なぜ大穴は理不尽がいっぱいなのか 『メイドインアビス』の作者つくしあきひと、初インタビュー(1/3 ページ)
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第85回。アニメが絶賛放映中『メイドインアビス』の作者・つくしあきひと先生に、緻密なファンタジー世界はどうやって生み出しているか根掘り葉掘り聞いてみました!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
社主おすすめのマンガを紹介してきた本連載も、この8月で数えること85回、5年目に突入しました。いつもご愛読いただきありがとうございます。まさかこんなに長く続けられるとは思いませんでした。
さて、毎年夏恒例の日頃会いたいマンガ家さんに会って直接お話を聞くインタビュー企画。5回目となる今回は現在アニメ放送中、竹書房のWebマンガサイト「コミックガンマ」にて連載中の人気マンガ『メイドインアビス』(〜6巻、以下続刊)のつくしあきひと先生です!
本作は孤児院に暮らす少女・リコと、最大深度不明の謎の大穴「アビス」から見つかった記憶喪失の少年ロボット・レグが、一度深くまで潜れば生きて帰って来られないアビスに挑むハイファンタジー作品。
年末年始に公開している私的ランキング企画「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい! 2015」で1位に本作を選んだことがきっかけで、おそれ多くも3巻に帯コメントを書かせてもらったりしたのですが、その後大きく注目を集め、このたびめでたくアニメ化となりました。
アニメはまだ序盤ですが、7月29日に最新第6巻が発売された原作の物語はさらに深く、さらにハードでドラマティックな展開を見せています。今回は作者のつくし先生に、この『メイドインアビス』がどうやって生まれたのか、またレグ、リコ、ナナチといった魅力的なキャラクターたちについて、そして作品に込めた思いなどたっぷりと語っていただきました。なんとインタビューは初!
なお、アニメをリアルタイムで追っている人にとっては、この先のストーリーに関するネタバレも含んでいますので、あらかじめご注意ください。
アニメには「がっつり」関わっています
―― まずはアニメ化おめでとうございます。紹介したときからこうなると信じてました!
ありがとうございます!
―― アニメは第1話からすごく細かいところまで描かれていて、原作の雰囲気がとてもよく出ていました。つくし先生は、アニメにどれくらい関わっておられるんですか?
がっつりと(笑)。打ち合わせの時に来たアニメのスタッフさんが「え、そんなところまで」っていうくらい根掘り葉掘り訊かれるんですよ、オースの街の人たちの主食とか燃料とか。
そうやって訊いてくれることがすごくうれしくて、それまで考えていなかったことも含めて全て考えていきました。原作に忠実どころか、街の風景や家畜とか、見えなかったところまで広げてくれていて。執筆が忙しくて行けないこともあるんですが、アフレコも本当は全部行きたいです。
―― そもそも原作自体がとても丁寧に作りこまれた作品で、これが初めての商業作品と知って驚きました。マンガ家をされる前はゲーム会社で働いていらっしゃったとか。
専門学校を出た後、コナミにデザイナーとして入ったんですが、最初の3年くらいはモーションを流し込んで調整する仕事をして、その後はインタフェースのデザインを作ってました。
絵を前面に出して描けるようになったのは5、6年たってからの「Elebits(エレビッツ)」(2006年)で、初めて仕事を任されました。その前には「OZ-オズ-」(2005年)というアクションゲームも作ってましたね。
―― ということは、完全にゲーム畑の方だったんですね。そこからマンガ家に転身されるきっかけになったのは?
10年ゲームの仕事をやって30歳になったときに、急にやばいと思って。元気に動ける時間はあと半分しか残ってないのに、しかもこの時間は加速して過ぎていく。そういう「やれるかも」という時間が半分しかないのは怖いと急に思って、辞めました。
―― 退社されてから本格的にマンガを描く活動をされたんですね。昔からマンガを描いたりされていたんですか?
これまでノートの端っこにちょっと描いては飽きてやめるっていうことはやってましたが、実はちゃんと完成させたのはアビスから1年前の『スターストリングスより』っていう同人誌が初めてなんです。それを見た当時の担当さんから、Web雑誌『コミックガンマ』を立ち上げるタイミングで声がかかったのが連載のきっかけでした。
緻密な大穴の世界はなぜ生まれたか
―― ここからは『メイドインアビス』という作品についてうかがいたいのですが、まずどこからこのような物語を着想されたんでしょう?
1巻の巻末に少し書いたんですが、ちょっと変わった形の仕掛け絵本を同人誌として作ろうと思ってて。
―― 仕掛け、ですか?
その仕掛けを言うと、完全にこの後の展開になるのですが、言っちゃっていいですか?
―― う〜ん……!! 気になって仕方ないですが、楽しみは残しておきたいので我慢します……!
その仕掛け絵本を作るにあたって、「穴を探窟するという舞台設定と組み合わせたら面白くなるよね」と、今アシスタントをしてくれている高校時代からの友人に話をしたら、「絶対面白いです」と。で、やろうかな、と。
―― 深界七層以上からなる「アビス」の各層の情景、生き物の生態、遺物、謎の奈落文字など、細かい設定に並々ならぬこだわりを感じます。
舞台が「穴」だけじゃないですか。なので、世界を広げるより、いかに狭いところを中へ中へ、細かく細かく、葉っぱの一枚一枚がどうなっているかまで注意して考えていかないと、たぶんふわふわと地に足がつかなくなって、話が薄くなるんですよ。
1巻の最初にあるアビスの地図も「まさかこんな地形はないだろう。まあ、ファンタジーだな」って、まず笑いながら描いてから、「でももし本当にあったとしたら、こうなってるのかな」「一体どのくらい前からこういう形になったのか」というのをどんどん描いていくんです。
みるみる想像が広がっていくのが面白いんですよね。もともとゲームボーイの「ウィザードリィ」で、ワイヤーフレームを見ながら冒険する、文字だけのキャラが一体どんな形をしているのか想像するのが好きだったので。
アビスが層に分かれているのも理由があって、「魔界村」とか「OZ -オズ-」とか「魔神英雄伝ワタル」とか、まず全体があって、自分が今ここにいるって分かるのは楽しいんですよ。次がどうなっているのか地図で見えていると想像しますよね。あれが好きなんですよ。次にどんな冒険が待っているのか、「銀河鉄道999」の「次の駅は何だろう?」もそうですが、主人公がここにいるって描くと自分でもワクワクします。
―― にしても地図の描き込みを見る限り、ものすごく時間がかかったのでは……。
湧いてきたので、むちゃくちゃ楽しかったです。
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