なぜ「新宿の夏フェス」がこんなにアツいのか? 「新宿三井ビルのど自慢」の魅力とは(1/2 ページ)
のど自慢が終わると夏も終わるんだなって思うんです。
毎年8月下旬の週末。新宿超高層ビル群の1つで異常な盛り上がりをみせるイベントがあることをご存じでしょうか。正式名称は「新宿三井ビルディング会社対抗のど自慢大会」。SNSでは「#三井ビルのど自慢」というハッシュタグで拡散され、大会期間中はTwitterの日本のトレンドにまで入るほど、ネット上でも盛り上がっているイベントです。なぜこのイベントがこんなに盛り上がっているのか、ここ何年か現地に駆け付けるほどその時期はそわそわし、今年も全日観戦に行った筆者がその魅力について説明します。
三井ビルのど自慢とは?
「新宿三井ビルディング会社対抗のど自慢大会」は1974年のビル竣工時から続いており、今年で44回目。この大会の参加資格は「新宿三井ビルに入居する企業の社員のみ」となっており、入居テナント企業の人々の相互交流を深めるためのものなのです。本来そういう意味ではクローズドなイベントなのですが、開催場所が「55HIROBA」というビルのオープンスペースを使用しているため、通りすがりの一般人も見られます。
のど自慢大会は毎年8月下旬の水曜から金曜の3日間、18時から21時までという、まさに「仕事終わりの人が参加できる時間帯」で開催されています。2018年は8月22日~24日に行われました。1日目・2日目は予選で、各日10組ずつが3日目(金曜)の決勝に進めます。予選に参加する会社が増えているようで、今年は各社3組までの枠制限があったそうです。今年の予選1日目は47組、2日目は45組、計92組が参加しています。この中から決勝に進めるのが20組と考えると、決勝に残るのがいかに大変であるか、ということが分かります。
また、予選・決勝とも、審査中のつなぎ的な意味でゲストを呼んで、プチライブのような形で歌を披露してくれます。決勝は、松崎しげるさんや渡瀬マキさん、misonoさんなどの有名人が来るので、ゲストライブが盛り上がるのですが、なぜかゲストの歌よりも本編であるのど自慢の方が盛り上がることが多いのです。単なるテナントビルが主催する親睦イベントなのに、なぜそんなに盛り上がっているの? と思う人も多いと思います。私も「実際に見に行くまでは」そう思っていました。でもこののど自慢大会、そんじょそこらの親睦イベントとはわけが違うんです。
参加者がみな本気な「サラリーマンの文化祭」
正直、親睦イベントって何となくやっていればなんとかなるみたいな側面があると思います(もちろん個人差はありますが)。しかし、このイベントはそういうレベルを超えているんです。とにかく、参加者が本気出してるのが分かるんです。
例えば、歌がめちゃくちゃうまくて鳥肌がたつような人もいれば、歌っている人の後ろのダンサーの動きがきっちりそろっているところもあったり、中には寸劇を超えたミュージカル仕立てのものを組んで見せたり。衣装も凝った人がいて、余興のレベルを超えています。ステージ裏でダンサーたちが柔軟運動をしているのを見たと言う人もいました。
「サラリーマンの文化祭みたいだ」と評する人がいましたが、まさにその通りで。きっとこの衣装を作るのに仕事の合間に頑張ったんだろうな……という想像を駆り立てる、そんな感じなのです。
歌唱レベルが高すぎる
のど自慢大会なので、歌唱力に覚えのある人が出るという側面はありますが、このイベントに出る人たちの歌のレベルはかなり高いです。「この人、プロかな……」と思う場面が何度もありました。でも、出場者はみなビルに勤めている会社員です。この事実を忘れて思わず引き込まれてしまう、そんな人が多いのもこののど自慢の特徴です。
ステージ上にシュレッダーの紙吹雪が舞う
三井ビルのど自慢にはなくてはならないもの。それは「紙吹雪」です。この紙吹雪は各企業から出たシュレッダーごみをポリ袋に入れて持ち込んだもので、ステージ上で歌が始まると投げかけられます。投げかけるというよりはぶちまけられている、かけられている、という感じの方がぴったりくるかもしれません。正直「雪……かな?」と錯覚するレベルでステージ上にまかれる紙吹雪が、実はオフィスから出たものである、という意味では地産地消とも言えるのではないかと。なお、この紙吹雪は1組終わるごとに片付けし、また再利用するという流れになっています。まさにエコリサイクル。
のど自慢に出ている個人よりも「テナント企業」が印象に残る(例外あり)
三井ビルのど自慢は、会社対抗のものということもあって、見ている側が「出ている個人」よりも「出ている企業」に焦点を当てています。ハッシュタグで追っていくと、「○○(社名)の中森明菜」という形で表記していることが多いのはまさにそれ。出ている個人というよりは、企業の一員としてのど自慢に出ていて、誰の曲を歌っているかに注目しているという感じです。その方が、イベントの性質的にしっくりきていると思っています。そして、名前を聞いたことのない企業が出てきた場合、「ここは何の会社だろう?」と思って観客が調べる傾向が強いです。
ただ、出場者の中には、毎年出場して決勝に残る人もいます。そのような人は個人として認識される場合もあります。例えば優勝経験者で予選日に「ゲスト」として呼ばれたこともあるそえりゅうさんや、けん玉を操りながら普通に歌もうまい「けん玉王子」、最近は某社の支社長さんが個人として認識されるようになってきています。ただこれは本当にまれなこと。基本は一企業の人という認識なので、そういう意味でも他ののど自慢とは違っているなと思います。ちなみに、決勝で3位入賞すると翌年以降出られないという規定があるので、3位以内をめざすか、毎年出ることを目指すかは難しいところなのだろうと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.