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アニメ会社マッドハウス、労基から是正勧告 スタッフが月393時間労働や37連勤など労働実態を証言

マッドハウスは問題を一部認めていますが……。

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 ブラック企業ユニオンは5月17日、厚生労働記者クラブで会見を開き、アニメ制作会社マッドハウスが労基署から是正勧告を受けたことを明かしました。労基への申告者はマッドハウスに勤めていたAさん。

Aさん(画像左)とブラック企業ユニオン代表の坂倉昇平さん(画像右)

 是正勧告は新宿労基署が4月17日に行ったもの。違反点は大きく2つあり、労働基準法32条(違法な時間外労働)の違反と、労働基準法37条1項(時間外割増賃金)そして4項(深夜割増賃金)の違反が認められました。

 労基は月100時間の時間外労働があったと認定。一方でユニオン側はタイムカードを元に最大220時間の時間外労働があったと認識しており、マッドハウス側と交渉を継続中です。

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 また、マッドハウスは固定残業代として時間外賃金50時間分と深夜割増賃金50時間分を支払っていましたが、これらは時間外労働・深夜労働が50時間を超えても追加の割増賃金が一切支払われていませんでした。

 現在Aさんらユニオン側とマッドハウス側とで団体交渉が行われており、1回目の交渉の結果、マッドハウスは「時給単価の最低賃金割れ」と「50時間を超過した分の未払い残業代」について問題を認めています。

 会見にはユニオン代表の坂倉昇平さんと共に、Aさんも出席。マッドハウスで制作進行としての勤務形態がどのようなものであったか、Aさん自ら詳細な証言がありました。

ユニオン代表の坂倉さん

 休日もなく37日間連続勤務を強いられたことや、月の総労働時間が393時間に膨れ上がり、路上で倒れ救急車で運ばれたことなどなど。寝不足の中での車の運転も常態化しており、社内では年に2~3回は交通事故(物損事故)が起こっていたほどの熾烈な環境だったそうです。

 業界への提言ではなく、「残業代を払ってください」というシンプルな思いで行動に出たというAさん。以下、会見内容の全文書き起こしを掲載します。

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Aさんが証言する、マッドハウスでの勤務実態

 まず制作進行という仕事についてですけれども、業務内容については配布資料の通りです。いわゆる色を塗ったりPCを使って画像を作るというような職種ではありません。マネージャーのような、進行管理の業務になります。先日文春オンラインさんから本件に関する記事を出していただいております。制作進行の業務については極めて詳細かつ正確な説明をしておりますので、皆さまにもぜひそちらをご一読いただければと思います。

Aさん作成資料。制作進行の業務が多岐に渡るのが分かる

 入社後、新人研修を終えまして、実際に制作部に配属されました。当初はまだそれほど忙しくはなく、月50時間を超えるような残業もありませんでしたので、特段問題視はしておりませんでした。その後担当作品が動き出しまして、先輩社員のサポートを受けつつ、新人でありながら1話数(1話まるごと)の制作進行を一人で担当することになりました。

 コンテが上がってからフリーランスの原画マン(アニメーター)に営業をかけ、15人から20人ほど集め、発注をし、打ち合わせをするのに非常に苦労しましたが、このときはまだ一般的な労働時間で勤務しておりました。

 しかし作画の工程が動き始めると、徐々に勤務時間が伸び始めていきました。制作状況の記録や日報の作成。素材のスキャン。各スタッフへの業務連絡といった日々の事務作業に加えて、このときの話数は監督、作画監督、総作画監督以外のほとんどの作画スタッフが社外――東京都西側に点在する自宅など――で作業しており、午後から深夜にかけて、レイアウトや原画といった紙素材の回収・配送の業務が発生してきたためです。

 一部ではありますが、原画マンさんが平然と納期をやぶってきたり、突如音信不通になったり、深夜に自宅まで回収に行ったのに上がりが出ていないといったトラブルにも見舞われました。また設定が完成しておらず、原画マンさんが作画作業に入れないといったスケジュール遅延にも多々見舞われました。

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  そうこうして各カットの原画ができあがり、海外の動画・仕上げ会社に作業を発注し、原画素材を送り、背景会社から上がってきた背景画と共に、色のついた動画データを撮影会社に渡し、1カット1カット映像ができあがっていきます。

