インタビュー

なぜ私の周りには「厄介な人」がこんなにも現れるのか?――漫画『きょうも厄日です』山本さほインタビュー(3)

「『変態磁石』って呼ばれてます」

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 『岡崎に捧ぐ』などの作品で知られる山本さほさんは、なぜか厄介な人たちを引き寄せてしまう謎の能力の持ち主。トラブル続きな日々をつづったエッセイ漫画『きょうも厄日です』の中から、その一部を作者インタビューと合わせて公開します。(聞き手/構成:杉本吏)

漫画『きょうも厄日です』とは?

 街を歩けば不思議な人に出くわし、電車に乗れば面倒な人に絡まれ、旅行に行けばおかしな事件に巻き込まれる……。山本さほさんの身に降りかかる災難を、“笑い時々ホラー”なタッチで描きます。

作者プロフィール:山本さほ

 1985年生まれ。幼少時代からの親友「岡崎さん」との友情や子供時代の思い出を描いた自伝的作品『岡崎に捧ぐ』がネット上で話題となり、漫画家に。現在、『きょうも厄日です』(文春オンライン)『無慈悲な8bit』(週刊ファミ通)連載中。

ドラゴンボールぽろりんおじさん

山本さほ先生インタビュー(3)

――この「ドラゴンボールぽろりんおじさん」もそうですが、どうして山本さんの周りにはこんなにおかしな人ばかり現れるんでしょう?

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山本: なんなんでしょうね。友達からは“変態磁石”って言われたことがあるんですけど。漫画家になってからはあまり家を出てないので、こういうことも減りましたが、このリサイクルショップでバイトしてたときなんかは漫画にもできないような事件がたくさん起こりました。

――そういう出来事をずっと個人ブログに書いていたんですよね。

 十年以上ブログに書き続けてて。この頃は毎日友達とSkypeをしてたので、そこで報告したり、飲み会でも「今日こんな変なことがあってさー」って。そういう話をして友達や読んでる人を笑わせるのが好きなんです。

――もしかして、他の人にも同じくらい変なことは起こってるんだけど、山本さんはそれをスルーしないで残らず表現してるだけなのかもしれませんね。

 そういう部分もあると思います。たとえば今回の話のように、女性って生きてるだけで生涯に何十回とおかしな人に出くわすと思うんですよ。それを「嫌な目にあった」って思ってすぐに忘れるか、私のようにネタにして話したがるかの違いというか……もちろん嫌なことは忘れちゃっていいんですけど。

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――山本さんの別の作品では「エッセイ漫画は人生の切り売り」という言葉が出てきます。

 漫画家になった最初の頃は、「すぐにネタ切れするんじゃないの?」みたいなこともけっこう言われました。そのたびに「余計なお世話だよ」と思ってたんですけど。

 でも、最近『この町ではひとり』という作品のあとがきにも書いたんですけど、「漫画にするとその出来事を忘れていく」っていう。形にした途端に忘れていくんですよね。ブログに書いたり、友達に話したりしていたときには大丈夫だったのに、漫画にすると頭の中からなくなって、その後はうまくしゃべれなくなる。「あ、これ切り売りしてるわ」って。

――『きょうも厄日です』には、SNSでストーカーにあっていて、被害は収まったけれど結局犯人は分からなかった、という話が出てきます。『この町ではひとり』も、周囲との関係に苦しんだ一年間を描いた実話で、決して明るい内容ではないですよね。

 いま世間が求めてるのって、テレビ番組の「スカッとジャパン」みたいな話じゃないですか。みんなイライラしていて、最後に水戸黄門みたいに鉄拳制裁をくらわせて「全員ハッピー」みたいなのが読みたいと思うんですけど、現実って全然そんなじゃなくて。ストーカーの犯人が分からなかったとか、引っ越した町から一人で逃げ帰る、とか。

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 でも、これはけっこう気を付けてることなんですけど、嘘は絶対描かないようにしていて。

――いわゆる「話を盛る」みたいなことですか?

 やたら良い話に仕立てたりとか、現実には起こっていない嘘のオチを持ってきたりとか。私はそれを「ドーピング」って呼んでるんですけど。

 一回それをやっちゃうと、その後もずーっとやり続けなきゃいけなくなるんですよ。しかもそれがバレたときに、他のおもしろい(本当の)話まで、全部疑わしく思えてきちゃう。私がそれをやったら、最終的に「(『岡崎に捧ぐ』の)岡崎さんってほんとにいるの?」ってとこまでいっちゃうんで(笑)。

――「主人公(山本さん)に芯がないのが、何かを強制される感じがしなくてむしろ良い」というレビューも見かけました。

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 芯はないかもしれないです。流されやすいし、漫画に出てくる変な人たちに対しても「描いて糾弾してやろう」みたいな正義感とかは全然なくて、それよりも「今日こんなやばいことが起こったんだけど聞いてよ!」みたいな。だからやっぱり、ブログとか飲み会で友達に話してるのと同じ感覚なんですね。

(インタビュー終わり)

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