思春期な“こじらせ”に寄り添うアニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」の「5つ」の魅力(1/2 ページ)
脚本家・岡田麿里の作家性が存分に発揮された、思春期の少年少女の悩みに真摯に向き合うアニメ映画。
アニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」の独占配信が、6月18日にNetflixでスタートした。
本作は“猫に変身する”というファンタジーを描いていながら、現実にある普遍的な悩みに真摯に向き合った、誰にでもおすすめできる作品として申し分のない内容だった。
特に、思春期の少年少女にこそ見てもらいたいと思う。脚本家の岡田麿里の作家性が存分に発揮されていることも、アニメファンには見逃せないポイントだろう。それらの理由と共に、作品の本質に迫る魅力について記していこう。
1:主人公は思春期の“こじらせ”まっただ中、“カラ元気”でいる女の子
「泣きたい私は猫をかぶる」の特徴でまず挙げておきたいのは、主人公の中学二年生の女の子のキャラクターだ。彼女が思春期特有の“こじらせ”のまっただ中にいることは、物語で大きな意味を持つようになっている。
何しろ、彼女は思いを寄せる男の子に毎日のように過剰なアタックを繰り返したり、怒った勢いで2階から飛び降りようとしたりと、客観的に見ればおかしな言動ばかりをしている。その様子は変人を通り越して“無限大謎人間”と呼ばれるほどで、そのせいで“ムゲ”というあだ名がつけられてしまっていた。
ともすれば、感情移入しにくいエキセントリックな主人公に思うかもしれないが、そんなことはない。彼女の恋心そのものは純粋であるし、10歳の頃に両親が離婚し、現在は父とその婚約者と同居しているという複雑な家庭事情もある。やや常軌を逸しているように見える言動は、彼女なりの悩みを覆い隠すための“カラ元気”に見えてくるようにもなっているのだ。
事実、監督の1人である柴山智隆は、彼女の感情を演出にするにあたって「一見変わった子ですが、彼女自身はまわりの誰からも愛されていないと思っていて、実はまわりに気を遣って生活しています」とも語っている。
もちろん、「まわりの誰からも愛されていない」なんてことは、彼女の勝手な思い込みにすぎない。しかし、思春期特有の“こじらせ”としてはごく普通のことであり、それをもって似た悩みを抱えた人に優しく寄り添っている物語なのだ。
2:現実の悩みを解消してくれる物語、そして「猫の恩返し」との共通点も
そんな風に思春期らしくこじらせている主人公のムゲは、あることをきっかけに猫に変身できるようになる。おかげで、正体を知られないまま思い人の男の子に近づけるばかりか、前述した悩みから少しだけ解き放たれるようになるのだ。
しかし、悩みに向き合わないでいるということは、“現実逃避”の状態でもある。これも、思春期の少年少女(ではない全ての人も)がごく普通に経験することであるだろう。
そして、彼女はいつしか猫になってしまうことをよしとはせず、自分の悩みに向き合い、真剣に問題に立ち向かおうとする。猫に変身するという現実ではあり得ないファンタジーを描いた作品ながら、しっかり現実に根ざした希望が得られる物語になっているというわけだ。
また、ことわざの「猫をかぶる」の意味は、「本性を隠して、うわべだけはおとなしそうにしている」ということだ。それをタイトルに冠する本作は、逆説的に「本当の自分を知ってもらう」ことの意義や大切さをうたっているともいえる。それは、この世のあらゆる悩みを解消するための答えの1つ。それをいま一度教えてくれることにも、大きな感動があるのだ。
余談だが、悩みから現実逃避した先で、自由気ままな猫に変身してしまう(してしまいそうになる)という要素は、2002年のスタジオジブリ作品「猫の恩返し」にも似ている。「泣きたい私は猫をかぶる」とはコミカルな描写が多くクスクスと笑えること、猫がとにかくかわいい(超重要)ことも共通しているので、そちらが好きな方も気にいるのではないだろうか。
3:脚本家・岡田麿里の作家性から生まれる優しさとは
本作の脚本を、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」など、多数の人気アニメ作品で知られる岡田麿里が手掛けていることも強調しておきたい。過去作でもみられたその“らしさ”が、今回もバッチリ入っているのである。
その岡田麿里脚本の特徴をピンポイントで1つ挙げるとすれば、「大切な人を言葉で傷つけてしまう」場面描写の巧みさがある。
例えば、アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」では、幼少時に父の浮気を(浮気と知らずに)無邪気に母に話してしまった罪悪感のせいで、ずっと苦しんでいた少女の心情が丹念につづられていた。「空の青さを知る人よ」でも、自分を育ててくれた大好きな姉に、心ないことを言ってしまった少女の苦しみが痛切に表現されていた。
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