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初代「Portal」以来の衝撃―― なぜ「Outer Wilds」はここまで絶賛されるのか、ネタバレの段階ごとに解説

じわじわと日本でも人気が確立しつつある「Outer Wilds(アウターワイルズ)」について。PCゲームや海外ゲームをこよなく愛するライター、文章書く彦による不定期コラム。

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 去る6月19日にSteam版が配信開始されたOuter Wilds(アウターワイルズ)。PC版は2019年5月の発売以降、1年間Epic Games Storeの時限独占配信であり(※)、なおかつ同時期に似たタイトルの話題作(The Outer Worlds)が発売されたこともあって若干地味な印象があった本作だが、英国アカデミー賞ゲーム部門で「ベストゲーム賞」を受賞し、それを受けて事後的にプレイした一部のゲームファンたちに「刺さった」ことで、今になって日本国内でも口コミ的に人気が確立してきた。

※編注:現在はSteamEpic Games Storeの他、PS4Xbox Oneでも配信中

 筆者も発売当初は本作のことを完全に見過ごしており、事後的にプレイして「刺された」プレイヤーのうちの一人だ。そして今は、本作のことを「見過ごされるにはあまりに惜しい大傑作なので、とにかくいろんな人々に布教したい」と考えている。今回の記事ではその「布教したい」という感情のままに「Outer Wilds」をまだ知らない方や、興味はあるが遊んでいないゲーマーに向けて、本作の魅力をネタバレのレベルごとに説明していこうと思う。

ライター:文章書く彦

主にPCゲームや海外ゲームが好きな陽気で楽しいゲームライター。どこかで美少女ゲームの連載を行ったり「ゲーム占い師」として活躍中。ライター業の傍らインターネットの片隅で「ワニウエイブ」としてラッパー/作曲家としての活動も行っている。ここ一年ぐらいはVTuberに激ハマりし1日に10時間ぐらい「にじさんじ」の配信やアーカイブを見るなどしているよ。 Twitter:@waniwave

「Outer Wilds」とはどんなゲームなのか

 本作がどのようなゲームなのか完全にネタバレなく説明するのは難しい。Steamストアページの説明によれば「オープンワールドミステリー」とのことだが、これだとかなり言葉足らずに感じられる。筆者は本作を「オープンワールドパズルアドベンチャー」と表現するが、他のプレイヤーには「パズル要素むしろアクション要素のほうが難しい」と考える人もいる。どうやらプレイヤーによって、本作がどういうゲームに感じられるのかは大きく違うらしい。

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 これにはいろいろ原因が考えられるが、おそらくは本作特有の「説明のなさ」とそれに伴う「自由度」が大きく関係している。(まったくの余談だが古典的なゲームプレイヤーはそういった「説明のなさ」を好む傾向にあるように思う。かつてのゲームもまたそうだったからだ)

 ゲームが始まるとプレイヤーはたき火の脇で目を覚ます。この時点では、何が起こるのか、どうすればいいのかは一切語られない。横にいるNPC(この時点ではどうやら知り合いらしいということしか分からない)との会話から自分が宇宙飛行士で、探査挺を宇宙空間に発射するためのコードを受け取る必要があるらしいことが分かる。長時間のムービーやモノローグでストーリーを展開していくゲームが「説明的」と表現されることがあるが、本作はその真逆だ。向こうからは全く何も説明されず、常に自発的に考え行動することが求められる。

 そのため、本作の難易度はかなり高めである。出てくる文字をよく読み、周りをよく観察した上で自発的に考えることをしなければクリアすることはできない。

 とはいえヒントがないわけではない。目を凝らし、探しさえすればヒントはむしろ豊富すぎるほどに与えられているというのも本作の特徴の一つだ。

 物語は主人公の同族である4つ目のヒューマノイド「ハーシアン(Hearthian)」たちが住む惑星「木の炉辺(英語名はTimber Hearthなので住民はHeathianとなるわけだ)」から開始するが、ここで既にゲームの攻略に必要となるうち相当な割合の情報が提示されている。人たちの話をよく聞き、ガジェットの使い方を覚え、博物館の展示品を見ておくことでゲーム攻略の難易度が大幅に変わってくるのでまずはここを丁寧に散策してみることをおすすめする。最初は彼らが何を物語っているのかよく分からない、という方もおられるだろうが(筆者もそうだった)、その場合はゲームが進行したら戻ってきて、改めて散策してみるのもいいだろう。

