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最終日、全員で歌った「今日の日はさようなら」 銀座最後のキャバレー「白いばら」の最後をつづった同人誌が話題に

楽しいひとときから最後のときまで。フルカラー42ページでつづられた白いばら愛。

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 2018年1月に惜しまれつつ閉店した、1931年創業にして銀座最後のグランドキャバレー・白いばら(関連記事)。そこに務めていた元ホステスの3人(夢さん、恋さん、愛さん)によって書かれた同人誌「キャバレーは今も昔も青春のキャンパス」が夏コミで完売するほどの人気を博しています。

夏コミ2018で完売になった、話題の一冊

あの独特な入店口が表紙になっている

 現在、一部の委託先と通販によって購入できるこの一冊は、彼女たちが勤めていた白いばらの空気感がいっぱいに詰まっています。今回は運良く入手することができたので、ページをめくってみましょう。

こんなに「昭和」が残った場所だった!

 そもそもキャバレーとは、ステージでのバンド演奏があり、ショーがあり、そして接客をするホステスがいる飲食店のことで、最近ではなかなか見られなくなった営業スタイルのお店。

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 全国的にも数の少なくなったキャバレーですが、白いばらの在籍ホステスはゆうに200人以上。それ以外のスタッフも約30人。建物は木造三階建てで、1~2階にある客席は約380席。吹き抜けに面した中2階にはバンド演奏やショーに使われるステージもあり、銀座を代表する娯楽の殿堂でした。

 そんな白いばらでたっぷり味わえたのが、「昭和をそのままパッケージングした空気感」。この本ではそれを随所に感じることができます。


店内の様子

 例えば、巻末のホステスの絵。白いばらでは「黒髪ロング」「おでこを出す」「ヒールのあるパンプス」「赤い口紅」「色白」などの姿が推奨されており、その可憐な姿が描かれています。


「お客さんが思う女の子」になる

 さらに白いばらには宝塚歌劇団のような「レヴューショー」が当時まだ残っており、そのショーダンサーだったジャスミンさんへのインタビューも収録。ボーイッシュな男役でしたが、ショーの時間以外はホステスとして接客しており、そこでお客さんに「(ショーを観て)元気になったよ」と激励を受けることもあったそうです。

 そのほかにも87年間の歩みが2ページでわかる「年表」も用意され、「1959年、ステージに当時24歳の美輪明宏が出演」などの、老舗店ならではの重厚な歴史を味わうことができます。

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実は「東京出身」がいちばん多かった

 白いばらといえば、お店の前の大きな日本地図。「あなたの郷里の娘を呼んでやって下さい」というキャッチフレーズとともに、日本中の女の子を指名して飲めるのがウリでした。

 しかしいちばん多いのは、実は東京出身。ただ、変わったところでは奄美大島などの出身者もいたそうです。指名なしで入ってきたお客さんに「東京出身です」と答えると、ちょっとがっかりされたこともあったとか。

 この本では、こんな「実は……」といううちあけ話的な内容もたっぷり紹介されています。


店頭の名物「日本地図」

客を楽しませるために「模擬結婚式」も

 お客さんを楽しませる工夫がいっぱいの白いばら。1年を通してさまざまなイベントが行われ、2月の節分ではラムちゃんコスプレのホステスがお菓子を配り、8月は甲子園優勝校を当てると抽選でワインボトルをプレゼント。10月はホステスがお客さんに手料理をふるまう「料理教室」などがありました。

 中でも特にホステスたちも楽しみにしていたのが11月の「キャバレー文化祭」。 その中には「模擬結婚式」なる出し物があり、ドレスとタキシードを着た男女の馴れ初めを勝手にスタッフに言われる、お客さんにとっては照れくさい時間だったそう。さらに「水着で騎馬戦」はお客さん3人とホステス1人で騎馬を作るゲーム。このほかホステスの仮装まで楽しめる、盛りだくさんのイベントだったそうです。

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 また通常の出し物も見どころが多く、生バンドによるイントロクイズは、4択×4問を全問正解するとスクラッチくじを進呈。さらに「トイレットペーパー巻取りレース」なるものもあり、客たちの目を楽しませていました。


時季によってさまざまなイベントが行われる

お客さんにとってはある種夢のイベント、「模擬結婚式」

実録「閉店への歩み」

 そんな白いばらが、とうとうその幕を下ろすときがきました。「実録 閉店への歩み」では、最後までホステスを務めた恋さんが、閉店の発表から最終日までの様子をレポートしています。

 恋さんが更衣室に上がると、「建物の老朽化が著しいため2018年1月10日に閉店します」という社長からのお知らせがスピーカーから流れていました。


当時の空気感が如実に表されたレポート

 閉店を知って辞めてしまう子がいた一方で、多くのホステスは最後までお店に残りました。そして閉店の知らせを聞いて押し寄せる人たち。最初こそ新規のお客さんも多かったものの、やがて予約は常連客優先となり、そのうち新規客は入れなくなりました。残り少ない日々を常連さんに楽しんでもらうためだったそうです。

 それでも白いばらは連日満員で、ホステスの数を大きく上回るお客さんで座席はいっぱい。「居酒屋状態」と例えられるほどで、ホステスは補助の丸椅子に座って接客したといいます。

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最終日、最後に集ったみんなで歌った「今日の日はさようなら」

 そして最終日。外にはお客さんの長蛇の列ができていました。お店では「今日でなくなるなんてウソみたいだね」という会話も。


閉店の日、白いばらを取り囲むような行列ができた

 ですが残された時間はアッという間になくなり、最後の閉店時刻が近づきます。もともと白いばらには、3人のホステスがステージで「今日の日はさようなら」を歌って、お客さんを見送ることが長らく名物でした。

 しかしその日に歌ったのは、3人だけではありませんでした。社長と店長が前に出て「みんなで歌いましょう」と、全員での大合唱を呼びかけたのです。そしてステージに降りてくるお客さん、感極まって歌うお客さん、ホステスやスタッフで嗚咽の交じる大合唱になり、白いばらは87年もの歴史に幕を下ろしたのでした。

 そしてこの後も、心温まるようなエピソードがあるのですが……それは、手に入れた方のお楽しみにとっておきましょう。

次へ歩き出す、ホステスとスタッフたち

 実は、前述のショーダンサー・ジャスミンさんのインタビュー最後で、思わぬ報告がされています。「九月には白いばら復活ショーを予定しています!」と。

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 今では数少なくなった「レヴューショー」を踊る現役のダンサーである彼女たちにとって、久々の「白ばらダンサーズ」としての晴れ舞台。告知から数日で全日満員になり、その根強い人気をうかがわせています。

当時を知るダンサーたちが集まる(チケットは売り切れ)。

 ジャスミンさんはインタビューでこれからの道についても語っています。またホステスさんは閉店をきっかけに次の道へ進む人が居たり、別のお店に移る人も居たりするとか。そんな、彼女たちの過去と現在と未来がのぞけるなのです。

「夢みたい」な世界を42ページフルカラーでとじこめた一冊

 「女性は素人 あなたはもてる 夜の大人の遊園地」と、なつかしい香りのするキャッチフレーズで愛された白いばら。その甘美で怪しく楽しい世界を、42ページフルカラー全体で教えてくれる一冊です。

 なおこの本のホステスさんたちの座談会は、この言葉で結ばれています。

 「唯一無二のお店でしたね。」

 「夢みたいだったね!」


背表紙には「閉店のごあいさつ」が。公式HPにも同じメッセージが載っている。

画像:「キャバレーは今も昔も青春のキャンパス」より



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