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なぜ「ときど優勝」で格ゲーマーは泣いたのか 東大卒プロゲーマーの情熱と“友情、努力、勝利”(2/3 ページ)

劇的なときどの優勝で幕を下ろしたEVO2017、その背景を振り返る。

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 誰もがパンクの反応速度に圧倒され、パンクの優勝を予想していた。無論、勝負の世界に「絶対」はなく、パンクが敗北する可能性もある。しかし、まるで高性能コンピュータのようなプレイをするパンクに、弱点は見当たらなかった。

 だがそれでも、パンクと再戦したときにときど有利に働くであろうポイントがこの時点で2つ考えられた。



 1つ目は、前日に対パンク戦で負けていること。皮肉にも、格闘ゲームでは同じプレイヤーと再戦するときに、負けた経験がプラスに働くことがある。負けた側は勝った側の行動を理解した上で対策を練ればよいが、勝った側は負けた側がどんな対策を練るかが予想しづらいからだ。勝った側は手薄な事前準備のまま再戦に臨み、予想外の手が飛び出せば試合中に修正するしかない。

 そして2つ目は、ときどがプロゲーマーとして活動する前から一緒にプレイしてきた戦友・マゴの存在だ。

 マゴとは、かつて同じ企業からスポンサードを受け、現在も同じマネジメント会社に所属し、週に一度はネットの生放送で共演している。マゴは、数々のタイトルを獲得してきた超トッププレイヤーで、ときどと共に時にはチームとして国内外の大会に出場し、時には一緒に戦術を研究していた。そんなマゴは、パンクと同じ「かりん」を使っており、必然的にときどは対かりん戦の経験が豊富で、かりん使いの思考も読み取りやすい環境にいた。

 この時のときどの心境は知る由もないが、ときどはきっと何度となく戦ったマゴとの経験を思い出し、考えたはずだ。かりん使いがどういう思考のもとでどういう行動をとるのか。マゴとパンクの違いも考慮し、豪鬼はどの技をどのタイミングで出すべきか。

 そして17日、当然のように無敗で決勝に勝ち進んだパンクと、何度も追い込まれながら辛くも決勝にたどり着いたときどの対戦が始まった。パンクは3セット先取した時点で勝利、一度負けているときどは3セットを2回先取しなければならない。ときどが圧倒的に不利な状況だった。

再戦

 格闘ゲームにはさまざまな駆け引きがあるが、最も基本的なものに「打撃、ガード、投げの3すくみ」がある。打撃はガードで完全に防がれるが、ガードは投げに対して無防備で、そして投げは打撃を刻めばつぶせる。

 この中で、パンクの使う「かりん」の本命はずばり打撃だ。かりんの打撃に捕まれば、豪鬼の少ない体力はあっという間に溶かされてしまう。

 1セット目。打撃によるまとまったダメージを奪おうとするパンクを、ときどはガードを固めながら冷静に対処。ラウンドこそ落とすが、相手が前に出たい場面で冷静に技を置き、ときどが勝利。力を見せつけるように、本来は無意味な6ボタン同時押しの技で決めた。


tokido ときど

第1セット ときど パンク
1R
2R
3R

 そのまま安定感のある立ち回りで3セット目、4セット目を連取し、まずはときどがパンクから3セットをもぎ取った。しかし前日に1敗しているときどは、もう一度3セット取ってはじめて優勝となる。本当の勝負はここからだ。

 そのころ、序盤は超反応を見せたパンクにも徐々に動揺が見え始め、想定外のタイミングでときどが放つ技に対し反応が鈍くなっていた。いくら鋭い反射神経を持っていても、完全に想定外の行動を取れば、対処は難しい。

第2セット ときど パンク
1R
2R
3R

第3セット ときど パンク
1R
2R
3R

第4セット ときど パンク
1R
2R
3R

 後が無くなったパンクの隙を突くようにときどはそのまま勝ち星を重ね、リセット後の1セット目もときどがもぎ取った。そして2セット目 、決定的な場面が訪れる。

第1セット ときど パンク
1R
2R
3R

 一進一退の攻防が続き、お互いがラウンドを取った最終ラウンド。もう1コンボで勝利が確定する状況でかりんを画面端に追い詰めたときどは、垂直に飛んだ。その動きはくしくも、前日に「斬空波動拳」を撃って負けた時と同じ流れだった。


tokido ときど

 斬空波動拳を予想したパンクは、ここぞとばかりに相手の足元に潜り込む。逆転する最大のチャンス――のはずだった。


tokido ときど

 ときどは斬空波動拳を撃っていなかった。本来であれば非合理的なセオリー外のプレイだった。ときどは足元にいるパンクめがけ、ジャンプの着地ざまにコンボを叩き込み、かりんを一気に気絶させた。無防備な相手へのフィニッシュブローに選んだ技は、豪鬼の代表的な必殺技「瞬獄殺」だった。


tokido ときど

tokido ときど

tokido ときど

第2セット ときど パンク
1R
2R
3R ○(瞬獄殺)

 そして3セット目、動揺を隠しきれないパンクは精彩を欠いていた。ラウンドこそ取るものの、相手の放った波動拳を踏むという初歩的なミスもあった。最後は相手の投げ抜けを読んだときどがコンボを決め、試合終了。圧倒的に優勢だと思われたパンクは、ときどが6セット取るまでに1セットしか取ることができなかった。

第3セット ときど パンク
1R
2R
3R

 勝負を決定づけたのは、反応を生かしたスーパープレイではなく、パンクの思考と反応速度を計算した「こいつならこの行動に反応するだろう」というときどの“読み”。百戦錬磨のときどらしい、前日の敗戦を生かした老練なプレイだった。

 決勝戦が終わった直後のインタビューで勝因を聞かれたときどは「古い付き合いの友達がいて、一緒に練習していた。彼はパンクと同じかりん使いだった」と言った。インタビュアーの「秘密のトレーニングパートナーか?」の質問には「秘密じゃない。自分にはマゴがいた」と大きな声で答えた。

 表彰される優勝者ときどの横で、パンクは眼鏡を外し目元を拭っていた。「こんなはずではなかった」という思いが、その表情ににじみ出ていた。


tokido ときど

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