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「もうアニメ業界では作れないと思った」「帰り道で毎日吐いてた」 放送から5年、「ステラC3部」の監督はいかにして復活を果たしたのか(3/3 ページ)

衝撃の放送から5年。

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――それは川尻監督自身もそんな風に創作と向き合いたいから?

川尻:そうかもしれない。作りたいのに作れない人は、自分を卑下する自己破滅型の人が多いと思うんです。鬱っぽくなり、そこから抜け出せない。俺もまさにそういうタイプなんだけど。でも、例えそれが成功につながるものではなかったとしても、「絵を描く」っていうのはその人だからできたことだから。せめてそこを自己肯定できれば、取りあえず最初の「何かを作る」第一歩が踏み出せる。その応援ができるような作品を作りたかったんです。

――ところで、「シンジ」と聞くとどうしても某ロボットアニメの主人公を思い浮かべてしまうのですが……?

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川尻:「『エヴァ』ですか?」とよく聞かれますが、実は「エヴァ」ではなく北野武監督の「キッズ・リターン」からいただいています。「マサル」の名前もそちらからです。「キッズ・リターン」はその名の通り、子ども時代を回想していく話。子ども時代に忘れてきたものに再び触れるというストーリーを考えたときに、それならしっくりくるのはシンジとマサルだなと。

――そっちのシンジだったとは。北野作品は昔から好きでした?

川尻:「キッズ・リターン」を見たのはそれこそ中学生のころ。全作見てるので、そういう意味では結構影響を受けてるかもしれません。北野作品はどれも好きで、一般にはそれほど評価されていない「TAKESHIS'」とかもお気に入りです。

もし「ステラ」を作り直すとしたら

――もし今「ステラ」を作り直すとしたら、どんな展開にしますか?

川尻:今だったらJKラッパーのバチバチのバトルの話にしてたね。

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――最先端という感じはしますね。「ゾンビランドサガ」で見た気がする(笑)。

川尻:ま、また先にやられてしまった……。でも山賀さんにも言われたけど、当時はやはりちゃんと監督の仕事をしてなかったんだよね。たぶん「こうしたい」って言い切って、それで周囲を説得できていれば、何かもっと良い方向にはできたんだろうなと思う。

――当時はなぜ言い切れなかったのでしょう。

川尻:単純に未熟さもありますけど、実はキャラクターにあまり愛情を持てないんです。サイコパスっぽいと思われるかもしれないけど。極端にいえば、そのキャラが「別に死んでもいいじゃん」と思ってしまうし、「ステラ」のゆらにしても、年端もいかない子の暴走を引いた目線で見てしまう。そしてあそこまで堕ちちゃったら、そんな簡単に部に戻るべきじゃないよなとも思う。その気持の折り合いが当時はちゃんと付いていなかった。

――ラストで無理やり仲直りするのは嘘っぽいと感じた、ということでしょうか。

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川尻:それもあるし、人生って部活に戻ることが全てじゃないよなと(笑)。これは本編ではボツになってしまったけど、ゆらの感情が爆発して、「頑張って自分なりにやろうとしたけど、もう無理ですよこんなの」って、わーっと1話の独白で見せていたような部分を初めて表に出すラストも考えていました。その案ではゆらの妄想が現実になる超常現象も起こらず。先輩・そのらが「お前そんなキャラだったんだ」って爆笑する。単にそのらがゆらの存在を受け入れてあげるという終わり方でも良いんじゃないかと。

――あー、確かにその終わり方もきれいだったかも。

川尻:もともとトラジコメディー(悲喜劇)が好きなので、悲惨な展開もちょとコメディーのつもりで描いていたところはありました。それが伝わりきらなかったというのはあるかもしれない。「ステラ」でみんなが流しそうめんを楽しんでいるのに、ゆらだけ「私がやりたいのは流しそうめんなんかじゃない、サバゲーだ」って心の中で吐き捨てる場面とか、自分ではギャグのつもりだったんだけど(笑)。

――アニメでそういう表現をやろうとすること自体、ちょっとめずらしい気がします。

川尻:90年代後半からそういう空気を持ったアメリカ映画の作品群が現れてきて、そこにとても影響を受けています。監督名でいうと、ポール・トーマス・アンダーソン、チャーリー・カウフマン、トッド・ソロンズあたり。彼らは同じシーンに哀愁と笑いが同居しているように描くんです。こういったジャンルを「クウォーキー」と呼ぶと最近知りました。それで最近は自分でも「クウォーキーアニメ映画監督」を自称するようになりました(笑)。

