「商売よりもいかにマンガを好きになってもらうか」 マンガアプリ「ピッコマ」が「待てば無料」モデルで見せた未来
1年半と経たずにマンガアプリ業界2位まで急成長した「ピッコマ」。2周年を記念して初の事業発表会が開催され、これまでの取り組みについて説明した。
次々と新サービスが投下されている「マンガアプリ」業界において、スタートから1年3カ月という速さで業界売り上げ2位にまで上り詰めた電子マンガサービス「ピッコマ」。運営企業のカカオジャパンは4月17日、ピッコマの開始2周年を記念して初の事業発表会を開催しました。
マンガ業界では海賊版サイトによる被害が問題視されると同時に、消費者に適したビジネスモデルの模索が続いています。そのなかピッコマが、サービス内に広告を一切つけず、「待てば¥0」という独自のビジネルモデルでユーザー数を急速に拡大できた背景には、どのような狙いがあったのか。代表取締役社長の金在龍(キム・ジェヨン)氏が2年における取り組みについて語りました。
「ピッコマ」は2016年4月20日にサービスを開始。オリジナルマンガに加えて各出版社の作品を配信しており、アプリ版のApp Storeにおける売り上げは、マンガアプリとしては2017年7月で「LINEマンガ」に次ぐ2位にまで浮上するなど急成長を見せています。現時点で累計ダウンロード数は700万を突破、アクセスは1日120万人。参加社や作品数も増え続け、今では講談社や秋田書店など70社から提供を受けながら2033作品を配信中です。
その成長を支えたのが「待てば¥0」モデル。現在マンガアプリの多くが作品を単行本1巻ではなく1話単位に分割して配信していますが、「待てば¥0」は作品を1話読んだ後、特定の時間待てばもう1話が無料で読めるという「毎日待つことで無料で読み続けれる」仕組みになっています。
待たずに購入して次の話を読み進めることも可能で、「待てばタダで読める」「待てなければお金を払って読める」という、嗜好や経済状況に応じて利用者が読み進め方を選択できるモデルから、ユーザーに継続的に訪問してもらいながら、課金率を向上させることに成功してきました。
「待てば¥0」モデルを生み出した背景について金氏は、「ライトユーザーにマンガに毎日触れてもらうことで、マンガを好きになってもらう“課程”を作りたかった」と説明します。
マンガアプリをスタートさせるならマンガ好きをターゲットにするのが一般的ですが、「マンガ好きにはすでに紙や電子書籍リーダーなどでマンガを読む習慣があり、それを邪魔したくなかった」と金氏。一方で、大人へ成長する中でマンガから離れていった人や、ゲームなど他のエンタメコンテンツへ流れていったライトユーザーたちを、いかにマンガを読む環境に呼び戻せるかが必要だと考えたそうです。
目指したのはマンガを読む「毎日の習慣化」。まずは1〜3話、時には一気に単行本3巻分を無料で公開するなどし、できるだけ間口を広げて作品に出会ってもらいます。そこから利用者は「待てば無料で読める」モデルで毎日マンガに接して行く内に、マンガを読むことに価値を感じるように。すると今度はマンガに対価を払うハードルが下がり、課金してマンガを読む人もあらわれる――この流れがピッコマの考えるビジネスの成功パターンであり、その課程の肝となるのが「毎日の習慣化」をもたらす「待てば¥0」モデルでした。
その上で「データ分析」と「作品個別の運営」、「個人ごとの時間設定」の3点を重要視。ビッグデータ分析を利用して無料チケットの配布や販売設定を作品ごとに再調整するなど、販売やマーケティングを個別に最適化するシステムを構築しています。
作品のサムネイル画像も、「男性向け」カテゴリーなら女の子キャラが載った表紙を、「女性向け」なら男性キャラの表紙をと、同じタイトルであっても利用者との親和性が高い形に露出を変えるなど、興味を持ってもらうべく作品ごとのアプローチをとる方針。また次の話が無料で読めるようになった「チャージ完了」の通知も、ユーザーにとって一日で最も適した時間帯に届くよう、個別に設定できるようにしました。
先日アプリ内で行ったアンケート(回答数17万9515人)では、82%がピッコマを「ほぼ毎日利用する」と回答。80.9%は「待てば¥0」のチャージ完了の通知が来るタイミングでアプリを起動していると答えたらしく、金氏は「毎日の習慣化」への手応えを口にしました。
またピッコマは、広告を一切入れていないのも大きな特徴の1つです。マンガアプリの上位に躍り出たことで外部から広告の提案も多く来るらしく、「1日120万人のアクセスがある今、広告を入れたら月1億円の利益が出る試算です」と金氏。
それでも取り入れないのは「商売よりもまずはマンガが好きになる課程を作る」「そこから購買意欲につなげる」という“マンガの生態系”の構築を重要視しているからだと説明。「マンガのアプリ内なのにゲームといった他のコンテンツの広告表示を入れることは、マンガの生態系を長期的に見たときに果たしていいといえるでしょうか」と疑問も呈していました。
「待てば無料」モデルは他の大手出版社やマンガプラットホームが続々と導入している段階です。これが市場のロールモデルとして定着し、「マンガが好きになり、マンガにお金を払う価値を感じる」ユーザーを増やしていくことはできるのか――マンガビジネスの新しい挑戦に今後も目が離せません。
発表会の質疑応答では、政府が緊急対策を決定した海賊版サイトについて言及。「弊社はまだ大手出版社の作品配信数が少なく、数字としては影響はありませんでした」とピッコマは特にあおりはうけなかったもよう。一方で「法律的にいろんな部分を規制することで制限する手もあるでしょうが、根本的なところはユーザーの認識を変えていくこと」と、作品に価値を払う必要性をユーザーに理解してもらう活動が大事だと訴えました。
(黒木貴啓)
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