「知り合いからしか仕事が来ない慣習を変えたい」 ガキ使・激レアさん担当作家が「日本放送作家名鑑」を作ったワケ(4/4 ページ)
今取材したい人は「秋元康さん」だそうです。秋元さん、どうかなにとぞよろしくお願いします……!
――深田さんは地上波での活躍はもちろんのこと、Amazonプライム・ビデオ番組「今田×東野のカリギュラ」など、ネットのお仕事もされていますよね。テレビとネットで一番違うところって何だと思いますか。
深田:規制ですかね。自主規制。
――例えば地上波だと出来ないけれど、カリギュラだと実現できたという代表的な企画はありますか。
深田:カリギュラでやっているのはほとんどテレビじゃできないんじゃないですかね(笑)。そもそものコンセプトが「地上波で禁止された企画をやる」という番組でもあるので。テレビでは基本的にエロ・犯罪系はできないですけれども、カリギュラだと「夜の嬢王は誰だ!? 芸人の嫁 指名ダービー」「教えてシリガール ~美女のイケないレッスン~」「うちの親は大丈夫! 母ちゃん、オレオレ詐欺選手権」といった企画がありました。これらはAmazonプライム・ビデオの中でもギリギリな企画らしいので、カリギュラはかなり異端なんだとは思うのですが、テレビじゃ絶対にできないだろうなと思います。
――テレビはテロップの量がここ10年ぐらいですごく増えましたが、ネットだとテロップが少ないですよね。テレビの「テロップでまくり論」について、深田さんはどう捉えていますか。
深田:人によってはあぁいう演出が嫌いだという人もいますが、僕個人としては、テレビの進化の結果=テロップの増加なのかなと思っています。例えば今は当たり前になっている「歌にテロップを入れる」という演出も、最初に入れたときは批判があったでしょうし、「エンタの神様」(日本テレビ系)で芸人のネタにテロップを入れたときも賛否両論があったと思うんです。でも結局なんでテロップを入れるのかといえば、それは「視聴率を獲るため」ですから。歴史上のテレビマンたちが本気で視聴率を獲ろうと考えに考えて進化してきた結果だと思うので、僕は否定感情はないですけどね。
テロップのほかにも、テレビ用語で「引っ張る」という言葉があります。例えば人やモノにモザイクを入れて、そのモザイクが外れるまで視聴者の興味を持たせたり――というのが代表的な「引っ張る」演出の一つですが、このように「どう引っ張るか」というのを多くのテレビマンが本気で考えているんです。
でもネットの場合は地上波のように、「テレビをつけたらその番組がやっていたから見た」というよりは、その番組を見るためにチャンネルを合わせた、いわゆる“積極視聴”の視聴者が多いですから“一度視聴し始めた人は最後まで見る”という傾向があるので、地上波の番組ほどは過剰に引っ張る必要がないということだと思います。
――そう言われてみればそうですよね。深田さんご自身もネット番組とテレビ番組だと、ここは変えようと意識される点はあるのでしょうか。
深田:これはディレクターの仕事の範ちゅうですし、僕みたいな下っ端が考えることではないんですが、それこそ「過剰なテロップはいらない」ということは1つあると思います。テレビがなぜサイドテロップ(左上・右上・左下・右下に置かれるテロップ)を入れるかというとザッピングしたときに、「数秒で番組内容を理解できないとチャンネルを変えられる」という理由があるからなんです。特にテレビのゴールデンは「多くの人に番組内容を理解してもらう」ことが大事なので、丁寧に説明をするのですが、ネットの場合は、番組内容を理解して視聴している人がほとんどなので、過剰な説明は不要という意識が多少あります。
――一般大衆向けのテレビ、コアな層に向けたネットという感じですね。ネットの番組に関わられたのは、何かきっかけがあったんでしょうか。
深田:ディレクターに呼ばれたからですね。今のところは、ネットの番組のほとんどがテレビで活躍している制作会社が関わっていて、例えばカリギュラは一流のディレクターと放送作家が集結しています。僕なんかは会議でずっと緊張しっぱなしですから(笑)。
ゴールデンでの視聴率の取り方
――テレビでは視聴率を取るために意識する、視聴者層みたいなものもあるんですか。
深田:視聴率を取ろうと思ったら、「3層を意識しろ」ということはよく言われますね。基本的には「F層(女性)」と「M層(男性)」があって、「F1層が20歳~34歳の女性」「F2層が35歳~49歳の女性」「F3層が50歳以上の女性」と年齢別に層が分かれているんですが、視聴率って実はその層ごとの数字も出るんですよ。世の中に知られている視聴率っていうのは「世帯視聴率」というものなのですが、その世帯視聴率を取るためには「M3層」「F3層」を意識した方が人口の割合的に視聴率が上がるんです。
なので、ゴールデンの視聴率を取りたいときは「Fが見てくれるか」「3層が見てくれるか」を意識するようにというのはよく聞きます。ただ、これも今後時代の流れで変わっていく可能性もありますし、番組の評価基準が世帯視聴率ではなくなってくるというような話も聞きますが。少なくとも現時点での地上波の番組においては、「若者の視聴率はめちゃくちゃ高いけれど、年配の方があまり視聴していない」という番組は世帯視聴率が上がらないんですよね。これに対照的なのが「イッテQ」。あれは子どもから年配の方まで幅広く視聴されているので、超理想の番組です。
――「イッテQ」の人気の秘訣はどんなところにあると思いますか。
深田:「イッテQ」はごぞんじの通りナレーションも面白いんですけれど、“視覚で楽しめる番組”だと言われます。例えば人が転ぶとか、“見て笑える”=“現象の笑い”が多く含まれているので、お茶の間で子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで世代を問わず、みんなが笑える。だから世帯視聴率も獲るし、視聴率だけでなく業界人からも面白いと思われているという本当にすごい番組だと思います。
取材後記
テレビ視聴率調査の「ビデオリサーチ」では、2019年4月から北部九州地区でもテレビ視聴率調査をリニューアルするため、個人視聴率というデータの提供が始まりました。これは視聴率調査に協力する世帯の個人がどの時間に何の番組を見ているかが明らかになるというもので、2019年4月以前には関東地区・関西地区・名古屋地区の3地区で個人視聴率の調査が導入されていました。
ビデオリサーチにお話を伺ったところ、「個人視聴率の調査」は視聴率調査の仕様を強化するための一環とのことで、これまでにも機械式で測定する「世帯視聴率」に加え、「日記式」(紙に1週間見た番組を記録してもらうという方法)と呼ばれる測定法で個人の視聴率も把握してきたそうですが、今後は機械的にこれらが測定できるといいます。
近い将来、テレビ業界において個人視聴率が重視されることとなれば、現在の「F層」「3層」を重視した「世帯視聴率を獲る番組作り」から、「個人の興味を引くための番組作り」に移行する可能性もあります。今回の取材を通じて、作り手がいかに熱い思いで番組を制作しているのかに触れ、地上波テレビがまだまだ楽しく面白いものになる可能性を感じました。そして「日本放送作家名鑑」という新たなアイデアが、その一助を担うものになるかもしれません。
(Kikka)
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