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エジソンの知られざる“仁義なきネガキャン戦争” 映画「エジソンズ・ゲーム」が面白い「3つ」の理由(1/2 ページ)

歴史上最大レベルのネガティブキャペーンが描かれた、壮絶ビジネスバトル映画「エジソンズ・ゲーム」。その魅力を解説する。

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 映画「エジソンズ・ゲーム」が、6月19日から劇場で上映されている。

(C)2019 Lantern Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 本作はタイトル通り、誰もが知る発明王であるトーマス・エジソンを描いた伝記映画……ではあるのだが、決してその功績をたたえるだけの内容ではない。歴史の裏にあった、最大規模の“ネガティブキャンペーン(ネガキャン)”も描く、壮絶なビジネスバトル映画だったのである。本作のエジソンの性格のねじ曲がりぶりを筆頭に、映画の魅力を解説していこう。

1:悪人のようで悪人じゃない、複雑なエジソンのキャラクター

 本作の舞台となるのは19世紀のアメリカ。エジソンは自ら発明した電球に電気を流すことに成功し、続いて一般家庭用に向けての電気の普及を目指していた。

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 そのライバルとなったのが、ジョージ・ウェスティングハウス。あまり聞かない名前かもしれないが、鉄道車両用の空気ブレーキを事業化し、財を成したカリスマ実業家だ。

 ウェスティングハウスは大量の発電機を必要とするエジソンの“直流”の送電方式よりも、1つの発電機で遠くまで電気を送れる“交流”方式の方が優れていると主張。両者は真っ向から衝突し、直流か交流かを巡っての覇権争い、文字通りの“電流戦争”が始まったのである。

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 ……と、このように書くと正々堂々とした戦いに思えるかもしれないが、実際は手段を選ばない、ルール無用の泥沼へと化していく。

 そのバトルの泥沼化は、エジソンの性格の悪さというか、狂気にも起因している。彼は大統領の依頼でさえ「気に入らないなら断る」ほどに傲慢で、ウェスティングハウスから招待された晩餐会もすっぽかしていたりしている。それでいて、そのウェスティングハウスが自分の電球を使って交流方式の実演会を成功させたと知ると「発明を盗まれた!」と激怒し、新聞記者を集めて彼の悪評を広めようと企むのである。

 むしろ、経営者としての手腕があり、落ち着いた対応を見せるウェスティングハウスのほうがまっとうな人物に見える。「エジソンよりこっちのほうが応援できるんですけど……」「あれ?どっちが主人公だっけ?」と思う人も多いだろう。

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 とはいえ、このエジソンが徹頭徹尾、悪人として描かれるわけでもない。彼は「人殺しをする発明はしない」という矜持(きょうじ)も口にしているし、愛する妻や、若くて親しみやすい秘書に対しては、人間らしい思いやりも持っているようにも見える。

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 事実、エジソン役のベネディクト・カンバーバッジは、彼を悪人ではなく“落ちた英雄”というイメージで演じていたのだという。ビジネスや裁判の争いに執着していたとしても、同時にヒロイックな正義心や、ふつうの人間らしい欠点も伺わせるという……本作のエジソンは、それほど複雑なキャラクターになっているのだ。

映画『エジソンズ・ゲーム』ベネディクト・カンバーバッチ特別インタビュー動画

 また、そのエジソンと、彼のことを心配する秘書との関係性がかなり尊いということも告げておこう。このかわいい秘書を演じているのは、『スパイダーマン:ホームカミング』などでおなじみのトム・ホランド。マーベル・シネマティック・ユニバースにおけるドクター・ストレンジとスパイダーマンが師弟的な関係になっているように見えるのも、ヒーロー映画好きにはうれしいポイントだ。

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2:“死”までも利用するネガキャン、でもむやみに非難できない?

 エジソンがやったネガティブキャンペーンは、客観的に見れば本当にひどい。何しろ、エジソンは死刑執行のための電気椅子に、ライバルのウェスティングハウスの交流方式の電気を採用することを企んで、「交流は死の危険と結び付く」という印象を植え付けようとしたのだ。

 当時は、絞首刑の残酷性が取り沙汰され、より人道的な死刑の方法が求められていたという事情はあった。そうだとしても、ライバルを蹴落とすため、“死”までを利用するエジソンの手段に、嫌悪感を禁じ得ない人は多いだろう。

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 しかし、実際の映画ではネガキャンをされたウェスティングハウスだけでなく、ネガキャンを企てた張本人のはずのエジソンもかわいそうなことになっていくので、むやみに彼だけを非難できない気持ちにもなってくる。中でも、劇中のとある場面では「気持ちはわからなくもないけど、それはダメじゃん……!」「なんでこんなことになっちゃうんだよ!」という、誰も幸せにならなそうな事態が訪れる。

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 そもそも、エジソンは前述した通り「人殺しをする発明はしない」という矜持を持っていたはずなのに、電気椅子による死刑執行に手を貸しているのだ。ネガキャンを行うために、初めからはっきりと矛盾した行動に出ている、その矛盾をエジソンが「わかっている」ということも、また悲しいものがある。

 つまるところ、本作はネガキャンを通じて、「成功のために人はどこまで卑劣になれるのか」「そもそも成功ってなんだっけ?」という問いかけがなされていると言っていいだろう。

 ビジネスでの成功は、確かに人生最大の使命になり得る。しかし、それを優先しすぎるがあまり、他の大切なことを忘れていないだろうか……? そういったことにも、いま一度気付けるのだ。

3:日本で上映されるのは、監督やスタッフが本当に望んでいたバージョンだった

 日本で公開される「エジソンズ・ゲーム」は、実は“ディレクターズ・カット(インターナショナル版)”だ。かなりの紆余曲折があって、このバージョンの上映が実現したことも特筆すべきだろう。

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 何しろ、本作のプロデューサーを務めていたのはハーヴェイ・ワインスタイン。ご存じ、性的暴行とセクハラで告発され、“#MeToo”運動を引き起こすことになった人物だ。2017年のトロント映画祭で披露された時の「エジソンズ・ゲーム」は、そのワインスタインからの強い圧力によってまとめられた、監督やスタッフにとって不本意なバージョンだったのだという。

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