 ある程度のカット数ができあがりましたら、メインスタッフを集めて「ラッシュチェック」を行いまして、監督や演出がキャラクターの作画ミスや色の塗り間違え、表情の修正、カメラワークの変更など、さまざまな修正支持を「リテイク」として出していきます。

 制作進行はこれらの内容を漏れなくメモし、 リテイクカットの素材を担当セクションに戻し、修正カ所を修正してもらい、再度撮影し、またラッシュチェックを行います。

 日々の制作状況の悪化から、最終工程であるラッシュチェックは納品の1~2週間前に実施されることが多く、毎日のようにラッシュチェック・リテイク回しをするのですから、制作進行は昼夜が逆転し、毎日睡眠時間が3~4時間になるか、本当に家に帰れなくなり、会社のデスクで仮眠をすることになります。

 こうして全カットに色が付き、リテイクも全てつぶしきったら本編が完成し、オープニングとエンディング、クレジットが付いて、約3カ月の制作期間を経て、一本のテレビアニメが完成納品となります。そしてすかさず次話数の絵コンテを渡され、進行管理に入っていきます。これを1クールの作品が終わるまで、4~5人の制作進行が1人あたり3~4回繰り返します。

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Aさんの首元にはマッドハウスの社員証が下げられていた

こうしてこれまでの先輩社員はみんな嫌になってやめていった

 とある作品の後半話数を担当していたときに、放送の1カ月前に絵コンテが上がるという状況で、先ほども申し上げましたように、30分のテレビアニメを本来3カ月かけて制作するものを、1カ月で制作しなければならない劣悪な制作状況下で進行管理することになりました。

 この月は平均して毎日12時間以上勤務し、あまりの忙しさから3日間家に帰らず、会社で仕事をする日もありました。休日もなく37日間連続勤務を強いられ。総労働時間は393時間に及びました。

 ある日の朝、帰宅途中に路上で倒れ、救急車で運ばれてしまいましたが、一日だけ休養を取り、翌日から再び出勤し、最終的にはなんとか納品することができました。その後心身の不調から心療内科を受診し、心因反応と診断されました。この話数終了後に50日近く溜まった代休を消化するため、10日間の休暇を与えられましたが、代休消化後は再び仕事を続けながら約2カ月間に渡り治療を受け続けました。

 こうした中、いくらなんでも業務量が多すぎるし、長時間労働にもほどがある。何か違法なのではないか? というふうに思い始め、また、これだけ長時間働いたのに給料がいっこうに変動しないことに疑問を感じ、自分で固定残業代についてインターネットで詳しく調べました。その結果、残業代の1時間あたりの時給単価が最低賃金を割っていることと、50時間を超過している分の残業代が支払われていないことに気が付きました。

 お恥ずかしい話ですが、私は会社が入社時に説明した「みなし残業」という言葉にたぶらかされて、いくら残業しても50時間分の残業代しか支払われないものだと思いこんでいましたが、実際は違うのだということをここに来て初めて知りました。

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 あらためて給与規定を確認したところ、「固定割増賃金を超過した分は支払う」というものがあり、マッドハウスは自社の給与規定すら守っていないという事実が判明しました。

 いくつもの話数の進行を担当しましたが、いずれもさまざまな原因で遅かれ早かれ制作状況は必ず悪化し、特にシリーズの後半は慢性的な長時間労働を前提とした制作体制でありました。こうした劣悪な制作状況に起因してか、スタッフやプロデューサーからは「こんどやったらぶっ飛ばすぞ」「原画が巻き終わるまで家に帰るんじゃない」というパワハラを受けることもありました。

 こうしてこれまでの先輩社員はみんな嫌になってやめていったんだなと。毎年毎年社員である制作進行を使いつぶしてアニメを作ってきたんだなと痛感しました。

 ある時、「誰か労基に言ってくれないかな、一発アウトだろこんなん」と発言していた先輩の姿が今も強く印象に残っております。私としては業務は一向に改善されず、残業代も適切に支払われない。先輩社員は年々やめていく。こんなインパール作戦みたいな無茶なことを何年も何年もやっていては、自分は仕事を続けられない。本当にこのままでは困る、というふうに感じるようになりました。

