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ゲームの主人公は本当に「絶対的な正義」なのか? 「MOTHER2/3」のポーキーが問う”善悪の彼岸”(2/3 ページ)

最高に意地悪で、最高に優しいRPG。

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 ポーキーというのは、ただ普通にMOTHER2をプレイすると、「嫌なヤツだなぁ」と思って終わる、とてもよくできた悪役である。そこまで表立って“善”の部分を描かれているわけではない。最初から最後まで「嫌なヤツ」という印象だったプレイヤーのほうが大多数なのではないかと思う。何より私自身、最初にプレイした時点では、少なくとも好きなキャラクターではなかった。

 このポーキーという存在を読み解くにあたって、まずはMOTHER2の終盤に訪れる「マジカント」について振り返りたい。

 マジカントはネスの心の中の世界である。つまり、このマジカントで見るもの、触れるものはすべて、ネスの深層心理ということになる。マジカントの中にいたポーキーは、ネスに対して「うらやましい。仲良くしようぜ」とこぼす。

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◆ネス、おまえはいいよな…。なんかおまえのことがうらやましいよ。
 ……。おれなんかダメさ。だけど、ネス…ま、いいよ。
 いつまでもなかよくやっていこうぜ、な。

 繰り返しになるが、ここはあくまでもネスの心の中であり、実際のポーキーが言っているわけではない。ネスの深層心理の世界で、ポーキーがこのように発言をしているのは、一体どういうことだろうか。

 考えられるのは2つ。1つは、このポーキーは、ネスが「こうだといいな」と思っていたポーキー像という説。もう1つは、ポーキーがネスに対して発していた「うらやましい。仲良くしたい」というメッセージを、ネスは深層心理でキャッチしていた、という説。

 いずれにせよ、このシーンにおけるネスは、ある種の「悪」だ。もし後者だとすれば、「本当はネスと仲良くしたい」というポーキーの気持ちを、ネスはずっと見て見ぬふりをしていたことになる。

 また、「お前はうらやましい」という発言も聞き捨てならない。ネスの心の中のポーキーが「お前はうらやましい」と言ったわけだ。言い換えると、ネスは自分で、「ポーキーは僕のことをうらやましがっている」と思っていたことになる。つまり、ネスは心の中でポーキーを自分より下の存在だとして見下していたのではないだろうか。

 表向きは圧倒的な「悪」として描かれるポーキー。それに立ち向かい、地球を救うネスは圧倒的な「善」である。そう思って、ここまで長いこと冒険をしてきた。ところが、このMOTHER2というゲームは、「善」なだけではない自らの姿を、マジカントで突き付けてくるのだ。こともあろうに、マジカントは終盤も終盤、ラスボス目前のタイミングである。

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 MOTHER2のクリア後、最後に「ここまでおいで! おしりペンペーン」と書かれたポーキーからの手紙が自宅に届く演出がある。ポーキーはネスと遊びたかっただけなのではないだろうか……。結局その手紙以外、ポーキーのその後については触れられないまま、MOTHER2は幕を閉じる。

ポーキーが大事にしていたもの

 MOTHER3ではそのアンサーともとれる、ポーキーの本心が垣間見える仕掛けがいくつも登場する。

 MOTHER3はMOTHER2よりもずっとずっと未来の世界。ギーグが敗れて以来、あらゆる時代を飛び回っていたポーキーは、MOTHER3の舞台であるノーウェア島に辿り着く。ノーウェア島に人が住むのは、タツマイリ村という小さな村一つだけ。村人たちは自給自足や物々交換で暮らし、ここにはお金の概念すらない。村人たちも動物たちも助け合いながら仲良く暮らす、のどかで平和な村だった。

 ある日突然やってきたポーキーは、この村の近代化を推し進め、動物たちに不気味な改造を施した。体の一部をメカにされたトナカイ、ニワトリの頭をしたヘビ……、タツマイリ村を中心にノーウェア島全体は、ポーキーの手により、日に日にめちゃくちゃになっていった。

 MOTHER3の中盤で訪れるある塔の中に、ポーキーの部屋がある。ポーキーはその部屋の中で、昔ネスが使っていたヨーヨーを「ともだちのヨーヨー」として、誰にも触らせないようにケースに入れて保存していたのだ。ヨーヨーを取ろうとすると、メイドのロボットが「きんぐPサマノ ダイジナ タカラモノ 「ともだちのヨーヨー」ヲ トッタラ ワタシ オコリマス」と激怒する。ネスの使っていたヨーヨーはポーキーにとって“ともだちの”ヨーヨーであり、ポーキーの大事な宝物なのである。

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 また、終盤で訪れるニューポークシティには、ポーキーが作った映画館があり、スクリーンではMOTHER2の世界を冒険するネスの姿が上映されていた。それだけではない。ポーキーの住まうビルの中には、ネスの冒険の思い出の品を集めて展示した部屋まで存在する。

 果たしてこんなポーキーをネスの敵、と言うのは正しいのだろうか。本当は、ネスのことが大好きだったのではないだろうか。


(C)1994 Nintendo/APE inc. Scenario:(C)1994 SHIGESATO ITOI

ポーキーの家庭環境

 MOTHER3の世界には、ポーキーが過去(MOTHER2の世界)から連れてきた人々やアイテム、そのレプリカが多数登場する。MOTHER3で最後に訪れる街「ニューポークシティ」のレストランにいる、ウェイトレスロボットもMOTHER2レプリカの一つ。このウェイトレスは、キイイー! ◆こうるさい ハエだよ!」というセリフでおなじみの、ポーキーの母に似せたロボットである。ポーキーの母ロボットはこう言う。

◆すききらいは あってもいいのよ。
◆すきなものだけ おなかいっぱいに たべるの。
◆それが このレストランの・・・ ルール。

 実際のポーキーは、とてもじゃないけれど両親に愛されていた子どもではなかった。MOTHER2の冒頭で、ポーキーの両親は子どもたちを放置して外食に出かけていた。それでいて、留守中に隕石が落ちてきたことについての心配もなく、ポーキーが夜中に出歩いたことを咎め、ただただ体罰を行う親。躾の意味での愛ある厳しさというよりも、自分たちの利己的な欲ゆえの厳しさという印象だ。

 実際の母とは真逆の優しい性格のロボットを作ったポーキー。「愛されたかった」というポーキーの叫びが聞こえてくるような気がしてならない。

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「◆うちの ブタむすこなら いないわよ」(引用元:Legends of Localization Book 2: EarthBound)

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