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なぜ「ときど優勝」で格ゲーマーは泣いたのか 東大卒プロゲーマーの情熱と“友情、努力、勝利”(1/3 ページ)

劇的なときどの優勝で幕を下ろしたEVO2017、その背景を振り返る。

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 ラスベガスで開催された世界最大の格闘ゲーム大会「Evolution 2017(EVO2017)」。ストリートファイターV部門の決勝のカードは、無敗のまま決勝に駒を進めたアメリカの怪物プレイヤー「パンク」と、東大卒プロゲーマーとして知られる古豪「ときど」。パンクは、決勝でときどと当たるまで圧倒的な力で対戦相手を蹴散らし続けており、誰もがパンクの優勝を予想していた。


tokido ときど (Twitchより)

 しかし、フタを開けてみればときどの圧勝で内容もほぼ完璧。あっけない勝利にも思えるが、かつてのときどを知る格闘ゲームファンなら、これがどれほど苦難の道のりだったのか分かるはずだ。「パンクが強敵だった」それだけで済む話ではない。格闘ゲーマーの中では「泣いた」というツイートも多かった。

 例年1000人以上が参加する超激戦区のEVOストリートファイター部門だが、実は日本人が優勝することは珍しいことではない。ゲームセンターという文化が根付いている日本には、カリスマプレイヤーのウメハラを筆頭に多くの強豪ゲーマーがいる。事実、EVOのストリートファイター部門は、近年だけでも2009年、2010年にウメハラが連覇、2011年と2015年にも日本人が優勝している。しかし、EVO優勝でここまで大きな盛り上がりを見せたのは過去にはなかったことだ。

 なぜ、ときどの優勝は人々をこれほど感動させたのか――EVO2017の中で起きた劇的な展開はもちろんだが、それだけでは説明しきれない。この圧勝の裏側には“長らく苦楽を共にしてきた友の存在”や、“才能に頼らずに積み重ねた努力”という王道少年漫画のような「友情、努力、勝利」の展開があったことを、古くからの格闘ゲーマーは知っているはずだ。


tokido ときど 優勝の瞬間(Twitchより)

合理性だけを求め続けたときど

 “僕が勝てるのに理由があるとしたら、それは、誰よりも練習するからに他ならない”(「東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない」28P)――自身の著書でそう記す通り、ときどは決して才能だけを武器に強くなったプレイヤーではない。正確な操作、読みの鋭さ、知識、冷静さを保つメンタル、戦略を組み立てる力、判断力……格闘ゲームに必要となるスキルはさまざまだが、おそらく最も“持って生まれた才能”に近い部分である反応速度は平凡だった。

 そのため、ときどは他のトップレベルのプロゲーマーと比較しても“小足見てから昇竜拳”のようなスーパープレイが非常に少ない。しかし、反応速度は凡庸でもその他の能力は非常に高く、特に流れるように“詰み”まで持っていく戦略の構築力と、それを生み出すための練習量は飛び抜けたものがあった。

 そんな“東大卒”にふさわしい実直さとクレバーさを持ったときどのかつてのプレイスタイルは、なんともつまらないものだった。スーパープレイが少ないからではなく、何度「プレイスタイルが寒い」と批判されても、いかに消極的な行動だろうと、勝利のための合理的なプレイを徹底したからだ。例えば2003年、格闘ゲームの全国大会「闘劇」の「カプコン VS SNK2」ではわざわざ最強キャラクターを使用し、バグ技を容赦なく連発し優勝した。ときどはそういうプレイヤーだった。

 2008年稼働のストリートファイターIVでも、ときどは当初から最強クラスのキャラクター「豪鬼」を使い、強引に相手をダウンさせ、そのまま回避困難な起き攻めで圧倒するというプレイを続けていた。分かりやすく言えば、最強のキャラクターを使い、最強の戦術で合理的かつ効率的にプレイしていたということだ。徹底的に冷ややかなプレイを続けたときどは、ときに「アイスエイジ」とからかわれていた。


tokido ときど ストリートファイターIVシリーズの豪鬼(ストリートファイターIVのサイトより)

 どれだけ「見ていてつまらない」といわれても、機械のような正確さで勝てるプレイをする。もちろん、その頃のときどは強かった。しかし思うような結果は得られなかった。合理的プレイの限界を感じたときどは、国内で開催されたリーグ戦「トパンガリーグ」での手痛い敗戦をきっかけに、いつしか“ウメハラ”のような非合理的でも見ていて楽しめるプレイをするようになった。“勝ちにすぐさまつながらない選択肢の中にも、強さの理由はある”――それに気づいたときどは、少しづつ良い結果が残せるようになっていった。