 こうした一連の経緯を経て、2019年3月にユニオンに加盟し、4月5日にマッドハウスに対して団体交渉の申し入れをいたしました。

会見が行われた厚生労働省

団体交渉の結果は「極めて不誠実」

 先日、4月26日、会社側の都合によって当初の日程より約2週間引き伸ばされつつも、第1回団体交渉を実施いたしました。結果は大変不誠実な対応でありました。私としてはマッドハウス側の主張は非常識極まりないものばかりで、到底容認できるものではありません。

 固定残業代の1時間あたりの単価が最低賃金割れしている点については問題を認めました。1カ月の平均所定労働時間や、年間休日数の算出数の問題を指摘すると、「分からなかった」「悪意を持ってしたことではない」「経営が変わる前から同じ規定を続けて使用していた※」「前任者から引き継いだ計算式をそのまま踏襲し問題ないと考えていた」と、解答がありました。

※マッドハウスは2011年に日本テレビの子会社になっており、「経営が変わる前」とはこのときのことを指すと思われるとのこと。

 固定残業代50時間分を超過した分の未払い残業代については問題を認めました。給与規定に書いてあるにもかかわらず、なぜこれまで支払ってこなかったのか? 社員が気付かないと思っていたのか? この指摘に対しては、「規定に書かれていたのは知っていたが、給与計算の担当者を信頼し、問題ないと思っていた。過去からずっと払っていなかったので」という解答でした 。

 給与未払いについては非常に重大なことですので、責任者の処罰を要求しましたが、「マンパワーが不足している中、皆一生懸命頑張っているので、そこに至るかは言明できない」と、責任をうやむやにする解答でした。

 このようにマッドハウスの固定残業代について、私の認識としては入社前・入社後いずれも説明が不十分であったこと。求人票と雇用契約書にきちんと明示されていないこと。1時間あたりの単価が最低賃金を割っていたこと。これまで50時間分を超過した分の未払いがあったこと。実際の残業は50時間を超えることが多々あったこと。以上5点を理由に、無効とするように求めております。

 先の総労働時間393時間の月に過労で倒れた件について、マッドハウス側は「長時間労働のせいで倒れたかどうかは分からない」という非常識な解答で、制作進行は裁量を持って業務に取り組んでいるので、責任者は明確にできないと、会社は明確にその責任を認めませんでした。なお同社の制作進行は裁量労働制ではありません。

 また、上長であるチーフプロデューサーからは、「どんなに劣悪な状況下であっても、私のように過労で倒れず、制作進行の業務をそれでもできてる人もいますからね」という信じられない発言もありました。私としては非常にショックであります。

 長時間労働の原因は明らかに会社と現在のアニメの制作体制の問題であるのに、個人の体力と技量の問題に話をすり替えられるのには、非常に強い怒りを覚えます。放送の1カ月前に絵コンテが上がるような劣悪な制作状況を作り出した責任は監督やプロデューサーにあるのではないかという指摘に対して、「それを限定するのはあなたの主観でしょう」という反論が返ってきました。

 長時間労働の改善についてですが、こちらは時間の都合上、第1回団交では議論できませんでしたが、私ども組合のほうから提案した制作進行の長時間労働改善案である

  • 原画等回収業務の外注化
  • 制作進行が同時に複数話数担当することの禁止
  • 新人制作進行に入社後いきなり1話数担当させることを禁止し、十分な教育期間を設ける
  • 深夜、早朝のラッシュチェック、リテイク出しの禁止
  • 制作進行による原画マンの営業、確保を業務から外す

等々の要求は、制作進行業務に必要なこととして全て拒否されました。

 この他にもいろいろと改善案はあるのですが、早急に取り組むことができることができるであろう現実的な策として提案したつもりですが、全て拒否してくるのは極めて不誠実な対応です。マッドハウスは相変わらず社員である制作進行を使いつぶす気でいるようです。

 以上申し上げましたように、第1回団体交渉におけるマッドハウスの対応は大変不誠実なものであり、マッドハウス側の主張は非常識極まりないものばかりで、断じて容認できるものではありません。

 全体的な感想としては、私にはマッドハウスは組合からの要求は一切無視し、労基署からの要請指導にのみ一時的かつ表面的に対応し、全社員にできるだけ少額の過去数カ月分の残業代を支払い、時間が経ってほとぼりが冷めるのを待とうとしている態度に見えました。引き続き私は組合と共に団体交渉に取り組んでいきたいと思います。

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