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矢口君は私の事なんて全然見てない 「ハイスコアガール」5話 少女のから回る恋心(1/2 ページ)

ハルオは小春にいっぱい謝らないといけないよ!

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(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX

 ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作アニメは、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。

 今回は、中学でハルオと出会った少女・小春が恋に気付いていく、甘酸っぱい物語。

プレイするのをうしろから見てたいから

 中学2年生になったゲームバカの矢口春雄(ハルオ)。全身全霊を注いで遊ぶハルオに出会って、ぼんやりと心ひかれるようになった日高小春。たまたま2人は正月に町で出会います。ゲームショップで、大好きなゲームについて語りはじめるハルオ。小春はそれを見て思う「またペラペラしゃべってる……」。ハルオは小春に「モータルコンバット」の素晴らしさを教えるべく、小春を引き連れてゲーセンに向かいます。

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小春はとっても真面目な子なのでゲーセンに来たことがない様子(2巻P58)

 「モータルコンバット」は1992年にミッドウェイゲームズが開発した作品で、アメリカ産。当時残虐ゲームの極みとして話題になった作品です。実写格闘ゲーム(4からは3DCGです)で、倒した後「究極神拳」を出すと「フェイタリティ!」の音声と共に、倒した相手を虐殺可能。親に怒られそうなゲームの筆頭でした。

 当時既に「サムライスピリッツ」が出ていて、試合の後に死ぬという描写や概念はあったものの、あえてわざわざコマンド入力して殺す、というグロテスクさは、子供の「悪いことしたい」心をくすぐりました。一応SFC版は残虐描写規制が入っています。MD版はアーケード版そのまま。アーケード版は立ってプレイする専用筐体でした。

 ハルオがひかれているのはヘンテコさの方でしょう。小春いわく「なんだかスゴイシュールな世界」。ハルオはそこに良さを感じ、プレイする度に脳みそがシビれ、何度でも楽しんでいる。これって、遊びの才能だ。

 ゲームは斜に構えて一歩引いて見ちゃうと、どれもこれも急につまらなくなります。なんでこんなことやってるの、無駄じゃないの、この世界観おかしくないか、などなど。それこそ究極神拳なんて、はたからみたら不要な行為でしかない。

 でも、シビれるんだから仕方ない。大変な思いをして、悩んで、練習して、怒ったり泣いたりして、その末に感じられるドキドキが、ゲームにはある。その快感と感動に理屈なんてないのは、ゲームに向き合いワクワクしたことのある人なら、みんな感じているもの。

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やってるのうしろから見てたい。その言葉の意味に気付けよ、ハルオ(2巻P96)

 小春は現時点では、積極的に自分からプレイすることはありません。ゲームを楽しそうにプレイしているハルオを、うしろから見てたいと言います。要は「一緒にいる時間がほしい」「ゲームをプレイしている君を見たい」の意味合いが強い。彼女の興味はゲームには向いていません。ハルオが見ている世界を、小春はまだ、知らない。

 にしても男女2人でゲーセンって、よっぽどお互いゲーム好きで理解しあえてないと、しんどくなる気がする。ゲーマーはプレイ中、ゲームに恋してるのだもの。それこそ、真剣に向き合うことで心通じあったハルオと大野くらいのような関係でなければ……。

小春の恋の芽生え

比較的男前なハルオにしては最悪な言動のシーン(2巻P69)

 クリスマスで、(半ば強引とはいえ)ハルオとプレゼント交換した小春。その時の手袋を「サムライスピリッツ」こすり連打のために利用してボロボロにしているハルオ。

 最近は追加入力やセミオート連打のシステムが主流なので、「連打すると強くなる」格闘ゲームはあまりありません。しかし90年台は、連打すればするほど、レバーを回せば回すほどダメージが大きくなる技がたくさんありました。相当なスピードで連打しないといけないものも。

 そこで使われたのが、爪で左右にボタンをこすり、連打状態にするというもの。ほかに主流だったピアノ連打(中指と人差し指で交互にたたく)よりも(多分)早い。問題は激しすぎるので指とボタンへのダメージが大きいこと。ボタンが削れている筐体は結構ありました。

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 ハルオが使用していた不知火幻庵は、通常投げのあと連打をするとめちゃくちゃに相手の体力を減らせるという、知る人ぞ知る技の使い手。そもそもこのゲーム大斬り一発で体力ごっそりもってくので、ひきょうではない。ただ、膝・膝・膝・投げからの連打とか、正直イラッとする。しかも強い。

 ハルオは、小学校時代初めて大野とストIIで対戦したとき、待ちガイルに投げハメという最悪なスタイルで戦っていました。その根性が変わっていないんでしょう。

 大野はその時、ハルオをぶん殴っていました。小春はそういうゲーマーではありません。ただひたすらに、ハルオのプレイが陰険で、自分の手袋を台無しにしていることに腹を立てています。そりゃそうだ。でも、ここで怒り切れないのが、小春という子。

 「マイペースすぎる性格は前から分かってたのよね」「お年玉セールやってたゲームショップで……私をゲームセンターに連れてったばかりに何も買えてなかったよね……」「なんか悪い事しちゃったかしら」

 いい子すぎるのか、ダメンズにひかれる性質なのか、恋は盲目なのか。

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 小学校時代の大野とハルオの関係に比べて、小春はかなり明確に恋愛を意識しています。特にアニメ版では、かなりはっきりと恋をしている様子が強調されているようです。

 あれだけ腹を立てていたのに、自分の店の前でゲームをしているハルオを見つけてしまって、気になって仕方ない。彼がプレイするゲームの音を聞き、どんなプレイをしているのか想像してしまう。寒いのに熱中している彼の姿にうらやましさを感じてしまう。

今作屈指の、かわいい小春のシーンの1つ(2巻P75)

 もしかしたら自分のことを待っていてくれるのではないか、いやそれは思い上がり、と葛藤してしまう小春の姿。ああこれは、恋だね。絶対そんなことないから、と分かっていてもIFを考えてしまう中学生少女の純情。結局ハルオがそんなこと微塵も考えていないほどゲームに熱中しているからこそ、ひかれてしまうんでしょう。

今作屈指の、かわいい小春のシーンの1つ、その2(2巻P88)

 バレンタインで、「義理」とは言いつつもしっかりハルオへのチョコを準備している小春。しかも彼女の人生の、初チョコです。彼女は自分自身と向き合うことができる子。自分がハルオに対して、望む距離感を持つにはどうすればいいのかを考え、行動し続けます。

矢口君は私の事なんて全然見てない

 ハルオが風邪をひいて学校を休んだ、バレンタインデー。小春は彼にチョコを届けに家を訪れます。部屋にあがった彼女にPCエンジンのゲームを勧めるハルオ、勧められるがままにプレイすることになった小春。彼女がプレイしたのは、「功夫(クンフー)」でした。

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この光景は、かつて見たあの時の(2巻P98) (c)Konami Digital Entertainment

 まさにそれは、大野が小学校時代に彼の家を訪れ、夢中になって遊んでいたゲーム。シチュエーションもまんま同じです。ハルオは強く感じます。「……久しぶりに対戦してえなぁ……大野と……」

 大野と、というのは全く変わらない。だから小春も、気付いてしまった。

 「今日一緒にいてわかった……矢口君は私の事なんて全然見てないって事……」「それでもこの気持は曲げたくない……」

 恋のため、小春は大きく自分を変えていきます。健気って、こういうことを言うんだと思うなあ。

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