「どれだけ研鑽を積めばウメハラの領域にいけるのか」 東大卒プロゲーマー・ときどが語るeスポーツ界の新たな課題と“最強”への道筋(4/4 ページ)
人気・実力ともにトップクラスのプロゲーマー。
日本で「若きスーパースター」が出てこない理由
ときど:もうねー……今の若手は頑張ってると思いますよ。ゲームの腕前という意味では、昔の僕なんかよりも上を行ってますから。ただ、格闘ゲームってリアルタイムで考える時間がほとんどないので人間味がプレイを決めるんですよ。そういう意味では、若手に色んな経験をさせてあげられてないなとは思います。僕も昔は先輩のゲーマーにムチャなことさせられて、それが人間力を上げる良い経験になったこともありましたから(笑)。
――海外の格闘ゲームシーンを見ていると、20代前半以下のプレイヤーがスタープレイヤーとして大活躍していますが、日本では「スマブラ」のザクレイさんなどの例外はいるものの「若きスーパースター」と呼べるプレイヤーの輩出は遅れている印象です。
※ザクレイ:「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズで活躍するプレイヤー。もともと国内での評価は高かったが、2019年からは積極的に海外大会に出場し、優勝を含め好成績を残し続けている。高校生ながら、日本最強スマブラーとの呼び声も高い。
ときど:……現状、上の世代のプレイヤーが別け隔てなく切磋琢磨でき過ぎていると思うんですよ。今は戦国武将が江戸に全員集まって、毎日「合戦じゃあ!!」ってやってるわけですから(笑)。そんな中で若手が強くなろうとすると、上の世代の影響は絶対に受ける。格闘ゲームの世界にもトレンドがあるじゃないですか。流行りの戦い方が。
「ストV」では海外のパンクやメナに勢いがありますが、彼らの国の場合は上の世代が集まって切磋琢磨する空間がなかったですし、彼ら自身が引っ張っていかなければいけない存在だった。だから自分の感性・スタイルを伸ばしやすい環境だったんですよ。その影響で、彼らには僕らには無い独自の考え方がある。
※パンク:アメリカで活躍する21歳。EVO2017ではときど選手と決勝で戦い、惜しくも敗れたことでも知られる。今季も絶好調で既に6つの大会で優勝している。
※メナ:正式なプレイヤーネームは「MenaRD」。ドミニカで活躍する弱冠20歳のプレイヤー。世界最高峰のバーディー使いとして知られ、「ストリートファイターV」の公式世界大会「カプコンカップ」での優勝経験もある。
――なるほど、海外では一つの地域に強いプレイヤーが集中していなかったと。
ときど:これが日本になると、独自のスタイルが若手の中にあったとしても、一緒に練習すると僕らの世代が勝ってしまうのでその可能性をつぶしてしまう。これは経験が少なかったり技術が追い付いてないだけだったりするのですが、若手は「このやり方じゃだめなのかもしれない」と思って、上の世代の考え方やトレンドを取り入れて追随せざるを得ない。
――……ということは、少なくとも日本のストリートファイター界においては、ベテランプレイヤーが若手の成長を阻害している可能性があると。
ときど:まぁそうなってますね。でも、これは本当に難しい問題ですよね、一人で練習を続けたり若手だけが集まって練習しても、海外の大会でTOP8に残るような実力が得られるかというと、僕はそうじゃないとも思いますし。
それに、僕らも現役なんですよ。まだまだプレイヤーでやっていきたいですし、自分が強くなりたくてオープンにそういう練習をしているんです。若手は頑張っているんですけど、上がこんなに真面目にゲームに取り組んでいるので、それ以上のやり方をしないと難しいと思うんです。本当にハードルは高いんですが……。
「楽しくないとこんな生活やってらんないですよ」
――ところで旬な話題なので聞かねばならないのですが、JeSU(日本eスポーツ連合)に関してはどう思います?
ときど:これね……僕は全体でみたら法整備をしてくれる団体は必要なのかなと思ったので、ライセンスを受け取ったんですよ。まぁ僕らがというよりは、僕らよりも下の世代が恩恵を受けられるような仕組みができてほしいなと思って、今は見守っているというか……(笑)。
――すごく答えづらいと思うのですが……ももちさんの件はどう思われます?