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川尻監督が感銘を受けたというイギリスの映画研究者ジェームズ・マクダウェルの論考「クウォーキーについてのノート」(『ムービーマヨネーズ2号』収録)

 あるいは90年代以前の作品だけど、「ガープの世界」(1982年公開)もとても悲惨な話なのに、演出がすごい引いた目線で笑えたりする。以前山賀さんに「そういうのをアニメでやりたいんです」と伝えたら、「いや、それ俺が昔やってたんだよ」と言われて。山賀さんいわく、「王立宇宙軍」ではまさにジョージ・ロイ・ヒルを参考にしたっていうんですね。

 「王立」のころのアニメというと、子どもに見せたい教養的なやつか、ただひたすら面白いエンタメのどちらかしかなかったと。そのどちらでもない、当時のアメリカ映画では既に表現されていたやつをアニメでやろうとしたのが「王立」だったというんです。

――「王立」は画面はエネルギッシュだけど、テーマを完遂するためあえて抑制された演出やストーリーにしてる感がありますよね。

川尻:山賀さんは「その後『AKIRA』に全部持っていかれた」と笑ってましたけどね(笑)。当時でいう“大友”の座を今も「ウル」で狙っているのでしょうね。

※「蒼きウル」・・・「王立宇宙軍」の続編。山賀監督作品として2022年公開予定(関連記事)。

アニメは業界を出ても作れる

――「ある日本の絵描き少年」を受けて、今後はどんな作品を作っていきたいですか。

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川尻:今って山賀さん、大友さん、今 敏さんみたいな、あのテイストをアニメに持ち込む人が新しい世代にはあまりいない気がしていて。いないのなら、自分が「クウォーキーアニメ映画」として、その位置に収まる作品を作りたいという気持ちがあります。

 今回アヴニールさんと密に組んでやれたので、このままもっといろいろできる気がしています。取材で障害のある方のお話を聞いていると、「自立したい」とか、「親離れ子離れ」という結構難しい問題を抱えていることが多かったんですね。

――切実で、普遍的な問題でもありますね。

川尻:親離れって、セックスと暴力の映画を見てなんとなく大人になることだと思うんです。タランティーノの映画を親は嫌悪するけど、俺は好きなんだっていう。それを経てやっと親と離れられる。そういうジャンルの映画を障害のある方と組んでやれれば、面白いものができるんじゃないかと。障害のある主人公が最初はなめられてるんだけど、実はめちゃくちゃ強い殺人マシンだったとかね(笑)。

――次回作はもう準備中?

川尻:ちょっと毛色が変わりますが、恋愛ものの長編企画を練っています。3月に香港アジア映画投資フォーラム(HAF)への参加が決まっていて、そういうところなどで出資が得られれば……という感じです。次回作ではデザインで男女の性差を表現しようとしています。

――「ある日本の絵描き少年」のようにキャラごとに絵柄が違うとか?

川尻:その発展形だね。キャラごとに別の漫画家の絵柄のようになっていて、その違いに惹かれ合う。いろいろな絵柄が同居する画面になると思います。でもそれって今月公開される……

――「スパイダーバース」みたいですね(笑)。

川尻:それは分かってるんだよ! でも「スパイダーバース」の前からアイデアはあったの!

目下「スパイダーバース」をライバル視している川尻監督

――「スパイダーバース」はともかく、実現したら面白い作品になりそうですね。

川尻:興味を持ってくれたアニメーターやアニメーター志望の方がいましたら、ぜひご連絡ください。それから、最後にこれは言っておきたいというのがありました。ぴあフィルムフェスティバルで入選した「Good bye, Eric!」という作品がありまして。これを作った高階匠監督は元アニメ会社の制作進行だったそうなんです。受賞会場でお会いしたときに元同業者だったこともあり、「お互いいろいろありましたね」とお話させていただきました。

 それでつくづく思ったのが、アニメ業界で寝る時間もなく身動きが取れなくなっていくぐらいなら、いつか自分の作品を作りたいという気持ちさえあればアニメ業界を出ても作れるということ。俺が言うのもアレだけど。見かけにこだわらず、いろいろ作ってみたら良いんじゃないかなと。

下北沢トリウッドにて絶賛上映中
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