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 起動コードを入手し、探査挺に乗り込んだら、いよいよ打ち上げだ。そこからは太陽系内を自由に巡ることができる。本作には決まった攻略ルートのようなものは(ほぼ)存在せず、ゲーム進行で蓄積していくのはプレイヤーの知識とそれをまとめたゲーム内のデータベースなど一部の要素だけだ。ひとまず近くの惑星に着陸しようと試みてもいいし、遠くまで行くことで太陽系の全容を把握してみてもいい。

 「Outer Wilds」は、知的好奇心のままに宇宙を冒険し、知識を積み上げていくゲームだ。新たな知識を得ることは、当然新たな場所へのアクセス方法を知ることだったりもする。そうやって行動範囲を広げていく、ということがひとまずゲームの「目的」であると考えてもらってもいい。そして、これで本作に興味を持ったプレイヤーはこれ以上何も(当然ストアページの説明文も)読まずにゲームをプレイ開始してみてほしい。

 ちょっとこれじゃ抽象的で分からないよ! という方は次の項へどうぞ……。

「Outer Wilds」とはどんなゲームなのか(もうちょっと詳しい版)

 この項目を読んでいるということはここまでの説明では不十分だと感じたということだろう。そしてそう感じることも無理がないと思う。前項ではこのゲームの最も重要な「謎」、そして「ギミック」について一切説明しなかったからだ。

 今ではストアページや各レビューサイト、Twitterなどで多く言及されている本作の謎/ギミックだが、実のところ筆者はそれらについて全く知らない状態でプレイを開始し、かなり大きい衝撃を受けた。ここからの説明を読むと、そういう衝撃はかなりの部分削がれてしまうだろう。

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 「Outer Wilds」最大のギミックは、ループものであるという点だ。ハーシアンたちの住む太陽系はあと22分で消滅するという危機にあり、プレイヤーはなぜか記憶を保持した状態でその22分間を延々とループするハメになってしまう。なぜ太陽系が消滅してしまうのか、なぜ自分はループしているのかという謎を解き明かすのが本作最大の目的となっている。

 本作の謎を解き明かすにあたって、重要になってるくるのは「ノマイ(Nomai)」という3つ目の種族だ。太陽系の至る所に存在する彼らの遺跡を見つけ、その内部を散策し、翻訳機を使って記録を読むことで、徐々に何が起こっているのかということが分かってくる。

 と、こう書くとかなり途方もない話に思えるだろうが、作中の太陽系はそれほど大きくなく、着陸できる星も限られており、またノマイの遺跡は非常に目立つので、「何かあるぞ!」と思ったらひとまず調べていけば案外なんとかなる。

 惑星図は探査挺の中に掲示されており、コックピットに座ってマップを開くことで星系図をリアルタイムに確認することもできる。主人公たちが住む「木の炉辺」には「アトルロック」という月があるのでひとまずそこを中継するのもいいだろう。他にも「砂時計の双子星」「脆い空洞」「巨人の大海」などと名付けられた惑星があるので、一つ一つ、気になったものから探索していけばよい。

 惑星にはそれぞれ驚くべきような性質があるが、「その性質を深く知ることでより深部までの探索が可能になる」という部分は共通している。どの惑星も地表に目立つ建造物や地形があったりするので、投げっぱなしなように見えて実はかなり親切に導線が設計されたゲームでもある。

