策企画が行われているので、それが週1だけの訪問だと見落としてしまうコンテンツがあります。23時間ごとに読めるようにすることで、アプリに来ていただく頻度を上げてほしい、という狙いもあります。
―― 最後に、LINEマンガの漫画のビジネスモデルの展望についてお聞かせください。
原田: 我々のゴールは、ユーザーが新たなマンガと出会えるプラットフォームになることです。そのためにはユーザーと作品をつなげる一連の道筋を作ることが必要で、まずは無料で読んでもらって作品を知ってもらう。面白いと思ったら続きを購入して読んでもらう。一度購入したコミックスは、最新刊が発売されるたびにユーザーに通知が飛ぶ仕組みになっているので、買い逃すことなく読み続けられる。
そういう「だんだんと作品を好きになってもらい、漫画に対価を払うハードルを下げる」道筋を作ることがゴールに向かうために必要なことであり、この5年間でしっかり作れてきたと考えています。
一方で今が最高の形とは思っていません。新たな「無料連載」を始めたことでユーザーにどういう遷移が生まれたかなど動きを見ながら修正に修正を重ねて、ユーザーが一番望む形、なおかつ出版社と作家の方々にうまく還元できる仕組みを両立しながら、進んでいきたいと思っています。
(黒木貴啓)
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