「破産者マップ」、プライバシーや著作権の問題は? 弁護士に聞いた(2/2 ページ)
プライバシー権侵害、名誉権侵害になるとの見解。
―― 破産者マップに個人情報保護法上の問題はありますか
森脇弁護士 破産者マップには「氏名」「住所」が記載されており、特定の個人を識別できるものといえるので「個人情報」ということができるでしょう(個人情報保護法2条1項1号参照)。しかし、破産に関する情報は同法2条3項の「要配慮個人情報」とはならないようです。
同法2条5項の「個人情報取扱事業者」とは、「個人情報データベース等」を「事業」の用に供している者をいいます。「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物をいうので、破産者マップはこれに当たることは明らかと考えます。また「事業」とは、一定の目的を持って反復継続して遂行される同種の行為であり、営利事業のみを対象とせず、法人格のない任意団体や個人であっても個人情報取扱事業者に該当しえます。そのため、破産マップ運営者は、「個人情報取扱業者」であるということができます。
同法15条以下では個人情報取扱事業者の義務が定められています。まず同法15条では、個人情報の「利用目的」を特定しなければならないのですが、破産者マップでは、個人情報の「利用目的」が定められているか疑問です。
また同法23条2項では、本人の同意を得ない場合の第三者提供の際の手続きが定められています。この際の要件として「個人情報保護委員会」への届出があげられており、破産者マップの運営者がこの届出をしていれば同条違反とはなりません。この届出があるかの確認方法として、個人情報保護委員会のWebサイトで「オプトアウト届出書検索」を行うことができます。しかし破産者マップの運営主体が分からないので、必要な届出をしているかは不明です。
同法15条違反や23条違反による罰則を直接定めた規定はありません。しかし個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者の義務違反について、是正措置の勧告・命令を行うことができます(同法42条)。是正命令に従わない場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(同法84条)。
破産者マップが明らかに個人情報保護法違反となる行為をしているとは今のところいえません。しかし違法な行為がある場合には、今後、個人情報保護委員会による勧告・命令等がなされることも十分に考えられるところだと思います。
―― 破産者本人が破産者マップ側に掲載停止を申し入れることや、民事訴訟を起こすことは可能でしょうか
森脇弁護士 破産者としての情報を公開された人たちは、運営者に対して、プライバシー権侵害および名誉権侵害に基づく損害賠償請求をすることができると考えます。
また判例では、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるとしています(北方ジャーナル事件)。そのため、掲載停止の主張も行うことができると考えます。
―― 破産者マップの運営者を調べることはできますか
森脇弁護士 破産者マップは、3月18日時点では、日本国外のコンテンツ配信サービスを使用して運営されているようです。破産者マップの運営者を調べるためには、この会社に対して開示請求をする必要があります。
またTwitterでも破産者マップの運営者と思しき人物が発言しています。Twitterの運営元に対し開示請求を行うことも考えられると思います。開示請求を行う際には、裁判所が決定する暫定的処置である仮処分を行うのですが、今回の場合、直接的にはTwitterを用いて破産者の権利侵害をしているわけではないので、権利侵害の明白性をどのように基礎づけるか、保全の必要性をどのように説明するかが問題となってくると思います。
破産者マップは閉鎖されましたが、破産者マップ被害対策弁護団の団長である望月宣武弁護士は「発信者の特定や、再発防止など、やるべきことは続けます」とTwitterで述べています。弁護団は、米国サーバ会社に対する発信者情報開示、損害賠償の手続きなどにあたる費用をクラウドファンディングで募っています。
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