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アイドルはファンのことを気にしているものですか? 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」9話 オタクじゃなく、一人の人間として(1/2 ページ)

なんで「武道館」に行きたいのか問題。

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(C)平尾アウリ/徳間書店

 大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作アニメは地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。

 9話は年末年始でライブはお休み。だからこそ、初詣でお祈りをしましょう。ところで何をお祈りする? というお話。こういうオフの時間でこそ、アイドルたちの、ファンたちの、本音が出てくるものです。

(C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

武道館って行かなきゃいけないものですか?

空気が読めないし読まない女、寺本優佳(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 優佳「みんな、大晦日も暇なのーっ!?」

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 ChamJamメンバーの寺本優佳は、人の空気が読めない子、というより読まない子。何でもかんでも思ったままズバズバ言います。これにはメンバーも「やめなさいって」と注意をするくらいですが、ファンは彼女の「キャラ」としてすっかり受け入れており、むしろご褒美状態。ステージから独身アオリしてくるアイドル、人気出そう。

 今回は優佳のアイドルとしての本心が見える回です。原作をベースにオリジナル要素をプラスして、優佳のキャラを掘り下げています。

 毎回のステージでとてものびのび楽しそうにライブをする彼女。ファンからの人気も上々。ただ、マイペースすぎるがゆえに、他のChamJamメンバーとかみ合わなかったりします。

多分本心。(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 れおが「来年につなげよう、みんなで武道館に行くために」と熱い声掛けをしたとき、みんなは真剣な顔をしているのに優佳だけ全く別の反応。「んー? 優佳は別に武道館とか行かなくてもいいかなー?」

 メンバーは長年接してきているから、彼女のこの言葉がアオリでもなんでもなく本心なのは分かっているはず。だからこそ理解できない。

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 アイドルって何を目指すんだろう。答えは分からないけど、ChamJamのメンバーはそれぞれ目的を持っています。五十嵐れおは一歩でも前に進み、成長して大舞台に立ちたいと願っています。水守ゆめ莉は憧れの伯方眞妃とともに活動できる時間をとても大切にしています。市井舞菜は引っ込み思案な性格と戦いながら、応援してくれるファンのえりぴよに見てもらいたい気持ちも相まって、活動を頑張れています。

 みんなそれぞれ何らかのアイドルを続ける理由がある。しかし優佳はそれが見えないことが非常に多い。メンバーからすらも、刹那的に楽しんでいるだけに見えてしまう。

 今の活動が楽しいのだとしたら、武道館に行くことを無理に目指す必要はなんてありません。むしろ武道館に行く、それだけ有名になる、と心に決めるのならば、今の「楽しい」は捨てなければならない。

優佳にはいいファンが多いよ(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 ファンのために一言ずつ録音して渡すイベントの際、優佳はファンの本心を聞くことになりました。優佳の大ファンでいつもライブに通っているふみくん。彼が優佳に吹き込んでもらったセリフは「武道館で待ってるぜ!」でした。

 優佳「なしてさ?」

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 ふみくん「優佳ちゃん、あんまり興味なさそうだけど…俺、ううん、俺たち、武道館で歌って踊る優佳ちゃん見たいから!」

 ふみくん、本当にいい人。極度にマイペースで何考えているか分からない本能的な彼女のことが大好きになったのは、見返りがほしいからじゃない、キラキラしている彼女を見たいから、なんでしょう。別のシーンでは他のファンも、優佳に同じことを言っているのが泣けます。「俺を見てほしい」じゃない。「俺達が見ていたい」。

ちゃんと、目標はあります(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 優佳「優佳はアイドルやれるならどこでもいいんだもん」「どこでもってのはね、優佳のことが好きって言ってくれる人がいる場所ってこと!」

 これが優佳のアイドル哲学です。ちゃんと理由はありました。好きだと言ってくれる人と一緒にいたい。そのために頑張る。もし好きだと言ってくれる人たちが武道館に行ってほしいと願うのなら、いっちょやってやろうじゃないか。

 アイドルとファンの間で、エネルギーは循環します。ファンはアイドルを応援してエネルギーを送ります。アイドルは全力のパフォーマンスとサービスでファンにエネルギーを届けます。優佳の場合は「好きになってもらうのちょー楽しい」がエネルギー源。それがファンにも伝わっているからこそ、みんな「武道館に行ってほしい」と彼女のさらなる輝きを求めたんでしょう。

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 以前ふみくんが握手に並んでいたとき、いつもいるからと気付かなかったことがありました。でも彼女、自分のことを好きな人のこと、ちゃんと覚えて、大切にしてくれていました。ファンにとってこんなにうれしいことはない。

アイドルはファンのことを見ている、と思いたい

 ChamJamメンバーの音声吹き込みイベントは、多くのファンの心を揺るがしました。肉声で名前を呼ばれるって、それだけで恋に落ちてしまうものです。オタクはちょろいから? いやいや、楽しむため全力でちょろくなってるんですよ。

さすが空音(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 松山空音の大ファン、。彼が何を言ってもらうか悩んでいるとき、空音は勝手に録音しました。「『基君! 浮気すんなよ!』」

 この時点で空音のファンへの距離の詰め方がものすごい近いのが分かるのですが、まだ終わらない。「浮気なんかしないよーっ!」という基に対して空音は「知ってる」と一言。小悪魔だ、プロだ。ガチ恋もするわ。

???(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 一方何を吹き込んでもらうか迷走しつづけたえりぴよ。彼女が激推しの市井舞菜に頼んだのは「『えりさん、積んで!』」でした。

