森永卓郎が提唱~災害の多い日本にこそ必要な「ガンディーの経済学」
「垣花正 あなたとハッピー!」(10月30日放送)に経済アナリストの森永卓郎が出演。度重なる台風被害に見られるように、今後、日本では災害にどう向き合うかということが問題となる。ここではガンディーの経済学に基づく、電力の地産地消について解説する。
令和の時代に必要なのは人と地球を救うガンディーの経済学(電力編)
ガンディーの考え方で社会を生きた方が、よりよい世の中になる、地球も人も幸せになると私は思っています。国連総会でSDGs(持続可能な開発目標)というものが、4年前(2015年)に採択されました。これは2030年までに達成すべき17のゴールと、169のターゲットを定めたものです。持続可能な開発目標ということで、格差をなくすことや地球環境が壊れることを防ぐなど、人類共通の目標を掲げ、みんなで実行することで世界は一致したのです。私はこのSDGsを達成するために、いま世界がやらなければいけないことは、「ガンディーの経済学」だと思うのです。
ガンディーの経済学とは
かつては、ガンディーは立派な人だけれど、経済学はわかっていないのだと思っていました。ガンディーは世界の自由貿易に反対して、大きな工場を誘致するような近代工業化にも反対していたからです。工場を誘致して職が生まれれば、みんな豊かになるのにと私は思っていました。自由貿易の方が、適地で自由なものがつくれていいと思っていたのですが、ガンディーは経済学を知らないからそういうことを言っていたのではなくて、考え抜いた挙句にこの結論に達していたことがわかったのです。例えば、地域に大規模工場や商業施設を誘致すると、その工場や施設で働く人は豊かになるかもしれないけれど、大型商業施設ができたおかげで、その地域の商店街はガタガタになってしまいます。
ガンディーが主張した地産地消~近くの人が近くの人を助ける
ガンディーはどうしたら貧困の格差をなくせるかについて、近くの人を近くの人が助けることを基本にすべきだと言ったのです。例えば、近所の人がつくった農産物や食料品を食べる。近所の人がつくった服を着る。近所の大工さんがつくった家に住むということを、世界中で一斉に始めれば、それぞれの地域で経済が回り始めて、やがて世界から貧困が消えて行くという考え方をしたのです。
千葉停電54万戸、断水続く 台風15号のため、停電が続く千葉市緑区。県内では鉄塔2基が倒壊するなどしており、復旧は多くの場所で11日以降になる見込みだ=2019年9月10日午後6時42分(共同通信社ヘリから) 写真提供:共同通信社
電力にも通じるガンディーの経済学
このガンディーの経済学は、電力にも通じるのではないかと思うのです。そう思ったのは、台風15号で千葉県が長期間の大規模停電に追い込まれたときです。私が疑問に思ったのは、千葉には大規模火力発電所が立地しているけれど、すぐ横の地域が停電していたからです。なぜ発電所があるのに、すぐ横にある家が停電しているのか。いまの電力は地域ごとに独占の電力会社があって、そこが大規模な発電をし、送電線、変電所を通じて各家庭に電力を送る仕組みになっています。つまり大量生産、大量供給です。しかし、それだと送電線が倒れたら、いつまで経っても電気は来ません。
台風15号による大規模停電で、明かりが消えた千葉県多古町南中地区(手前)。住宅の屋根はブルーシートが覆い、停電が解消された地区と明暗が分かれている=2019年9月14日午後、千葉県多古町 写真提供:産経新聞社
電線を地中化するリスク
今回の大規模停電を受けて、多くのエコノミストや評論家が「送電線を地中化しなければいけない。景観にもいい」と言っています。現に、東京都は片端から電線を地中化して行く方針なのです。ただ、この電線の地中化には大きな問題がある。それは、とてつもないコストがかかるということです。1キロメートルつくるのに、電柱を立てて電線を這わせる方式だと約2000万円でつくれるのです。ところが、地中化工事をすると3億5000万円かかります。10倍どころではありません。それだけの莫大なお金をどこから持って来るのかという問題と、日本は台風だけでなく地震も来ます。地震が来たときに電柱が倒れる場所もたくさんあるでしょうが、外に出ているから直すにも直しやすい。ところが地中化した場合、大規模地震が来て電線が切れると、どこで切れているか特定するにも手間がかかるわけです。なおかつ、つなぎ直すときになかに入らないといけない。地中で工事をするのは、電柱を立て直すより遥かに大変なのです。
小規模分散、地産地消による電力の供給
ガンディーの経済学による電力の供給とは、小規模分散、地産地消型にすべきだということです。いま、太陽光発電が安くなっています。我々が買っている電力は、1キロワットアワーあたり26~27円だと思うのですが、いま太陽光発電で発電した人が固定価格買取制度で売るときの単価は、18円です。つまり、我々が買う単価より安くなっているのです。固定価格買取制度ではなく、自由市場でも売買されているのですが、その価格は1キロワットアワーあたり8円です。太陽光パネルの値段が下がっているので、安い値段でできるようになっています。1つの方法としては、みんな屋根の上に太陽光パネルを置く。そうすると、途中の送電線が切れても自分の家は何とかなります。今回、千葉の人たちを見ていると、スマホの充電が切れてしまって市役所に大行列ができていました。いまはラジオもスマホのラジコで聴くので、情報源はスマホなのです。そんなときでも、マンションは難しいと思いますが、そういう家が何割かあればスマホ充電のおすそ分けくらいはできます。情報がない状態は解消できるのです。まずは地域ごとに、いざというときのために自立できるくらいの電力は賄えるようにしましょう。
日本に浸透しない地熱発電
私がもう1つやるべきだと思っているのは、地熱発電です。地熱というのは、地面を掘って蒸気で発電するやり方です。日本ではほとんど行われていないのですが、アイスランドでは電気の2割を地熱発電で供給しています。実はアイスランドで電気を起こしている発電装置のタービンは、日本製なのです。だから日本は、技術的には地熱で発電できる態勢が整っているのです。そして、日本の地熱の資源量はアイスランドに続いて世界3位なのです。それなのに地熱発電をしない理由は、温泉資源に悪影響があるかもしれないからです。それから、資源が集中しているところが国立公園のなかにあったりするので、景観を損ねるという意見もあります。ただ、電力の地産地消は仲間に電力を供給するのだということであれば、地元は納得するのではないでしょうか。災害で大変な思いをしている人がいるいまだからこそ、議論は盛り上がると思います。そして、地熱のいいところは1度掘ってしまえば、タダでずっと電気を得られるところです。
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