 ストリートファイターIVシリーズは次々バージョンアップし、豪鬼よりも強いとされるキャラクターも出始めた。もはや豪鬼は最強キャラではない――プレイヤーの間ではそれが常識だったが、ときどは豪鬼を使い続けた。2015年、カナダで開催された大会で優勝した際、インタビューでときどはこう言った「このゲームは、豪鬼こそが最高のキャラクターだと信じている」。

豪鬼がいなかったストリートファイターVと、「ときど豪鬼」の復活

 2016年、ストリートファイターIVシリーズの時代は終わり、ストリートファイターVがリリースされたが、このゲームにはかつて相棒だった豪鬼はいなかった。そんなストリートファイターVでときどが使用したのは、豪鬼と比較的近い技を持つ「リュウ」。


tokido ときど ストリートファイターVのリュウ(ストリートファイターVのサイトより)

 ときどは、多くのプレイヤーがリリース直後のタイトルの研究に四苦八苦する中、持ち前のポテンシャルを発揮してすぐに活躍し、「世界最強のリュウ」として知られるようになる。この頃の強さは、「日本国内のストVプレイヤーの中では、ときどが頭1つ抜けている」という常識が生まれるほど。2016年のEVO前のインタビューではときど自身も「(注目選手は)僕です」と即答していた。

ときどのインタビューは10分22秒から

 しかし、それでもEVOは優勝できなかった。優勝したのは韓国の強豪「Infiltration」。彼はストリートファイターIVシリーズではときどと並ぶ豪鬼使いとして知られていたが、EVO2013では準決勝でときどと対戦し、敗北していたプレイヤーだった。

 2016年の暮れごろ、ストリートファイターVのバージョンアップが決定。それまで最強キャラクターの筆頭候補だったときどの持ちキャラクター・リュウが弱体化され、かつてときどが相棒にしていたキャラクター「豪鬼」がストリートファイターVに参戦することがアナウンスされた。


tokido ときど ストリートファイターVの豪鬼(ストリートファイターVのサイトより)

 豪鬼は攻め手は多いが体力は低く、崩されればあっという間に負けるキャラクター。敵の攻めをさばききることが難しいストリートファイターVでは、標準的な性能を持つリュウよりも難しいキャラクターといえる。しかし、ときどは持ちキャラクターに豪鬼を選択。「ときど豪鬼」が復活した瞬間だった。

 そして2017年。ときどはEVO前のインタビューで「一番豪鬼を使いこなせているのは自分だぞっていうのは毎回見せたい。そこだけは譲れない」と力強く答えていた。

ときどのインタビューは3分31秒から

急激な成長をみせたパンクにストレート負け

 2016年には目立った成績を残していないにもかかわらず、2017年に急激にランキングを伸ばす選手がいた。彼こそがパンク。攻めに特化したキャラクターの「かりん」を使用しており、2016年にはときどとの対戦経験もあったが、その時はときどに敗北している。

 しかし、2017年は世界中の猛者が集まるカプコンプロツアーの大会ですでに3度優勝。これは勝ち続けるのが難しい格闘ゲームにおいて驚異的な戦績といっていい。一躍優勝候補となったパンクは、人間離れした反応速度と的確な攻めで、EVO2017でも当然のように勝ち続けた。そして、7月16日にウィナーズのベスト16で同じく順当に勝ち進んだときどと激突。2セット先取すれば次の試合に駒を進めることができ、負けた方は敗者復活に望みを託すしかない。

 序盤、ラウンドは取るもののパンクの猛攻を防ぎきれず、ときどは惜しくも1セット目を落とす。続く2セット目、1−1の最終ラウンドでときどはパンクを端に追い詰めた。体力もリードしており、絶好のチャンスだった。その時ときどは、セオリー通りジャンプして飛び道具の「斬空波動拳」を撃った。しかし、ジャンプに対し即座に反応したパンクはその技をくぐり抜けて着地の隙に強烈な連続技を決め、一気にときどを撃破。この瞬間、パンクの超反応によってときどは敗者復活戦に落とされた。

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tokido ときど セオリー通りの斬空波動拳が仇となり、敗北

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