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「破産者マップ」、プライバシーや著作権の問題は? 弁護士に聞いた(1/2 ページ)

プライバシー権侵害、名誉権侵害になるとの見解。

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 破産者の住所・氏名を公開して物議を醸したサイト「破産者マップ」。サイトは閉鎖されたものの(関連記事)、集団訴訟に向けた動きも見られ、問題が決着するのはまだ先となりそうです。破産者マップの問題点について、弁護士に見解を聞きました。


閉鎖された破産者マップ(Web魚拓から)

 同サイトは官報に掲載された破産者情報(名前や住所、事件番号など)をGoogleマップで見られるようにしたもの。「プライバシーの侵害ではないのか」「いじめや自殺を招きかねない」との批判が寄せられ、3月19日に閉鎖となりました。

 著作権、プライバシーなどの点でどんな問題があったのか、グラディアトル法律事務所の森脇慎也弁護士にうかがいました。

―― 官報に掲載されている内容を転載することは何らかの権利を侵害することになりますか

森脇弁護士 自己破産をすると、2回官報に掲載されることになります。1回目は破産手続きの開始決定を受けたとき(破産法32条1項、10条1項)、2回目は免責許可を受けたときです(破産法252条3項参照)。

 破産手続きを進めて免責許可の決定が確定すると、破産者が負っていた借金などについてその支払義務を免れることになります(破産法253条1項)。債権者は免責許可の決定に対して不服申立てをすることができます(破産法252条5項)。

 多数の利害関係人が絡む破産手続では、免責の効力が発生する日が画一的に決定される必要があり、その不服申立ての期間が官報に掲載されてから2週間と定められているので官報に掲載されることになっています(破産法9条参照、最高裁平成12年7月26日決定(事件番号平成12(許)1)参照)。

 官報の編集・発行業務は、現在は独立行政法人国立印刷局が行っています。しかし、上で述べた通り、官報に破産者の情報を載せるのは破産手続において必要だからであり、著作権は発生しないと考えられています(著作権法13条3号)。そのため、運営者が官報の記事をもとに破産者マップを作っていても、印刷局や裁判所の著作者としての権利を侵害するとはならないでしょう

編集部注:インターネット版官報のWebサイトには「検索ロボットやクローラ等によるデータ収集行為」は行わないようにと書かれています。破産者マップがネット版官報の情報を自動的に取得していた場合はこれに反することとなります。

―― 官報以外のサイトに破産者が掲載されることは、破産者本人のどんな権利を侵害することになりますか

森脇弁護士 プライバシー権侵害、名誉権侵害になると考えます。

 プライバシー権の侵害にあたるとする基準は以下の通りです。(1)一般にはまだ知られておらず、公開されることを望んでいない私生活上の事実もしくは事実のように受け止められるおそれのある情報(プライバシー情報)が存在すること、(2)誰にでも見られる形で公開・公表すること、(3)公開・公表されることによってその情報を公開・公表された人が不快・不安を感じること。地図上で破産者の情報を公開することは、明らかにプライバシー権の侵害に当たると考えます

 法律上の名誉とは、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」とされています。人に対する社会的な客観的評価を下げる言動をすれば、名誉毀損に当たります。破産の制度は、債務者について経済生活の再生の機会を確保するためのものですが、債務を完済できなかったという事実は、一般的にみて社会的評価を下げる可能性のあるものと扱われると考えます。従って、地図上で破産者の情報を公開することは名誉権侵害になると考えます

 特定の事実が公共性を有する事項である場合、プライバシー権侵害や名誉権侵害にならないこともあります。しかし、個人破産の情報は、上述の通り、債権者に不服申立の機会を与える限度で知らせればよいのであって、半永久的に一般的にアクセス容易なWeb上で公開され続けるべき性格のものとも思えません。従って、公共性のある事実とはいえないと考えます。

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