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 まあいつものえりぴよさんだし、むしろ本名の「えり」さんと呼んでもらおうとしただけ大進歩なんですが、「積んで」だったらいつも通り。彼女が「オタクじゃなく、一人の人間として!? 一人の女として!?」ともったいぶっていたからこその拍子抜け。

 でもアイドルに対しての「オタク」が、一人の人間として顔を突き合わせて向き合うってこと、あるんだろうか。どういう距離感で、何を持ってして「一人の人間」として見るかは、少なくともChamJamのメンバーはそれぞれ違っています。優佳の場合それは、自分を好きになってくれる人がいる幸せ、というベクトルでした。空音の場合は、自分を好きになってくれる人のことが好き、と以前語っています。

くまさとれおの特別な関係(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 れおはアイドルとファンの間に明確な線引きをしつつ、トップオタであるくまさとは、応援する・応援される絆を信じてさらなる高みに向かう、という特別な関係になっています。仲よく語り合う友人ではもちろんない、ファンとアイドルとしか形容できない関係ですが、その絆は非常に強固。れおが今回カウントダウン番組出演している時、れおとファンたちは、双方ガラス越しに笑顔でした。これがれおなりの、アイドルとしてファンそれぞれを「一人の人間として見ている」状態でしょう。

ファンの無垢(むく)なる祈り

玲奈ちゃんの考え方は正しい、と思う(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 えりぴよはくまさほど割り切れていませんでした。舞菜のことが好き過ぎるがゆえに、握手会での失態を恥じて、苦しみ続けていました。アイドルがそれだけファンの自分のことを考えているんじゃないか、というある種思い上がり。まあ実際はそうじゃないんだけど…。

 彼女の妄言に水をぶっかけたのは、基の妹の玲奈。彼女も舞菜推しです。最近すっかりライブ通いCD買い握手常連で、アイドル沼にハマりましたね。

 玲奈「大丈夫じゃないですか? 多分舞菜ちゃん気にしてませんよ」「いや…ていうか、私たちってただのファンだし、アイドル側はいちいちファンのそんなこと気にしていないんじゃないかって」

 満点の正論。実際のところファンの数が増えていけばその分、全員なんて把握できなくなります。握手会で変なことをした場合、ファン側は猛烈に後悔し続けるかもしれないですが、アイドル側は記憶に残っていない可能性すらあります。

 「一人の人間」として扱っていないわけじゃありません。過度にファン側が求めすぎない、というルールのような線引きと諦めです。実際のところ、玲奈が毎回握手会に来ているのを舞菜はちゃんと覚えています。でも玲奈側はそこで「あれもこれも自分のことを知ってほしい」と詰め寄らず、一観客でいることをわきまえています。バランスのいい関係で、今の所双方幸せ。

 「私たちってただのファン」は呪文のようなもの。空音のようなとびっきりのファンサービスをされたら、ついクラクラっと勘違いしてしまうかもしれない。でもブレーキをかけよう。ぼくらはただのファンだ。ファンだから、アイドルは優しく接してくれる。幸せだけど、つらいね。

タイトル回収(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 ただの「ファン」、とは言うけれど、好きで幸せになれるから「ファン」なわけで。えりぴよが苦悩の末たどり着いたのは、「たった一人を推し続けることがこんなにも幸せなんだ」という幸福論でした。

 えりぴよ「推しが武道館いってくれたら死んでもいい!」「むしろ、推しが武道館いってくれたら死ぬ!」

 タイトル回収、初日の出に愛を叫ぶ。

あけましておめでとうございます(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 「死ぬ」って大げさですが、ようは「ささげる」という話なんでしょう。リターンはいらない。自分のことを考えてくれることすら求めない。推しが輝いてくれるなら全てを投げ出せる。あらゆるものを削ぎ落としたこんなにも純粋な愛。えりぴよの裏表一切ない思いをよく表した言葉です。これを美しいと見るか、不気味と見るかは、その人次第。滑稽に見えるけど感動的にも見える、絶妙なシーンです。

眞妃とゆめ莉、2人の時間

 今回はえりぴよ、舞菜、優佳が話の中心でしたが、ちらちら登場しては異彩を放っていたのが、伯方眞妃水守ゆめ莉の2人でした。れおが出演したカウントダウン番組を見ているシーンでは、当たり前のように自宅に2人でいます。

どっちの家!?(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 まあこのシーンだけなら、親友同士一緒にアイドル仲間の勇姿を見ようねということなのは、分からんでもないです。ただその後の初詣のシーンでは、二人べったりです。

ファンが発見しちゃったらいろいろな意味で気絶しそう(9話より) (C) 平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

 優佳が二人を発見して(余計なことに)大声で呼びかけるシーン。てか大声出すな、バレるぞ。

 至近距離で見つめ合っているだけでもうニヤニヤしてしまうのですが、あまつさえこの二人、手をひそかに恋人つなぎ(指からめるやつ)していて、優佳にバレたときしどろもどろになるもんだから、ガチ感倍増。いやあ新年あけましておめでとうございます!

 眞妃とゆめ莉、舞菜と優佳の仲良し感は、えりぴよやくまさらファンとの関係とのコントラストになっています。えりぴよは舞菜に対して、永遠に優佳の立ち位置にはなれない。舞菜はもっとえりぴよに近づきたい思いはあるけれども、アイドルとファンの関係を崩したときに舞菜とえりぴよの関係は壊れてしまいます。

 どうあがいても、友情や恋愛と違って、永遠には続かない。どこかで終わりがくる。推しへの思いは、はなかいからこそ華やかなお祭りごと、なのかもしれない。…「アイドル」という概念を推し続けることは永遠にできるかもしれないけれども、「一人の人間」として見ることから離れていきかねないジレンマがあります。

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