「実際ライターって誰でもなれるじゃないですか」 ねとらぼ編集部員に聞く「お前の原体験はなんだ」 ~山下ラジ男編~:ねとらぼの中の人インタビュー
学生兼ライターから見るライター業界。
ねとらぼの中の人にさまざまな話を聞いていく“誰得かつ実験的な連載”「ねとらぼ編集部員に聞く『お前の原体験はなんだ』」、第3回はねとらぼのPR担当だった山下ラジ男(以下「山ラジ」)さんにインタビュー。山ラジさんはねとらぼの一員として働いていましたが、2019年9月一杯で学業を優先するために退職し、現在は大学生として建築関係のお勉強をしているそうです。
留年しながらも大学に在学しつづけ、2014年に「オモコロ」のライターとしてライター業をスタート。ねとらぼでも「実写版デビルマン研究家インタビュー」や「シリーズ未見の人だけで『エンドゲーム』を見る」などさまざまな記事を手掛けてきた山ラジさんは「ライター」という仕事をどう見ているのでしょうか。「ライターを始めた理由」や「留年した経緯」などについて、“学生兼ライター”の山ラジさんに話を聞いてみました。
※このインタビューを行ったのは2019年9月。
留年した理由は「朝起きれなかったから」
えっと、山ラジさんは9月一杯でねとらぼ編集部を去って学業に専念するとのことですが……今大学何年生でしたっけ?
一応4年生なんですけど……2012年に入学して……2年……3年……ちょっとまってくださいね……書いたほうが分かりやすいな……(ホワイトボードになにかを書きはじめる)。
えっと、2014年に3年生になるまではスムーズに進級したんですけど、3年生で一度留年して、2016年に4年生に上がってからは2回留年していて、1年休学して……今に至りますね。大学に通ってるのは休学も含めると8年になります。
8年……?
大学在学中にオリンピックが2回来てる計算になりますね。年に5日くらいしか学校行かない時期もあったんですけど……少しは国に貢献できてるんじゃないですかね……。
ちなみに大学では何の勉強してるんでしたっけ。
建設工学科で橋とか道路とかコンクリートとかの勉強をしています。でも、本当は建築科でビルとか家とかを建てる勉強がしたかったんですよ。建設工学科って建築科に名前が似てるから入ったんですけど、建設工学科って簡単に言うと「土木工学科」と言った方が近くて、入った瞬間から「だまされた……?」って思ってました。
多分だまされてないけど……なんでこんなに留年しちゃったんですか?
これがですね……思い出してたんですけど、最初の留年の理由が分からなくて……。3年を2回やってるという記憶がねえんだよな……まぁ、多分学校に行かなかったからかな。朝起きれなかったんで。
真面目な顔でクズ感ある発言しましたね。
「ダムを見に行く旅行」で起きた悲劇
で、一回留年しちゃったんでその次の年は頑張って4年に進級できたんですよ。でも、残り単位的に授業をマックスでとらなきゃダメなんで、就活しながらだと授業受けられないことに気づいたんですよ。就活をしてたら就活も授業もだめになるんで、じゃあ大学院にいけばいいだろうと思って……。
選択肢がないから大学院に行こうとしたと。
そうです。で、大学院の試験に受かって、その年の夏休みに所属する予定だった研究室から「ダムの見学」に行ったんです。僕の場合は留年してるから同級生はみんな1個下で研究室にはまだ同い年の人たちもいる状況になるんですけど、なんか気を使われてこっちはまだ大学生なのに研究室にいる同い年の人たちと同じ部屋をあてられて……。
なるほど、「学年が同じグループだと気まずいだろうから、同い年の人と同じ部屋にしてあげよう」みたいな気遣いがあったと……。
そう、配慮されて。でも「それでいいのか……?」って話ですよね。だって僕がこれから仲良くしなきゃいけないのは1つ下の同級生じゃないですか。
そうだね。気持ちは分かる。
その後、晩ごはんを部屋の皆で一緒に食べたんですけど、食堂に片側に8人ぐらいが座れる縦長のテーブルがあったんで、僕が最初に片側の端に座ったら、全員が僕と反対側の席に座ったんですよ。それを見て、「これは……もう……絶対に仲良くなれない……」って思って……。
想像してみると本気でつらいな……。
それで心が折れて学校行かなくなったんです。ちなみに家に帰ったらすごい熱が出ました。
(笑)
たろちんさんも杉本さんもそれなりにためになること言ってたのに、今んとこ全然言ってないね。
じゃあ……ためになることを言うとしたら、「大学は近いところに通え」ということと「一人暮らしもしないほうがいい」ということですね。
一人暮らしはダメなの? なんで?
そりゃあ起こしてくれる人がいないせいで朝起きれなくなるからですよ。当たり前じゃないですか。
ダメ人間のテンプレみたいな発言ですけど、私もダメ人間なのでちょっと分かります。
一人暮らしだからこそ家での撮影もしやすくてライターを始められたってのもありますけどね。やっぱ親がいると変なことはできないですし。一人暮らしをしちゃうと僕みたいなライターになっちゃうし、大学も留年するので。
ライターは誰でもなれる。でもやめる人も多い
ちなみにライターを始めたきっかけはなんだったんですか?