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 宇宙探索の力になってくれるのはなにも地図だけではない。シグナルスコープを使うことで先輩宇宙飛行士たちの発する「旅人の楽器」の信号をたどることもできる。いろいろな惑星に散らばったハーシアンの宇宙飛行士たちと会って話を聞いていくことで世界に対しての理解も深まるので、どこかに到着したらまずシグナルを探すクセをつけてもいいぐらいだ。

 また、翻訳機を使ってノマイが書き記した文章を読み解くのも非常に重要だ。最初のうちはノマイたちが何を言っているのかまったく分からないと思うが、翻訳された文章に目を通すのはこのゲームを攻略する上で最も重要なことのうちの一つなので、無理をしてでも読もう。そして何か進行に詰まったと思うときは、ほとんどの場合ノマイの文書に答えに近いものが記されているので、その時点で行ける場所に読み逃した文書がないか探してみよう。

 デフォルトの設定では記録を読んでいる最中は時間が経過しないようになっており、設定を変更することで会話中の時間経過も止めることができる(※)。

※編注:オプションでは「記録を読んでいる最中」「会話中」「航行記録確認中」の時間経過についてそれぞれオン・オフが設定できる(こだわらないなら全部オフがおすすめ)

 探査挺の中でアクセスできる「航行記録」の中の情報はループしても保持されるため、情報を整理するのに非常に役に立つ。また、ここを参照すれば一度訪れた遺跡にまだ探索ポイントが残っているかどうかも教えてもらえるので、ゲーム終盤まではしらみつぶしに情報を集めていけばよい。もちろんノマイたちの文書記録の内容なども(かなり要約されてはいるが)残る。

 ……と、これだけ知っておけば誰でも十分に「Outer Wilds」を楽しむことができるだろうと思うので、未プレイの人はもたもたせずにプレイを開始してほしい。

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なぜ我々が「Outer Wilds」を愛しているのか

 ……まだ説明が足りないだろうか。確かにここまでは「ゲームプレイの説明」であって、「このゲームの何がそんなに素晴らしいのか」という説明にはなっていない。そして「このゲームの何がそんなに素晴らしいのか」を語るためには、ちょっと踏み込んだ部分にまで言及する必要がある。

 筆者が「Outer Wilds」を素晴らしいと思うのは、本作が知的好奇心の肯定を行っているからだ。新しい場所に行くことはいつだってワクワクすることだし、新しいことを知るのはとても楽しい。知らなければ決してたどり着けないものがこの世には存在する。そして、知るためには、まず観測する……すなわち視ることが大切だ。

 本作は全体を通して「目」で視るというモチーフが繰り返し登場する。ハーシアンには4つ目があり、ノマイはどうやら3つ目の種族らしい。プレイヤーであるわれわれ人類には目が2つしか存在しないが、より良く知ることで彼らのように物ごとを視ることが可能になるかもしれない。

 本作はテーマ性の部分とゲーム性がかなり高いレベルで一致しているため、真相にたどり着いた時の感動がすさまじいことになっている。ゲーマーであればこれがどれだけ重い言葉なのかは分かるかと思うが、筆者にとっては本作は初代「Portal」をプレイしたとき以来の衝撃体験であった。

 テーマ性だけではなく、驚くようなビジュアルや素晴らしいサウンドトラック、そしてどこかもの寂しい牧歌的な雰囲気を兼ね備えた「Outer Wilds」は控えめに言って大傑作であり、地味だからといって見過ごすべき作品ではない。

 それぞれの惑星の極めて独特な性質や、物語の結末についてはここでは記述しない。それはこれから本作をプレイする一人一人が実際に視て、知って、体験することである。そうやって蓄積された知識は人類にとって3つめの目になってくれるだろう。

 最初は身体を操作することすら簡単ではないが、ゲームをプレイするのに十分な性能のPC(もしくはPS4かXbox One)を持っており、新しいことを自発的に知ることが好きなゲームプレイヤーであれば、本作を購入することで、誰でもその目を開くことができる。発売されたばかりのSteam版であれば7月10日まで33%引きのお値段で手に入れられるので、この機会にぜひ遊んでみてほしい。

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