連載

意味がわかると怖い話:「占いアプリ」(1/2 ページ)

占いを信じるようになったきっかけは……。

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 ひとたび気づくと、なにやら違う光景が見えてくる……「意味がわかると怖い話」を紹介する連載です。

「占いアプリ」

 さる士業で事務所を開くH山さんは、自身の体験から、それまで馬鹿にしていた「占い」を信じるようになったという。

 ある日、シンガポールに赴任中の商社に勤める友人からメールが届いた。「今はこんなアプリもあるんだな。興味があったら」そんな文面とともにリンクが張ってあり、飛んでみるとスマホ用ストアの「百八相占術」という無料アプリのページだった。

 スマホのカメラで両手のひらを撮って送ると、AIが画像を解析して数万人分のデータをもとに、その場で手相占いができる……そんな概要が書かれていた。

 H山さんは最近、亡くなった先輩を継いで某アプリ開発会社の顧問に入ったので、業界と市場を知っておくために「変わったアプリを見つけたら教えて」と、いろんな人に言っていたそうだ。しばらく会っていない友人だが、それを律義に気にかけていてくれたのだろうと心和んだ。表示されているレビューの評価も高く、無料だというので、さっそくインストールして試してみることにした。

 両手の写真を撮って「送信」というボタンを押すと、ほとんどラグなく診断結果が表示された。生命線や頭脳線と言ったH山さんも聞いたことのある掌線の説明とともに、「成功し、富を得られ晩年に至るまで幸福な相」だなどと悪くない内容が書かれていた。

 ただ、末尾に気になる一文があった。「近く、身に覚えのない疑いをかけられ、それによって離れていく人があるかもしれませんが、それで良かったと思える日が来ます」……そんな文章だった。最初の画面に戻ったが、それ以上の機能はないようで、H山さんはアプリを削除した。

 忙しい日々の中で、占いのことなどすっかり忘れていたひと月ほど後。H山さんの事務所に泥棒が入った。夜中にオフィスに侵入し、いくつかの書類ファイルが盗まれた。契約している企業の代表者名簿などで、「機密」と呼ぶほど大層なものはなかったが、奇妙だったのは明らかな物色の形跡にも関わらず、オフィスの鍵が壊されたり、こじ開けられた形跡がなかったことだ。

 クライアントの鍵メーカーに口説かれて、事務所では指紋認証式の最新の電子錠を使っていた。記録を確認すると、最後に出入りしたのはH山さんになっており、一時は自作自演を疑われたそうだ。

 その日は出張中だったことから疑いは晴れたが、顧客の一社――例の、先輩から引き継いだアプリ開発会社だ――の担当役員が乗り込んできて名簿の紛失を激高され、契約を打ち切られたのは、盗難自体よりキツかったそうだ。

 そのアプリ会社が、ダミー会社を使って巨額の所得隠しをおこなっていたことが内部告発によって発覚し、社長が逮捕されたのは半年後のことだった。

 H山さんの前任者の時代に完成したスキームだと分かり、幸いにも彼は「騙された側」だと認定された。企業名簿の盗難に、あの会社の役員が血相を変えた理由が分かったという。

「近く、身に覚えのない疑いをかけられ、それによって離れていく人があるかもしれませんが、それで良かったと思える日が来ます」

 アプリの占いの通りだと、H山さんは思い出した。しかし、ストアページは既に消えていて、送り主の友人に尋ねても「そんなの送ったっけ? 別の誰かと勘違いしてるんじゃないの?」と言われてしまったそうだ。そんな不思議な経緯もあったが、以後H山さんは占いを信じるようになったという。

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