第3回オモコロ杯で佳作を取ったのがきっかけなんですけど、これも2年越しなんです。実はキショ松さんが大賞をとった第2回オモコロ杯にも応募してたんで、一度キショ松さんに負けてる形です。あと、ライターになった直接の理由ではないんですけど、もともと姉ちゃんの影響でテキストサイトを読んでいたんですよね。4つ上の姉と2人兄弟なんですけど、家には漫画とかないし家族で映画に行くこともなかったので、基本的には姉ちゃんがハマってるものがカルチャーの最前線。必然的に姉ちゃんがハマってるものに僕もハマる、っていう。
この連載、絶対テキストサイトの話が出てくるな……。でも本来テキストサイトの世代じゃないよね?
そうですね。その頃に「メガネバリヤー」とか、「numeri」を見ていたんです。で、2013年くらいに2ちゃんねるのVIPで「テキストサイトを復活させよう」みたいなスレが立ってたのを見つけて、そのノリでテキストサイトを作ったんです。そのままVIPでやりとりしてたんですけど、途中で言い出しっぺのヤツが居なくなったり、一番面白かった人が急にキレて居なくなったりちっちゃいイザコザはあったんですけど(笑)。で、そんな中で「オモコロ杯」が開催されたので応募してライターになったと。
※メガネバリヤー:オモコロライター・まきのゆうきさんがやっていたサイト。現在は見られない
もともと文章書くのは好きだったってこと?
好きだったんですかねえ……。でも、面白いことはしたかったんですよ。恥ずかしいんですけど「人を笑わせたい」「面白いと思われたい」っていう欲があって(笑)。
へぇーなんでまた?
中学の時の友達が面白い奴だったんですよね。「皆は『ガキ使』を見ているけど、俺は『ごっつ』までさかのぼって見てるぞ」みたいな典型的な松本人志コピータイプだったんですけど、見た目もカッコよくてスポーツもできる奴だったんで「少なくともこいつに『面白さ』だけは認められたい」みたいな思いがあって……。
あー……人気者へのあこがれみたいな?
うーん……人気者への憧れ……そう記事に書かれるのは嫌ですね。
(笑)
「ライター」という人種について
私もそうだし山ラジさんもそうだけど、やっぱりライターって特殊な人が多いよね。
まぁライターって基本的には「陰キャ」じゃないですか。でも実際はそこまで変な人もいないし、実は真面目な人が多いと思うんですけどね。記事見るとヤバイやつっぽいけど本気でヤバイやつは意外とこの世界にはいないなって。
確かに(笑)。ライターになるための資質とかもそんなにないもんね。もちろん成功しようと思ったらそれなりの能力が必要になるけど。
実際ライターって誰でもなれるじゃないですか。ただ、よく「ライター名乗ったらもうライターだよ」みたいな事言いますけどフェードアウトしていく人も多いですよね。
それで言うと、山ラジさんは学業優先のためにいったん普通の学生に戻るわけだからフェードアウトする側ですね(笑)。
今回は休学が連続1年しかできないのが大きな理由なんですけど(笑)。まぁ「卒業したい」という思いもあるから、1年休んだし「よしやるか」っていう。
今後卒業が決まって、就職先を探すときにライターという仕事は選択肢に入るの?
まぁ入りますね。今だってホントだったらもう就活してないといけない……っていうかもう決まってないといけないですから。そういう意味でも経験のあるライターは最有力ですね、朝起きれないから建設関係では働けないし。
そんな理由なん……。
ライターって「絆だから」
あらためて話を聞くと結構特殊な人生送ってるなあと思ったんですけど、山ラジさんの中で「最も自分の人生を変えたもの」ってなんだと思う?
うーん、やっぱPCですかね……。お父さんがPCを家に持ってきてインターネットにつないで、姉ちゃんがテキストサイトを見ていて、それを僕が見て今があるので。……そういう意味では姉ちゃんが人生変えたのかもしれないですね。もともと自分から面白いものを探しに行くようなタイプじゃなかったので、姉ちゃんが“面白いもの”の供給源になってなかったら今はこうなってないし。
今までライターとしてやってきたけど、これからは一旦学業を優先するわけですよね。今後もライターとして活動する可能性はある?
これ、言おうと思ってたんですけど、ライターって「絆だから」なんですよ。エヴァと一緒です(ドヤ顔)。
絆だから……?
僕、中学でも高校でも築いた人間関係は大体切れちゃったんですよ。大学でも友達作ってこなかったんで、結局今の人間関係ってライターの人間関係しかないんです。……で、なんというか……やっぱライターの人たちとはずっと仲良くしたいじゃないですか。
まぁクセはあるけどみんな良い人だもんね。ライターは。
ライターってなるのは簡単ですけど、“ライターを辞めるライン”も明確じゃないというか……ライターとライター以外の分け方ってグラデーションがあって、ライターと呼べなくなる人は徐々にライターとして薄まっていくじゃないですか。だから、その絆が途切れないように、ライターとしての濃さを維持したいなとは思ってます。
じゃあ、いったん学業を優先するけども、いずれはまたこっちの世界に本腰を入れるときがくるかもしれないですね。
なんなら大学行きながら記事書くんじゃないですかね。だから1年間待っててください。
本当に1年で卒業できるのかな……。
(笑)
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