※JeSUを巡る騒動:9月の国内大会で優勝した「ももち」選手が、JeSUが交付するプロライセンスを保持していないことを理由に本来の賞金500万円を10万円に減額された問題のこと。ももち選手はJeSUによるプロライセンス制度が発表された際、その正当性を疑問視する意見を表明したことがある(関連記事)。
ときど:むしろももちの意見が聞きたいぐらいですよ。……話し合いとかどうなってるのかなあ。
――ご本人と共演する機会もありますが、そういった話になったりしないんですか?
ときど:……いや、聞けないんですよ(小声)。やっぱりねえ……僕にとってあいつは“ゲームでぶっ倒したい奴”なんですよ。そういう人と、そういう話はしたくないんですよねえ。
――とても競技者らしいコメントですね……。
ときど:あいつ、対戦していても「こいつにはどんなバックボーンがあるんだ……?」って思うくらい我慢強いし、意思の強いプレイヤーなので……解決すんのかなあ……。
――ときどさんは以前は多タイトルで活躍していましたが、現状ストリートファイターをメインに活動していますよね。今後他のゲームへの進出する予定は?
ときど:予定はないですけど、やらないとも言ってないという感じですね(笑)。
人が多いゲームはうらやましいなと思うので「鉄拳」とか、ゲーム性は違いますけど「スマブラ」とか。やっぱ複数のタイトルを同時にやるよりは、やるんだったらストリートファイターから離れる覚悟でやることになるだろうなと。
――それはつまり、他のゲームに行っても活躍する自信はあると?
ときど:時間がすごくかかる自信もあります(笑)。時間さえかければやれるぞという意気込みはありますけど……「やってないやつが何を言ってるんだ」とコメントされる未来が見えますね。まぁいいか(笑)。
ストリートファイターには倒したい奴が多いんですよね。梅原さんだけでなく、ももち、ボン、マゴ、ネモとか。みんな必死でやってますし、面白い奴らも多いですから。
――では最後に、今後の目標はありますか?
ときど:目標ですか……短期的な目標でよければカプコンカップ(カプコンが開催する公式世界大会)優勝になりますけど。長期的な目標としては、業界を背負えるような存在にならないといけないなと。それと同時に「ゲームって良いものだぞ」……って言いたいんですけど、世間の目は厳しくて世間の認知とギャップがあると受け入れてくれないので、「ゲームはそんなに悪いもんじゃないんだぞ」っていう言い方をしようと思っています(笑)。
――ありがとうございました。今日一日話を聞いていて思ったんですが、ときどさんは本当に根っからゲームを楽しんでるんだろうなあという印象ですね(笑)。
ときど:そうですね。楽しくないとこんな生活やってらんないですよ。ゲームやってジム行って筋トレしてつらい思いして、食べ物もナッツをポリポリ食べてると「餌みたいだな」って言われたりして(笑)。それでも続けられるのって、ゲームが好きだからなんですよ。
関連記事
なぜ「ときど優勝」で格ゲーマーは泣いたのか 東大卒プロゲーマーの情熱と“友情、努力、勝利”
劇的なときどの優勝で幕を下ろしたEVO2017、その背景を振り返る。「プロゲーマーって引退したらどうするの?」 現役プロゲーマーにeスポーツの将来について聞いた
「プロゲーマーってモテるの?」など、いろいろな話を聞いてみました。【訂正】「eスポーツで稼げることが分かれば人がついてくる」 プロゲーマー兼スクエニ社員が語る“兼業プロゲーマー”の実情
ザンギエフが嫌いすぎるゲーマー。EVO2015の歴史的珍事「早すぎたガッツポーズ」の裏側にあったもの “勝負を分けたカウンターヒット”を生んだ「0.1秒の駆け引き」
席を立ったことは紛れもないミスだが、その時点で勝敗が決まったとは言い切れない。eスポーツ大会、優勝賞金500万円が10万円に JeSUに批判が集中した「賞金490万円減額問題」の争点を解説
「何のためのプロライセンスなのか」「なぜ中学生だと賞金を受け取れないのか」などネット上で不満が噴出。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.