レビュー

「緊急取調室」恐怖のカボチャ回 サイコで子離れできない姑、姑を馬鹿にする嫁、善人を装おうとするダメ男の息子(2/2 ページ)

しばらく、カボチャは食べたくない。

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殺人の罪悪感よりもカボチャを無駄にしたくない主婦感覚を優先

 今回は取調室を出て、被疑者の自宅で取り調べを行うトリッキーなバージョンだ。キッチンとリビングを行き来する昌子を映すことで“平凡な専業主婦”を印象付ける効果を狙ったのだろう。この手のドラマで平凡を自称する人物が平凡だったためしがないのだが。ひと目、昌子はサイコに見えた。

 昌子は凶器のカボチャをスープにし、自分で食し、翔太や有希子にふるまった。証拠隠滅を目的にしているのならまだ理解できるが、彼女が第一に考えたのは、いいカボチャだから「もったいない」。証拠を隠滅するよりよっぽど恐ろしい神経である。殺人の罪悪感ではなく、主婦として気になることを優先させるメンタル。人として大事なものが明らかに欠けている。常人にはできない発想。彼女特有ののんびりした口調は余計に狂気を感じさせ、スープを煮込む姿はだんだん魔女に見えてきた。「嫁の肉を煮込んでいるのでは?」と筆者は心配になった程である。しばらく、カボチャは食べたくない

 

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海老名家に嫁いだ国分佐智子が姑にケンカを売る嫁を好演

 “平凡な専業主婦”の連呼は、キャリアウーマンである彩矢へのコンプレックスが膨らんだ結果だ。

 「身を粉(こ)にして」を「身を粉(こな)にして」と昌子が言い間違えただけで「普通の専業主婦のお義母さんと難しい会話をしたいなんて思いません」と挑発してきた嫁。彩矢は彩矢でケンカを売るような言い草である(彩矢役を演じているのが海老名家に嫁いだ国分佐智子というのが絶妙!)。つまり、プライドの高いところが2人は似ていた。

 昌子を嫌いながら、おくびにも出さず月1で食事の機会をもうけていた彩矢。おくびにも出さず凶器のカボチャを食べていた昌子と、やはり似てる。彩矢のことを「まるでお面みたいな笑顔なのよ」と吐き捨てた昌子だが、彼女の笑顔は嫁そっくりだった

 冒頭、梶山勝利(田中哲司)が病院らしき建物へ入っていくシーンがあった。彩矢が生きていることは、はっきり言ってバレバレだった。彩矢の証言と状況証拠を突き付け自供を迫るのが普通の方法と思うが、「完全犯罪には詰めが甘かった」とミスを指摘して真相を語らせる有希子のやり方も昌子や彩矢に負けず劣らずエグい。

しれっと「不倫する勇気なんかない」と発言した田中哲司

 お互いに嫌い合っていた昌子と彩矢。恐れ、警戒し合っていた両者のバランスを崩したのは翔太である。自分は中堅だが嫁は大手事務所に勤務する同業者。劣等感が彼を不倫に向かわせ、しかも「嫁が不倫している」と母に嘘を吹き込んだ。専業主婦である昌子は、唯一のよりどころである息子に騙されていた。その事実を知らされたとき、昌子はどんな反応をするのだろう? ちょっと見てみたかった。

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 サイコで子離れできない姑。姑を馬鹿にする嫁。善人を装おうとするダメ男の息子。全員、救いのない性格である。誰にも同情できない。そこが、心を傷めず楽しめた理由でもあるのだが。

 翔太と彩矢の関係について、梶山はしみじみつぶやいた。「夫婦の間はどんな悲劇も起こり得ますからね」「私も不倫なんかする勇気はありませんでした」。お前が言うか!? と、田中哲司の役者魂にツッコみたくなる。しれっとカボチャを食べていた昌子と、ちょっとかぶっている。きめの細かい脚本である。

寺西ジャジューカ

ライター 

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