遠くに見える山の「雪形」。残雪の形を何に見立てる?
4月の下旬頃から、北国の標高の高い山々でも雪解けが始まります。昔は、遠くの山に残った雪の形や、雪が解けて見える岩肌の形を見て、「この形が見えてきたから種をまこう」「この形になったから田植えをしよう」など、山の残雪の形や、見えている岩肌の形が農作業の目安となっていました。山に見えるこれらの形は「雪形(ゆきがた)」とよばれ、各地で人や動物に例えられています。あなたが住む街からは、遠くの山にどんな雪形が見えますか?
北アルプス・白馬の「武田菱」。武田氏の家紋 “四割菱” が山頂に!
北アルプスでは、4月上旬ころから雪形が見えはじめます。中でも、1カ月以上もの長い間見ることができるのが、五龍岳の頂上付近にある五龍菱です。五龍菱は四つの菱形を組み合わせた形をしていますが、これがまるで戦国武将・武田氏の家紋、四割菱(よつわりびし)に見えることから、「武田菱」とよばれることのほうが多いようです。山頂付近の四つの菱形は誰でも見つけやすいので、雪形ウォッチングの“初心者”にも人気です。条件が合えば、ゴールデンウイークを過ぎても確認することができます。
雪形の見え方は二種類に分けられ、白く残った雪の形で見るのが「ポジ型」、雪が解けたことによって現れる黒っぽい岩肌の形で見るのが「ネガ型」といわることがあります。五龍岳の武田菱は岩肌の形で見るので「ネガ型」となります。
参考 白馬ハイランドホテル「春の雪形ウォッチング」/安曇野市役所「雪形とは」
福島市から眺める吾妻小富士の「種まきうさぎ」。桜のころに現れる
白い雪形、いわゆる「ポジ型」で分かりやすいのが、吾妻小富士に現れる「種まきうさぎ」です。残雪の形を見ると、うさぎが両耳を立てて、こちらを向いているように見えます。ちょうど桜や桃、菜の花が咲く時期に現れ、福島市内からよく見えます。
昔は、山に種まきうさぎが現れるころを見計らって田畑の農作業を始めました。雪形が農事の暦として重要視されていたため、その呼び名も、単なる「うさぎ」ではなく、頭に「種まき」がついて、「種まきうさぎ」と呼ばれるようになったのでしょう。
日本各地には雪形を農作業の暦がわりにしたり、豊作か凶作かの目安にしたりしていた地方がたくさんありましたが、農業は機械化が進み、技術が進歩し、天気予報が発達したため、雪形に頼らなくなってきました。しかし、福島の種まきうさぎをはじめ、雪形が観光資源となっている地方もあり、現在は雪形ウォッチングが開催されたり、雪形のお菓子などが作られたりしているところもあるようです。
参考 浄土平・吾妻山[磐梯朝日国立公園]「種まきうさぎ」見ごろ♪/石川県白山自然保護センター 白山の自然誌29「白山の雪形」
見えるままに見立てる新しい雪形。ちょっぴり笑いのエッセンスも
農作業に携わる人たちによって暦がわりとして古くから利用されていた雪形ですが、最近は農事と関係なく、雪形に自分流に名付ける、いわゆる「ニューフェース雪形」も人気があるようです。雪形の写真を募集してコンテストを行っていた団体もあります。投稿された雪形写真のタイトルを見ると、クスッと笑ってしまうようなものも多数ありました。
北国にお住まいの方なら、山にはまだまだ雪が残っています。雪形の写真を撮って、自分なりのタイトルをつけてみるのも面白いかもしれませんね。
雪形を農作業の暦にするという風習はだんだん継承されなくなってきましたが、遠くに冠雪している山が見える地方に住んでいると、山の雪が解けてきたからそろそろ家庭菜園の苗を植えようなど、実際に雪解けを目安にしている方もいらっしゃると思います。
5月上旬になると北海道は桜のシーズン。標高の高い山の雪解けが始まる季節です。
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